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自身の老齢年金と遺族年金は特例的に併給できますが、受給には申請が必要です。すでに遺族年金を受け取っていても、請求手続きをしなければ自分の老齢年金はもらえません。また、遺族年金に上乗せされる「中高齢寡婦加算」は妻が65歳になると自動的に打ち切られるため、仕組みを知らないと支給額の減少に慌てることになります。本記事では、日本年金機構からの〈緑色の封筒〉を放置した65歳女性の事例をもとに、年金制度の注意点をCFPの山﨑裕佳子氏が解説します。

「年金が増えると思っていたのに…」月14万円の遺族年金で暮らす65歳女性の誤算

ヒロコさん(仮名・65歳)は5年前、当時59歳だった夫を病気で亡くして以来、郊外の戸建てで一人暮らしをしています。現在は無職で、これまでは月額約14万円の遺族厚生年金を頼りにしてきました。

一人暮らしには十分のようにも思えますが、夫が亡くなったときに葬儀費用と墓の購入費で預金を使いました。車のローン残債120万円も一括返済したため、現在の預金残高は約500万円です。

この先、自分の医療・介護にまとまったお金が必要になるかもしれないと考えているため、預金にはなるべく手をつけたくありません。

そのため、年金14万円のうち、1ヵ月の生活費を10万円に設定して、毎月4万円を貯金しています。住宅ローンはありませんが、固定資産税や自動車税、保険料などは毎月4万円の積立貯金から支払っています。

【ヒロコさんの生活費の内訳】

食費:4万円

水道光熱費:1万5,000円

通信費:8,000円

日用品費:1万円

美容費:5,000円

ガソリン:5,000円

交際費・その他:1万7,000円

貯蓄:4万円

そんなヒロコさんも、ついに65歳の誕生日を迎え、待ちに待った年金支給日がやってきました。

「今回からは自分の年金も振り込まれているはずだからいつもより多いはず。今日は少し贅沢してランチして帰ろうかな」とウキウキ気分で銀行に向かいました。

ところが、ヒロコさんは通帳に印字された数字を見て、思わず目を丸くしました。振込額が明らかに減っていたのです。

「あれ、28万円もらえるはずでは? 増えるどころか17万4,000円しかない……」

何が起きているのか理解できないヒロコさんは、大慌てで年金事務所へ駆け込みました。

年金の支給額が月5万円も減少…放置していた「緑色の封筒」の中身

年金事務所の担当者に事情を説明し、確認してもらうと、ヒロコさんの勘違いが発覚。今回の年金支給額に間違いはないことがわかりました。

担当者から「誕生日の約3ヵ月前に、日本年金機構から『緑色の封筒』が届きませんでしたか?」と尋ねられ、ヒロコさんはハッとしました。たしかに自宅には届いていましたが、開封せずに放置していたのです。「緑色の封筒」の中身は、年金受給手続きに関する書類でした。

ヒロコさんは、5年前からすでに夫の遺族厚生年金を受け取っていたため、あらためて自分の年金の受給申請をしなくても自動的に振り込まれると思い込んでいました。しかし、担当者はこう告げました。

「遺族年金を受給中であっても、ご自身の老齢年金は自動的には振り込まれません。自ら申請手続きをしていただく必要があるのです」

年金受給の手続きを怠っていたために、ヒロコさんの老齢年金は支給されていなかったのです。

「完全に自分の思い込みでした」と、自身の確認不足に肩を落とすヒロコさん。しかし、ふと通帳の金額に目を戻し、さらなる疑問をぶつけました。

「だとしても1回の振り込みが17万4,000円って少なすぎじゃないですか? 今までは28万円あったのに……」

担当者に質問すると、「中高齢寡婦加算」についての説明がありました。

【CFPが解説】「中高齢寡婦加算」終了の仕組み

中高齢寡婦加算は、遺族厚生年金の加算給付のひとつです。次のいずれかに該当する場合、年額63万5,500円(月額約5万3,000円)が加算されます。

1.夫の死亡時に40歳以上65歳未満で生計を同じくしている子のない妻

2.子が18歳*の年度末を過ぎたことで遺族基礎年金が受給できなくなった妻

*障害年金1級、2級の子は20歳

65歳までのヒロコさんが受け取っていた月額14万円の年金には、遺族厚生年金に加えて、中高齢寡婦加算が含まれていました。

しかし、65歳を迎えて中高齢寡婦加算が終了したにもかかわらず、ヒロコさんは自分の老齢年金の請求手続きを放置していました。その結果、本人の老齢年金は支給ゼロとなり、遺族厚生年金の8万7,000円しか振り込まれなかったのです。

【正しく手続きをした場合、本来もらえる年金額】

本人の老齢基礎年金:年額84万7,000円(月額7万円)

本人の老齢厚生年金:年額3万9,000円(月額3,000円)

*結婚前に厚生年金加入歴ありと仮定して計算(平均報酬月額20万円×36ヵ月で計算)

※ 本人に老齢厚生年金の受給権がある場合には、その老齢厚生年金相当額が遺族厚生年金から支給停止になる。つまり、単純に本人の老齢年金に遺族厚生年金を足した金額が受給額にはならない。

これらを合計すると、基礎年金(7万円)+老齢厚生年金(3,000円)+遺族厚生年金(8万4,000円)=月額15万7,000円となります。正しく手続きさえ行えば、ヒロコさんは65歳前よりも手取り額は増える計算になります。

「こんなに慌てることはなかった…」年金の請求忘れを防ぐための鉄則

「あの緑の封筒をちゃんと見ておけば、こんなに慌てることはなかったんですね……」

遺族年金を受け取っているから、自分の老齢年金はもらえない。もしくはヒロコさんのように手続きなしで自動的にもらえると思い込んでいる方は要注意です。

遺族厚生年金を受給中の人が65歳になると中高齢寡婦加算が終了するため、年金額が大きく減ることがあります。しかし、自分の老齢年金を請求すれば、受給額を回復することができます。

年金の受給権が発生する65歳の誕生日3ヵ月前に年金事務所から「緑色の封筒」が届きます。届いた案内は、必ず開封して中身を確認するようにしてください。また、不明点があれば早めに年金事務所に問い合わせをしましょう。

自ら請求を行わなければ、年金の支給は始まりません。なお、請求を忘れてしまっても、過去5年間分は遡って請求可能です。慌てずに年金事務所に問い合わせをしてください。

山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
CFP®

※個人情報保護のため、登場人物の情報等は一部変更しています。