(※画像はイメージです/PIXTA)

写真拡大

将来のために節約に励むことは素晴らしい一方で、必要な支出まで削ってしまうと、万が一の事態に絶望的な状況へ追い込まれることがあります。本記事では、年収650万円の25歳男性が、節約のために自動車保険の補償を削り、中古の軽乗用車に乗っていたことで直面した交通事故の悲惨な事例をもとに、本当に必要な備えについて、1級FPの大泉稔氏が解説します。

自動車保険の補償は最低限…世帯年収1,100万円・25歳夫婦の「節約志向」

トキオさん(仮名)は25歳の若さにして介護施設の施設長で、年収は650万円。妻・ヒロミさん(仮名・25歳)も別の介護施設で主任を務め、年収は450万円ほど。夫妻の年収は年齢の割に高収入です。

2人とも非常に真面目な性格であり、その真面目さは生活スタイルやお金の使い方にも表れていました。「将来、タワーマンションを買おう」「娘に私立小学校をお受験させよう」といった夢を描くことはなく、ただ「贅沢はしない」「お金は貯めるものだ」という強い信念を持っていました。

その節約志向は、カーライフにも及んでいました。トキオさんは、燃費はもちろんのこと、税金や車検などの維持費も抑えることができる中古の軽乗用車を購入。ヒロミさんも運転することがあるため、「軽乗用車は運転しやすい」というメリットもありました。

問題は自動車保険です。「全年齢」を対象とした補償よりも、対象年齢を「21歳以上」や「35歳以上」と引き上げるほうが保険料は安くなりますが、夫妻はともに25歳のため割高になります。

「自分たちが運転に気をつければ、保険のお世話になることはない」と考えた2人は車両保険をつけず、さらに「相手の車の自動車保険から補償を受けられるはず」と判断。自動車保険の補償内容から「人身傷害補償」を外し、対人対物補償のみのシンプルな契約にしました。

しかし、その判断が最悪の事態を招いてしまったのです。

交差点で突っ込んできた「無保険車」…一瞬で奪われた家族の日常

自家用車で、トキオさんは駅に、ヒロミさんは職場に、3歳の娘のセイラさんは保育園にそれぞれ向かっていたある日のこと。交差点の先頭で信号待ちをしていたトキオさんの車に、別の車が曲がり切れずほぼノーブレーキで突っ込んできたのです。

トキオさんは即死、ヒロミさんとチャイルドシートごと車内に投げ出されたセイラさんも重傷を負いました。

不幸なことに、トキオさんの交通事故の相手も任意の自動車保険に加入していませんでした。もしトキオさんの自動車保険に「人身傷害補償」があれば、保険会社が相手の自賠責保険に請求し、回収してくれます。

しかし、節約のために人身傷害補償を外していたため、その恩恵は受けられません。さらに、トキオさんは「信号待ち」で過失割合が「0」のため、自身が契約している自動車保険の示談代行サービスも利用できません。

任意保険というのは、あくまでも「任意」の保険であるため、加入率が100%ということはあり得ません。各種共済を含めた自動車保険の加入率は約9割ですが、つまり10台に1台の割合で「対人賠償」が無保険という現実があります。

自賠責だけでは足りない…無保険車傷害補償と損害額の現実

自賠責保険の被害者死亡時の保険金額の上限は3,000万円です。亡くなったトキオさんの損害額は以下のとおりです。

・逸失利益:1億143万3,150円

死亡時の年収650万円×生活費控除率0.7×ホフマン係数22.293

・慰謝料:1,350万円

・葬儀代:100万円

これらを合計すると、自賠責保険だけでは損害額の一部しかカバーできないことがわかります。

人身傷害補償がない場合でも、無保険車傷害補償が自動付帯となっているケースが多く、ヒロミさんはこちらに請求して損害を回収することが可能です(上限2億円、死亡または6級以上の後遺障害に限る)。

回収の切り札となる「弁護士等特約」の存在

また、ヒロミさんとセイラさんの損害や車の損害額についても回収が必要です。ヒロミさんの保険証券を確認すると「弁護士等特約」が付帯されていました。

弁護士等特約を利用すれば、交通事故の相手との交渉を弁護士に委ねる場合や、自賠責保険への請求書類作成を行政書士に委ねる際の報酬を、被害者1人につき上限300万円まで保険から支払うことができます。

今回のケースであれば、まずは相手の自賠責保険への請求を行政書士に依頼し、回収しきれなかった損害や車の損害について弁護士に相手との交渉を依頼することになります。

損害額が大きい場合は裁判を起こし「債務名義(裁判所の判決)」を得ておくことで、相手が支払いを拒んだり分割払いが滞ったりした際に差し押さえが可能となるなど、後々有利に働きます。

【FPが警告】“必要な”支出まで切り捨てる「過度な節約」が招くリスク

ヒロミさんは現在、病室から弁護士等特約を利用し、行政書士や弁護士を通じて損害回収の手続きを進めています。手続きの最中、節約目的で選んだ「軽乗用車」のリスクについても改めて思い知らされることになりました。

軽乗用車は強固な骨格でキャビンを守る設計など、運転者と同乗者を守る工夫がなされていますが、やはり車体重量の重い車に突っ込まれた際の物理的ダメージは計り知れません。

実際、運転者や同乗者を補償する人身傷害補償の保険料は、軽乗用車の方が高めに計算される傾向があります。もし普通乗用車であれば、結果は違っていた可能性も否定できません。

物価高が続く昨今、節約や倹約に励むことは重要です。しかし、必要な支出まで削ってしまうことは、万が一のリスクを増大させる結果につながります。

目先の出費を惜しんだ判断が、ときに家族の未来を修復不可能なほどに破壊してしまうこともあるという現実を、決して忘れてはいけません。

大泉 稔

1級ファイナンシャルプランナー

※個人情報保護の観点から、登場人物の情報を一部変更しています。