石原慎太郎の冒険の終わり

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今回はuncorrelatedさんのブログ『ニュースの社会科学的な裏側』からご寄稿いただきました。
■石原慎太郎の冒険の終わり

東京都知事の石原慎太郎氏の日本外交を危機に晒すための冒険が終わったようだ。政府が尖閣諸島を購入することになった。

尖閣諸島に船溜などの施設を建設して日本の実効支配を誇示すると言うものだが、国際法や軍事面から見て意味が無く、国際的には尖閣諸島に“紛争”がある事を宣伝してしまい、中国人民を挑発するだけだからだ。既に中国でデモから暴動も発生しているが、これに拍車をかける意味が無い。

日本側の主張を中国政府や中国国民に通すには粘り強い広報活動は求められ、稚拙な挑発行為は回避すべきように思われる。

●1.国際法上は意味が無い
国際法では紛争発生後の実効支配は法的根拠とならない。ゆえに1971年以降の日中の行動は領有権の根拠にならないし、そもそも徴税など政府活動が重要になり、建設物が実効支配の根拠にはならないようだ*1。国際世論を考えても、実行支配しており領土問題は無いとしている日本が国際社会にアピールすべきものがない。竹島問題における韓国の行動が、欧米のメディアが日韓の領土紛争問題を報じる結果になった*2事は良い参考事例になる。

*1『国際法から見た竹島問題』の国際判例からの分析や、『尖閣諸島の領有をめぐる論点』を参照。1955年、1956年から久場島と大正島を実弾演習地域として米軍に貸与しており、これは実効支配の根拠になるようだ。中国人が購入して固定資産税を払ってくれるのであれば良いのだが。

『国際法から見た竹島問題』
http://www.pref.shimane.lg.jp/soumu/web-takeshima/H20kouza.data/H20kouza-tsukamoto2.pdf
『尖閣諸島の領有をめぐる論点』
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0565.pdf

*2 The Diplomatは韓国側の挑発行動を無責任だと批判しているし、The Economistは韓国が国内政治事情で挑発行動を行っていると分析している。韓国側の主張は支持されていない。

「South Korea’s Irresponsible Diplomacy With Japan」2012年9月4日『The Diplomat』
http://thediplomat.com/the-editor/2012/09/04/south-koreas-irresponsible-diplomacy-with-japan/
「Lame ducks and flying feathers」2012年9月8日『The Economist』
http://www.economist.com/node/21562239

●2.軍事的にも意味が無い
軍事的には日米安保条約の対象内と言う事で、中国を十分に牽制できている*3し、尖閣諸島に小規模施設ができても状況は変わらないであろう。何はともあれ海軍力勝負でこられたら、海上自衛隊の強化で対抗するしかないので、要塞以外の建設物は役立たない。ロシア、インド、ベトナム、フィリピンと軍事衝突を辞さない中国に、船溜など意味が無い。

*3 中国外務省は日米安保条約の対象との見解に、批判を行っている。
「中国、尖閣安保適用に反発 日米中戦略対話求める声」2012年7月26日『産経ニュース』
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120726/chn12072600100000-n1.htm

●3.中国政府や中国人民が納得することもない
中国の国内世論を考えても逆効果だ。中国共産党が間違いを認めることは政治体制上はあり得ないし、尖閣諸島に建造物が作られたからといって、中国人民が日本の領有権の正当性を認めるとは思えない。韓国政府が竹島に建造物を作り部隊を駐留させているが、それで韓国の領有権を認める日本人が増えているわけではない。尖閣諸島の国有化方針に対して、環球時報の世論調査は中国市民の91%が「武力行使」も支持としている(産経ニュース)。石原都知事の言動は、反発を大きくいているだけに思える*4。