リクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」「就職ジャーナル」を歴任し、現在は人材育成コンサルタントとして活躍する前川孝雄氏。とある就職セミナーに講師として招かれた時に、貴重な経験をしたといいます。
 
 前川氏が社会に出て働く意味などを大学生に話していたのですが、最後の質疑応答でひとりの学生が噛みついてきたのです。

 「お話を聞いていると、自分のやりたいことがあっても、それをねじ曲げて会社に合わせろと言っているように聞こえます。僕はやりたいことがあります。どうしてそれをねじ曲げてまで会社に合わせないといけないのですか?  それが就職というものなんですか?」

 実に大学生らしく、毎日のように同じ意見を聞いている前川氏は微笑ましく感じていたのですが、隣に座っていたある企業の40代管理職の方は違ったようです。
 
 突如、烈火のごとく怒って「お前は何様だ!  そんなにやりたいことがあるんだったら、就職なんてしなくていい。ひとりで会社でも作りなさい!」と、その学生を怒鳴りつけたのです。会場はシーン。叱られた学生は見るからにショボンとしてしまい、会場には何ともいえない空気が漂いました。

 しかし、話しはこれで終わりません。セミナーが終わって控室に戻る途中、さきほど怒鳴った管理職の方が、前川氏に「さっきの彼いいね」と言ったのです。

 学生や20代の会社員のみなさんは、この言葉の意味がわかりますか? 

  答えはシンプルです。管理職の方は続けてこういったそうです。「あいつみたいな奴が部下なら、徹底的に鍛えたいな」。実は噛みついてきた彼の尖っている部分を評価していたのです。骨があると思ったのでしょう。ですが、ストレートに褒めるのではなく、一度叱ってみせたのです。

 難しいですよね、大人が何を考えているかって。大人や先輩の社会人はとにかく「自分探し」「自己実現」をあまりよくは思っていないのです。むしろ毛嫌いしている程。
 
 それは、本当にやりたいことができるのが、社会人として20年くらい経って、人と組織をちゃんと動かせるようになってからだということを、自身の経験から知っているからなのです。学生に人気のある大企業なら、なおさらそうでしょう。

 本当のことをいうと、社会人の経験の長さは、その人の実力がそのまま反映されるし、「丁稚奉公」には若者が思っている以上に大きな意味があります。これは昭和だろうと平成だろうとあまり関係のないこと。

 ですが、最近の若い人は、自分のやりたいことを今すぐにやらないと意味がない、成長できないと信じ込んでしまっているようです。良くいえば真面目なんですが、悪くいえば視野が狭い。

 物心ついてから10年くらいの間に決めたこと、もっと言えば、就職活動中の半年から1年の間に自己分析した結果で、自分の人生を決めてしまっていいのでしょうか。皆さんも正直なところ、自分のやりたいことが本物なのか、と常に逡巡しているのではないでしょうか。
 
 少し社会人を経験し、もっと軽くこまじめに会社(社会)の仕組みを理解したうえで、そのなかをうまく泳いでいこうと考えてはどうでしょう。そのためにはまず、「会社組織のなかで会社員として働くこと」を正しく理解することが必要なのです。


『勉強会に1万円払うなら、上司と3回飲みなさい 』
 著者:前川孝雄
 出版社:光文社
 価格:777円
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