一青窈(撮影:野原誠治)
 昨年12月、未発表の新曲「受け入れて」の着うた(R)を期間限定で無料配信した一青窈。1月30日には11作目のシングルとして同曲のオリジナル・バージョンを発表した彼女が5日、前作「&」より2年3ヶ月振り4作目となるアルバム「Key」を発表する。音楽療法と出会い、聴く人を元気にする歌を歌いたいと語る彼女から届けられたのは、未知なる新たな世界への扉を開き、前へ踏み出すための魔法の“鍵”。

■ベストアルバム「BESTYO」を挟み、その前のサードアルバム「&」から2年3ヶ月ぶりのアルバムとなりますが、今作を作るにあたって事前に考えていたことはありますか?

一青窈(以降、一青):武部さんとデビュー当時からずっと言っていたことなんですけど、コンセプトアルバムを作りたいと思っていて。ただ、シングルを切っていくとどうしても、そのシングルを集めたものに整合性をつける形になってしまうので。2年ぐらい時間があったことも含めて、「じゃあ、本当にコンセプトアルバム作ろうよ」ということが出来たのが今回だったんですよ。だから、時代の流れとは逆行しているかもしれないですけど、曲間もinterludeも含めて、ちゃんと一枚として世界観を作り上げるというのは一番出来たと思っています。

■今作のコンセプトは、どのような内容になりますか?

一青:スピリチュアルなことは結構好きなんですけど、私自身はUFOとかを見たこともないですし(笑)。でも魔法のようなことって、この世界の中で割と身近な所で、実は全ての人がやっていることじゃないかな?と思って。それはコンビニだろうが山の上だろうが、音楽を聴いたり、自分の原風景と近いものを見た時に、思い出に引き戻されることってありますよね。あるいは自分が知らないものに出会った時に、自分で新しい道を作り出していったり。それをちゃんと音や言葉で提示することで、寓話ではないけど、リアルファンタジーみたいなものを描いていければと。

 今は情報が溢れているから、何を選ぶか迷いがちだと思うんです。芝居でも映画でも音楽でも、扉はどこにでもあるんだけど、その鍵が転がっていて、それを開いた瞬間に前向きな世界が広がっているということを言いたくて。ニュースは現実だけを突きつけて終わりだったり、ドキュメント性の高い作品はもちろん胸には来るんですけど、私は楽しい気持ちを残す、元気になるという方向を目指したいなと。私は元々、音楽療法に関心を持ったことがきっかけだったということもあって、そんな歌を歌いたいと思っていたことも含めて、ちゃんと前向きな方向を提示する。私の生き方として、「私はこういう所を見つめている」というのを見せられたらいいんじゃないかなと思って。痛いとか、悲しいと感じるアルバムは作りたくないんです。

■扉って、内と外との境界線だと思うのですが、歌詞を見ていると外の世界が多く描かれていて。誰もが幼年時代の心象風景を呼び起こすような公園の景色だったり、自分の内面ではなく外に向かっていると言うか、ちゃんと聴く相手のことも見えているんだなと感じました。アーティストの方の中には、自分の内にある心情を割と一方的に吐き出していく方もいますが。

一青:そうですね。その考え方に共感できると多分、腑に落ちて何回も聴いたり、涙を流せたり、感情が流れ出すんですけど。「俺はこうだぜ!」「私はこう思っているの!」は10代、20代だったら求めていたと思います。そういう歌も好きでしたし。今は30代になって、より明るい方向にシフトしてきました。私は昔「アンチハリウッド映画を支持します!」みたいな所もあったんですけど、今はむしろ「バンザイ!」という思いです(笑)。アニメにしてもディズニーにしても、あのキラキラした感じが良く出来ているじゃないですか。谷川俊太郎さんとか金子みすずさんのように、ちゃんと簡単な言葉を使って現実も、未来の明るい部分も切り取っていくというが私の目指す所なので。そういう、もうちょっと削ぎ落としていく方向に自分はいるのかもしれないですね。フックがたくさんある音楽とかは好きなんですけど、あまりにもフックが多すぎると聴くのも大変だと思うようになってきたんです(笑)。