コーンがびっしり、キーマカレーが日の丸弁当のように…大胆なビジュアルだが、いずれもスリーコインで買えてしまう

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ご飯240グラム、おかずは一つだけ

 フタを開けると、目に飛び込んでくるのは白いご飯と、たった1種類のおかずだ。秋田名物の塩辛い鮭「ぼだっこ」は、日の丸弁当の梅干しのようにご飯の真ん中に載っている。彩りを添える副菜も、仕切りのバランもない。この思い切った見た目に、ネット上では手厳しい声も上がっている。

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《これ、ストレートに最適な言葉で言い表すなら「貧乏弁当」ですよ》

《商品名も「貧乏弁当」にすればいい》

 ローソンが「一点突破すぎ!」と名付けた弁当シリーズだ。9月22日から全国の店舗で順次発売され、「ごはんがすすむ ぼだっこ(鮭)」は税込297円。「敷き詰めごはん てりやきソーセージ」は397円で、約6本分のソーセージがご飯を覆う。9月29日には297円の「敷き詰めごはん 焼とうもろこし」なども加わった。ご飯は約240グラム。具材を1種類に絞ることで、同サイズの弁当より価格を最大5割抑えたという。

コーンがびっしり、キーマカレーが日の丸弁当のように…大胆なビジュアルだが、いずれもスリーコインで買えてしまう

 おかずが一つだけの弁当に、食費を切り詰める暮らしを重ねたくなる気持ちは分かる。だが、発表会場で実物を見た筆者の感想は、「よく出したな」だった。

 コンビニ弁当は長年、おかずの種類や彩り、栄養のバランスを意識して作られてきた。そのコンビニが「ここまで削ってもいい」と腹をくくり、297円で買える選択肢を用意した。元商品開発担当者として注目したのは、その安さを実現した工夫である。

「もう一品」をやめると、何が安くなるのか

 筆者はローソン時代に商品開発を担当し、780品を超える商品に携わってきた。その経験から見ると、この弁当のポイントは、単におかずを減らしたことではない。製造工程を単純にしたことにある。

 弁当のコストは食材だけで決まらない。容器やフィルム、仕切り、副菜にもお金がかかる。工場では、おかずの種類が増えるたびに仕入れ、調理、盛り付け、在庫管理の手間も増える。家庭なら「もう一品足そう」で済むが、何万食も作る工場では、その一品が新たな工程になる。

 その点、おかずを1種類にすれば、盛り付けの手間を減らせる。その選択も、「鮭」は秋田名物としての話題性や、「少量でもご飯が進む塩辛さ」に商品設計上の意味がありそうだ。ひとすくいのカレーが載った「激辛キーマ」もその文脈だろう。一方、 「ソーセージ」や「コーン」は、ほかの弁当でも大量に扱う定番食材。それらをおおう容器に簡易なフードパックを使えば、仕入れの面でも工夫できる。担当者は「中身にお金をかけた」と話していた。見栄えを整えるための費用や作業を抑え、その分を約240グラムのご飯と一つのおかずに振り向けたわけだ。

 コンビニの商品開発では、「彩りが寂しいから野菜を」「もう一品おかずを」と足し算になりやすい。もちろん、そうした弁当を求める客もいる。だが、297円弁当は、何を追加するかではなく、必要なものだけを残すことで価格を下げた商品なのである。

 この発想の先例には、ローソンストア100の「だけ弁当」がある。おかずがウインナーだけ、鶏そぼろだけ……といったシンプルさと低価格で話題となった商品で、今年発売5周年を迎えた。現在の「だけ弁当」の価格は税込322円。一方、通常のローソンで売る「ぼだっこ」などは税込297円だ。商品ごとの内容は異なるが、税込価格ではローソンストア100の「だけ弁当」を下回る。

 低価格業態で育った発想が、青い看板の通常のローソンにもやってきた。安さを強く求める需要が、通常のコンビニにも広がっていることには、筆者も少し寂しさを感じる。ただ、家計の厳しさと、それに応える商品の評価は分けて考えたい。食費を抑えたいとき、身近な店で297円の弁当を選べることは、消費者にとって助けになる。

米価が下がれば、弁当も安くできる?

 この価格を考えるうえでは、米価の変化も見逃せない。農林水産省が公表したスーパーのPOSデータによると、2026年9月14~20日の米5キロの平均販売価格は税込2,934円。1年前より1,312円安かった。

 スーパーの店頭価格が、そのままコンビニ工場の米の仕入れ価格になるわけではない。ただ、米の市場価格が下がれば、ご飯の比率が高い商品の価格を見直す余地は生まれる。ファミリーマートは9月22日から一部のおむすびを税込11円値下げし、ローソンも9月29日から手巻おにぎり全品を一律10円値下げした。

 おにぎりは原材料に占める米の割合が大きい。一方、おかずが何種類も入った弁当には、肉や魚、野菜、調理や盛り付けの手間など、米以外のコストも多い。米価が下がったからといって、通常の弁当を大幅に安くするのは難しい。

 その点、ご飯をしっかり入れ、おかずを一つに絞った弁当は、米価の変化を生かしやすい設計だ。ただし、297円という価格がどの程度、米価の低下によって可能になったのかは、外からは分からない。確かなのは、食材と工程の両方を絞ることで、低価格を実現しようとしていることだ。

297円と994円が同じ店に並ぶ理由

 ここまで低価格を追求したローソンだが、実は安い商品だけを増やしているわけではない。同じ時期に、3種類の肉を使った「贅沢すぎ!肉づくし冷し中華」と、海老、イカ、あさりを使った「贅沢すぎ!海鮮づくしペスカトーレ」を、それぞれ税込797円で発売した。「肉オールスター弁当」は994円だ。

 297円の弁当と1,000円近い弁当が、同じ店に並ぶ。毎日の昼食にはできるだけお金をかけたくない人もいれば、「今日は食べたいものを買おう」と考える人もいる。同じ人でも、日によって使い分けるだろう。ローソンはその両方に商品を用意している。

 背景には、食費が家計に与える重さの違いもある。総務省の家計調査によると、2025年の二人以上世帯のエンゲル係数は28.6%。年間収入280万円未満の層では34.4%、1,152万円以上の層では24.1%だった。同じ食料品の値上がりでも、受け止め方は家計によって異なる。

 所得による節約の切実さの違いと、同じ人が「普段の節約」と「たまの贅沢」を使い分けるメリハリ消費。その両方に応えようとすると、売り場には297円と994円の弁当が並ぶことになる。もちろん、低価格を競うだけでは、工場や物流、加盟店に負担がかかりかねない。今回注目したいのは値札の安さそのものより、価格を抑えられる形を商品開発の段階から考えたことだ。

 食費を切り詰めなければならない暮らしが広がっているのなら、その現実を喜ぶことはできない。ただ、食費を抑えたい人にとって、身近なコンビニで297円の弁当を買えることは助けになる。安くお腹を満たしたい日はこの弁当を選び、少し贅沢をしたい日は別の商品を選ぶ。副菜が欲しければ、自分で足すこともできる。筆者が評価したいのは、その選択肢を増やしたことだ。297円弁当は、ただの「貧乏弁当」ではない。限られた予算に、商品開発の工夫で応えた弁当なのである。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。近著に『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(馬渕磨理子氏と共著、フォレスト出版)がある。

デイリー新潮編集部