日本シリーズ、北海道日本ハムファイターズ対読売ジャイアンツの第５回戦は、２対10でジャイアンツが勝利した。この勝利でジャイアンツが日本一に王手をかけた。

　不可解な判定だった。５対２と３点リードで迎えた４回、ジャイアンツは先頭打者の寺内崇幸が、ファイターズのエラーで出塁。続く加藤健が送りバントの姿勢を見せたが、ファイターズの２番手投手、多田野数人の初球をファール。内角高めの球に、加藤はその場に倒れた。
　しかし、球審の柳田浩一審判員は、これを死球を判断。さらに頭部への危険球と見なし、多田野に退場を命じた。
　柳田審判員は試合後、「難しい判断ですが、自分の判断を尊重します」と説明したが、スポーツ紙各紙はこのジャッジを「誤審」や「疑惑」といった言葉で紹介している。

　はたして件のジャッジが正しかったのか否かは他に譲るが、ここでは危険球の定義の見直しを提案したい。

　公認野球規則では「危険球」という用語は用いられていないが、その8.02(d)で「バッターを狙って投球すること」が禁じられており、「これを投球した投手およびそのチームの監督には、審判員により退場を宣告もしくは同様の行為をもう一度行った場合は即刻退場させる旨の警告が発せられる」とある。
　またアグリーメントの39条にも、「投手の投球が打者の顔面 、頭部、ヘルメット等に直接当たり、審判員がその投球を危険球と判断したとき、その投手は試合から除かれる」とある。

　だが、アグリーメントには続きがある。「頭部に直接当たった場合でも、審判員がその投球を危険球とまではいえないと判断したときは、警告を発し、その後どの投手であろうと再び頭部に当たる投球を行ったときは退場とする」とされている。

　つまり、頭部への投球でも危険球か否かは、審判の判断に委ねられるのが本来なのだ。

　件のジャッジも話しを戻そう。ファイターズはこの回までに５失点。２点を返しているが、この試合の勝利には、これ以上の失点は許されない。
　そんな中、４回、先頭打者の寺内が出塁。打席の加藤は送りバントでチャンスを広げようとしている。
　このような状況で、はたして多田野が意図的に、加藤にぶつけようとするだろうか。どう考えても、そうは思えない。

　また送りバントは腰を落とすため、普段のフォームに比べ、打者は頭部がストライクゾーンに近づく。頭部がストライクゾーンに近づけば、死球になる可能性も高まる。

　そんな状況下で柳田審判員は、多田野の内角高めの投球が加藤の頭部に当たったと判断。危険球で多田野に退場を命じたのだった。

　誤審自体、あってはならないが、危険球の定義も見直すべきだ。審判員はアグリーメントに従い、試合の状況や打者の構えなどから、危険球か否かを判断すべきではないのか。

　米メジャーリーグには、危険球に相当する言葉は無い。投手が退場になるか否かは、頭部に当てたか否かではなく、故意か過失かによって判断されている。このため審判員には、冷静で適格な判断が求められる。
　一方、わが国は頭部に当たったという事実だけで、危険球と判断する。そこには、投手の故意も過失も無い。あるのは事実だけだ。
　これでは、審判員の成長は見込めない。危険球の判断は、アグリーメントに則るべきではなかろうか。