去年10月、石川・穴水町に移住してきた23歳の若者がいます。

能登半島地震以降、人口流出に歯止めがかからない奥能登地域。ITの知見を活かして人手不足に悩む事業所のDX化に取り組むなど、能登に新たな風を吹き込んでます。

穴水町大町にある、障害者就労支援施設「いきいき」。

手芸品をつくる利用者のそばで、作業のチェックをするのは、齋藤総一朗さん(23)です。

秋田県出身の齋藤さんは、北海道の大学でプログラミングを学び、東京で動画制作・配信の会社に半年間勤めた後、去年10月に穴水町に移住してきました。

今年5月からは施設で生活支援員のアルバイトをしています。

これまで福祉の経験はないという齋藤さん。移住しておよそ1年、紆余曲折がありました。

移住早々、見ず知らずの土地で無職に…

齋藤総一朗さん「ここにくるきっかけが、別でラジオのパーソナリティやらないかっていう誘いだったので、ラジオやる気満々で、色々あってなくなっちゃったんですけど、なくなったときは絶望というか、終わった…という感じでお先真っ暗だし…」

移住のきっかけとなったラジオの仕事は、資金調達がうまくいかず頓挫。

そんな矢先、もともと知り合いだった施設の代表から声がかかり、アルバイトとして働くことになりました。

齋藤さんは、利用者の見守りだけでなく、これまで学んできたITを活かしての業務改善にも取り組みます。

同僚「1とか2とか入れたら(有給の)残数が分かるのを作ってほしい」

齋藤さん「じゃあほんとイメージですよ」

業務をデジタル技術の力で改善する「DX化」です。

「絶対に潰さない」存続の危機をDXで救う

奥能登4市町の商工会議所と商工会によりますと、能登半島地震以降、あわせて362の事業者が廃業したということです。

施設も今、利用者の高齢化やスタッフの人手不足により、存続の危機にあるといいます。

同僚・中嶋美晴さん「地震で人がどんどん出ていっている中で、あと5年かなってずっと思ってるんですけど、5年もつのかなっていう不安もあったりとか…」

そんな中、DX化によって人件費や事務作業に充てる時間が減り、事業所の未来を考えるゆとりが生まれました。

中嶋さん「齋藤君がきてくれたおかげで、(給与の)自動計算ができるようになったり、パソコン業務をスムーズにしてくれている。すごく助けられています」

齋藤さんにとって、施設でのアルバイトは想定外のことでしたが、今では大切な"居場所"になっているといいます。

齋藤さん「自分の居場所ができたなって強く思っていて、(東京では)組織の歯車・駒として動いていた感覚があって、能登にきてみて、まわりをみるとキーボードもあまり打てなかったり、困っている方がたくさんいて、みんなを助けたりしてると、自分の知識ってこんなに使えるものなんだというか、パソコンの力、AIの力でひとりひとりの仕事を削減できれば、事業所の未来につながると思っているので、がんばっていきたい」

中嶋さん「いきいきにとって齋藤さんどんな存在だろうねみんな」

利用者「だいすき、やさしい」

中嶋さん「いきいきにはいなくてはならない存在で、本当はこのまま奥能登にずーっといてほしいなって、奥能登で素敵な人と出会って、奥能登で添い遂げて、奥能登に永住してほしいなという気持ちで、ずっと一緒にいたいってみんな思ってます」

齋藤さんのもうひとつの挑戦は、動画制作の起業

築55年の家に、大学時代の先輩と一緒に暮らす齋藤さん。

能登に来てから、もう1つ新たな挑戦を始めました。

動画制作・編集の起業です。

これまでにのと鉄道からのオファーを受け、プロモーションビデオを手がけるなど、被災地で着々と活動を広げています。

時には、アルバイトから帰った後、翌朝まで仕事に没頭する日も…

齋藤さん「大変ですけど、仕事だっていうのもありますし、なにより能登のために役に立ってるので、苦ではないかなと思いますね」

しかし、移住してまだ1年弱。

右も左もわからず、自分1人の限界も感じ始めているといいます。

齋藤さん「きょうもひっそりとつぶれている会社が、能登以外にもいろいろな地方で人がいなかったりお金が足りなかったりでつぶれているところがたくさんあると思う。助けられそうだと思っても時間がなくて行けないところもたくさんあるので、もどかしい。もがいている途中でもある」

「ひとりじゃない」能登で奮闘する仲間との新たな出会い

「切磋琢磨できる仲間に出会いたい」と、今年6月、齋藤さんは新たなコミュニティに飛び込みました。

能登の若者たちの新たなチャレンジを応援し合える「横のつながり」を作ろうと、去年発足した「能登若衆の会」です。

現在およそ150人のメンバーが所属していて、月に1度交流会を開いて情報交換などを行っています。

代表・古矢拓夢さん「若衆の会で大事にしたいことが、混ざりあう、全員で、ひとりで抱え込まずに、みんなで市町、業種、人間関係の話を共有していく。ここでなにか化学反応が起きるかなと思っています。ぜひきょうのこの場をつかって全員と知り合うくらい交流を深めてほしいなと」

この日、初めて参加した齋藤さんは、メンバーの前で自身の取り組みをプレゼンをしました。

齋藤さん「今DX化を図って、スタッフのひとりひとりの時間をつくっている。新しい商品どうする、どこに売りに行く、そういうことを考える、未来をつくる時間をつくっている。私がいま能登にいる理由としては、恩もあるので『いきいき』を絶対つぶさないというのが、今私がやっていることです」

ごはんを囲みながら能登で同じようにチャレンジしている若者と話し、「ひとりじゃない」と感じることができたようです。

齋藤さん「私ひとりの能力は限られている。それがふたりであればもっと遠いところまで目指せると思う。きょうは35人いるということで、それぞれ個性があって、今やっていること、得意なこと、できることがそれぞれちがう。ここにいる仲間たちと呼ばせていただきますけど、仲間たちと一緒に能登のために尽力できたら」

移住してきた若者ならではの新しい視点で、仲間たちと能登の未来を繋いでいく。

齋藤さんの挑戦はこれからも続きます。