「昔は警察が慰安旅行で来ていた」元売春小屋経営者が明かす、島がめったに摘発されなかったワケ、逃げ場のない外国人女性を「絞れるだけ絞ったれ」という悪徳店も
三重県志摩市の離島・渡鹿野島。かつて"売春島"と呼ばれたこの島で、元暴力団組員の寒川総一郎さん(仮名)は、1990年代初頭から2016年まで、断続的に「置屋」と呼ばれる売春斡旋所を経営してきた。
【写真を見る】娼婦たちが生活した部屋や、かつて島の顔だったホテル”つたや”
置屋で働く女たちの中には、フィリピンやタイから来た外国人も少なくなかった。彼女たちを、誰が島へ連れて来たのか。そして、非合法の商売が長く続いたのはなぜか。
ノンフィクションライター・高木瑞穂さん(Xアカウント:@takagimizuho2)の著書『売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』(彩図社)より、一部抜粋して紹介する。【全3回の2回目】
女のコのネットワーク
島へやってくる外国人女性たちは、だれが斡旋しているのか。
「女のコのネットワーク。全国には出稼ぎに来ている外国人が無数にいます。そのツテで情報交換して稼げる場所に移動するのです。だから私が雇っていた女のコに『誰かおらんか?』と聞けば、友達が『九州におるよ』、『茨城におるよ』と。『写真見せてみい』と確認し、『このコ呼べ』、『いま忙しいからおいで』と誘って連れて来させたり。
日本人はブローカーが連れてくることが多かったけど、外国人の場合はほとんど紹介でした。渡鹿野島では、フィリピンやタイに行って直に買って来るとか、直にブローカーと接触するとかは聞いたことがありません。観光ビザで来日して、そのまま不法滞在しているコが多かったですね。
でも、それは昔の話で、今は不法滞在のコは皆無に等しいでしょうね。ビザが切れたら基本、本国に帰します。だから日本人と国際結婚するなどして永住権を持っているコが多い。もちろん店も不法滞在のコは雇いたくない。危ないですから。
いくら非合法の商売であっても、また警察のお目こぼしがあるといっても、やっぱり相手(警察)の顔も立てないとね。だからこそ商売を続けられているという頭があるから。法律だけで取り締まればとっくに潰れていますよね。
その証拠に、昔は他県の警察関係者が慰安旅行で来ていたりなど、警察官もいっぱい遊びに来ていました。もっとも、さすがに地元の警察は遊びに来ませんでしたけれど。
そうして警察の顔を立てることで、この島は未成年、不法滞在、クスリ……女のコが警察に駆け込んだとか、何か悪質なことをしない限りパクられません。現に、私は置屋の関係で捕まったことは一度もない。2010年から一昨年(2016年)までの4回目にしても」
「ほとんど自由にさせていました」
寒川さんの話によれば、よほど悪質でない限り警察は、売春については目を瞑っていたことになる。それでも泳いで逃げた女の告白、警察に駆け込んだ女を端にした摘発報道……男の置屋も、2回目は女が逃げて閉店の憂き目に遭っていた。噂ではなく、そうした事例が実在する。やはり娼婦たちを厳しく管理したに違いない。
「旅行客じゃない、鵜方や阿児(いずれも対岸の志摩市内の地区)など地元の客が遊びに来る場合があります。そんな男と女のコが仲良くなって、休みになると『ちょっと遊びに行ってくるわ』みたいなケースがある。
それが嵩じて外の男とデキて、店をヤメられてしまっては困るから、遊びに行く際に送り迎えするとか、そうして予防線を張ったりはしました。
でもその程度です。ほとんど自由にさせていました。だから、店をヤメる場合も『今までご苦労さん』と、あっさりしたものです」
「絞れるだけ絞ったれ」
「もちろん厳しく管理する店もあったのですよね」
「うーん、『島で軟禁しとる』とか、世間がイメージするような凶悪な話は聞いたことがないんやけど。まあ、なかには悪い経営者もいたんかなぁ。もちろん日本人ではなく外人に厳しくしとったんやと思うけど」
「なぜ外国人だけに」
「異国やから逃げ道が無いから。不満があっても居座るしかないから。ましてや昔は不法滞在のコが多かったから。日本人と違って相談する相手も居らんやろうから、カネを『絞れるだけ絞ったれ』って」
男はそう自嘲した。だからフィリピン人女性が集団脱走した報道があったのだろう。
1992年2月の当該記事によれば、外国人は給与制で、いくら売春しても月20万しかもらえていなかったとされている。男の店はどうだったのか。
「いや、ウチは日本人と同じ折半でした。だから不満もありませんでした。でもね、取り分は6対4の分配率だったり、店によって違うんです。にしても、さすがに月給制は聞いたことがない。あとね、取り分が折半でも『つたや』(かつて島の顔として君臨した大型ホテル)みたいにアパート代、賄い代、プレイ部屋代などを取る置屋もあったからね」
男は、月給制については明確に否定した。しかし売り上げの分配が極端に低ければ、自ずと20万ほどの実入りになっても不思議でない。さらにアパート代、賄い代、プレイ部屋代なども搾取されれば言わずもがな、である。
対して日本人女性は、そうして逃げ出すほど搾取されてはいなかった。いや、当時は外国人より圧倒的に需要があったというから、そうして搾取されても、単にそれ以上に稼げていただけかもしれない。だから不満が漏れなかっただけなのかもしれない。
それはアパート代、賄い代、プレイ部屋代などを徴収していた『つたや』が、日本人メインで稼働していたことでも明らかだろう。裏を返せば、外国人は、稼ぎの良い日本人を妬んだだけなのかもしれない。
そうして"売春島"には、多くの若い日本人女性がカネを求めて生息した。客も多く、確実に稼げる猟場だった。
最終回となる第3回では、島の伝説として語り継がれてきた"泳いで逃げた女"を取り上げる。男は「絶対にいない」と断言した。それでも、女たちを島に縛りつける仕組みは確かに存在していたのだ──。
(第3回を読む)
