【害虫or益虫?】花粉症の原因「ブタクサ」を食い荒らす北米原産の小さな虫「ブタクサハムシ」1996年に日本で初めて発見され各地に拡大
河川敷の草むらには、たくさんの雑草が生えています。
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その中に、草丈が3mほどにもなり、もはや草というより木かな?と見間違えてしまうほど大きくなる植物があります。
その名はクワモドキ、別名、オオブタクサとも呼ばれます。生物や害虫に詳しい東洋産業の大野竜徳さんに聞きました。
秋の花粉症の原因のひとつ
──ブタクサといえば、花粉症の原因のひとつでしょうか?
(東洋産業 大野竜徳さん)
「ブタクサという名前が入っていることからも分かるように、秋の花粉症の原因の一つとして知られるブタクサに近い仲間です。
この時期になると花を咲かせ、風にゆさゆさと揺れる姿が見られます。
花粉症の方には少々うれしくない話ですが、よく見ると風に揺れる花から大量の花粉が飛ばされているのが見えることも…。
花粉症の方ならここは近づかずに早く通り過ぎたい……と思ってしまう光景です」
ブタクサを食い荒らすのは、北米原産のムシだった
──オオブタクサは、時々、葉が網目状に食い荒らされ、元気のない株を見かけることがあります。
(東洋産業 大野竜徳さん)
「よく見ると、葉の上には小さな甲虫が何匹も。薄い黄土色の体に黒い縦じま模様。
大きくても5mm程度の、小さなハムシです。その名は……きっとブタクサハムシ。
ブタクサハムシは北米からやって来た小さな外来種で、日本で初めて確認されたのは1996年。千葉県で発見されたのが最初とされています。
その後、急速に分布を広げ、1990年代後半から2000年代にかけて各地で確認されるようになり、短期間で日本の広い範囲に定着していきました。私自身も2002年には岡山でその姿を確認しています」
どうやって日本へ?
──いったい、どうやって日本へやって来たのでしょう?
(東洋産業 大野竜徳さん)
「実は、日本への侵入経路ははっきり分かっていません。海外から荷物などに紛れて入ってきた可能性は考えられますが、このルートから侵入した、という具体的な経路は確認されていません。
気がつけば日本にいて、しかも、そこから一気に分布を広げた。小さな虫の世界では、こうしたいつの間にかやって来た外来種は、決して珍しい存在ではありません。
この小さな虫、名前からも分かるように、代表的な食草の一つがブタクサです。幼虫も成虫もその葉を、むしゃむしゃ食べます。
河川敷などでよく見かけるオオブタクサや、子供が投げて遊ぶタイプのくっつきむしで有名なオオオナモミなど、いくつかのキク科植物を利用します。
困ったことに、園芸植物のヒマワリにつくこともあります。ただし、何でも食べるわけではありません。
利用する植物にはある程度の選り好みがあり、好きな植物の葉を選んで暮らしています。
そのため、ブタクサハムシという名前を知らなければ、普段の生活で目にすることはあまりないかもしれません」
ブタクサハムシの一生は?
(東洋産業 大野竜徳さん)
「その一生も、なかなか分かりやすいものです。葉の表や裏に卵を産み、孵化した幼虫は、その葉を食べながら成長します。
そして十分に成長すると、葉の裏などで蛹になり、やがて成虫になります。成虫になると、また葉をむしゃむしゃ。
卵から幼虫、蛹、成虫まで、植物を生活の舞台としている時間がとても長いのです。まさに「葉」虫ですね。
ハムシだけに、葉っぱからはなかなか離れません」
北米原産のブタクサハムシは北米原産の外来植物を食べる
(東洋産業 大野竜徳さん)
「北米からやって来たブタクサハムシが日本で利用している植物の多くも、北米原産の外来植物です。
ブタクサも、オオブタクサも、北米から日本へ入ってきた植物。つまり日本の河川敷では、北米から来たハムシが、北米から来た植物を食べて暮らしている、という光景を見ることができます。
もちろん、虫も植物も、ここは同郷のよしみで仲良くしよう、などと考えているわけではありません。食べられる植物があり、それを食べられる虫がいた。ただ、それだけです。
でも、外来種が新しい環境に入っていくということを考えると、なかなか興味深い関係です」
ブタクサハムシは害虫?それとも益虫?
──ブタクサハムシは害虫でしょうか?それとも益虫でしょうか?
(東洋産業 大野竜徳さん)
「ブタクサといえば、花粉症の原因植物として知られています。ということは、ブタクサを食べるブタクサハムシが増える、ブタクサが減る、花粉も減る、私たちはハッピー。
…となれば、花粉症に悩む人にとっては、なんともありがたい虫に見えてきます。
実際、ブタクサハムシはブタクサを激しく食害することがあり、海外では、食害によってブタクサの花粉生産量が大幅に減少したという研究結果もあります。
実際に激しく食害された植物を観察すると、大きく育っていなかったり、枯れてしまっていたり、花の数が明らかに少なかったりすることがあります。
花粉症の原因植物を食べてくれる虫、と考えるとなんだか急に応援したくなってきます。
ところが、なかなか簡単な話でもありません。ブタクサハムシはヒマワリなどの園芸植物を食害することもあります。
そもそも、ブタクサハムシ自身が外来種です。花粉症の原因になる植物を食べるから益虫!…と決めつけることもできません。
ブタクサを食べれば、ありがたい。ヒマワリを食べれば、困る。
花粉症もなく、被害もなければ、まあ、どっちでもいい。同じ虫なのに、人間からの評価がコロコロ変わります。
結局のところ、益虫か害虫か、というのは、虫そのものの性格というより、人間にとって都合がいいか、困るかを表している言葉なのかもしれません」
天敵は?
(東洋産業 大野竜徳さん)
「外来種について考えるとき、もう一つ気になるのが天敵です。ブタクサハムシが日本へやって来たとき、日本にはすでにたくさんの肉食性昆虫やクモがいました。
実際、テントウムシ類やカメムシ類、クモ類など、ブタクサハムシを捕食するさまざまな生き物が確認されています。
では、ブタクサハムシが日本に定着したことで、日本にいた生き物たちが、おっ!新しいご飯が来たぞ、とばかりに利用するようになったのでしょうか。
それとも、ブタクサハムシと一緒に、原産地の天敵まで日本に入り込んできたのでしょうか。
外来種の侵入というと、新しく入ってきた生き物だけに目が向きがちです。
しかし、その生き物が日本に入った瞬間から、食べる、食べられる、競争する、寄生する、寄生される…といった新しい関係が始まります。
ブタクサハムシも、一匹で日本にやって来て、一匹で暮らしているわけではありません。
日本にある植物を食べ、日本にいる捕食者に食べられ、場合によっては寄生性の生き物などとも関係を持つ。
そうした関係の中で、ブタクサハムシも日本の環境に定着していったのでしょう」
天敵が増えたからブタクサハムシが減った?
──ひょっとして、天敵が増えたからブタクサハムシが減ったのでしょうか?
(東洋産業 大野竜徳さん)
「…いえいえ、簡単に決めつけることはできません。虫の数は、餌となる植物の量、気温、雨、天敵、病気など、さまざまな条件によって変化します。
かつては条件の良い場所では、この植物、こんなに食べられて大丈夫なの?と思うほど食害されていることもありました。
ところが最近、改めて探してみると、もちろん見つかるのですが、昔ほどの大群を見かけないように感じます。
これはあくまで私自身の観察による印象で、日本全国で昔より減ったと断定できるわけではありません」
ブタクサとブタクサハムシの攻防
──それでも、ブタクサハムシは、植物を食べ尽くすほど増え続けることはないのでしょうか。
(東洋産業 大野竜徳さん)
「植物を食べる虫が増えれば、当然、餌となる植物も必要になります。もし植物を食べ尽くしてしまえば、今度は自分たちの餌がなくなってしまいます。
ブタクサハムシが急激に増えると、ブタクサなどが激しく食べられます。そうなると、ハムシの餌となる植物が減って、増えにくくなります。
その間にも、ハムシ自身が天敵に食べられたり、さまざまな環境条件の影響を受けたりします。そうこうしているうちに植物が枯れてしまうか、元気を取り戻すか…。植物が元気を取り戻すことができればお互い全滅しませんね。
このバランスが崩れ、ブタクサハムシがときどきついた植物の1本を枯らすまで増えることもあるのですが、さすがに周囲にあるすべての草を枯らし切るところまで増えることは難しいでしょう。少しでも種子を残せたら草の勝ちです。
河川敷を見てみると、ブタクサハムシによって激しく食害を受けて枯れかけた小さな株もあれば、すぐ隣に3m級の巨大な株が生き残っていたりもします。
さすがにこのサイズになると、ハムシに少々食われたくらいではびくともしていないように見えます。
こうしてオオブタクサの群落では仲間が何本か枯れようとも種子を残し続けることができていて、全滅はお互いしないバランスがとられている間は残念ながらブタクサハムシによって私たちの花粉症が少し軽くなることはあっても、完全に悩みから解放されることはなさそうです。
最初は爆発的に増えた外来種も、時間がたつにつれて、植物や天敵などとの関係の中で個体数を変化させていくのかもしれません」
いつのまにか各地で見られるようになった外来種
(東洋産業 大野竜徳さん)
「たった数ミリの小さな甲虫のブタクサハムシ。あまり知られてはいないけれど、いつの間にか各地で見られるようになった外来種。
外来種だから悪者ですか?害虫ですか?益虫ですか?と聞かれれば、少し困ってしまいます。
人間にとって都合がいいときは益虫。都合が悪ければ害虫。どちらでもなければ、そもそも気にも留められない。
でも、虫からすれば、そんなことはどこ吹く風。自分が食べられる葉っぱを見つけ、食べて、成長して、次の世代を残しているだけです。
河川敷でオオブタクサを見つけたら、ぜひ葉っぱを少しだけよく見てみてください。網目状に食い荒らされた葉。
その近くには、もしかすると小さな卵が並んでいるかもしれません。葉を食べる幼虫がいるかもしれません。そして、葉の裏側を探せば、蛹が見つかるかもしれません。
そこには、卵から幼虫、蛹、成虫へと続く、小さな生き物の世界があります。この小さなハムシは、かつては日本にいなかった虫です。
それが今では、河川敷などで普通に姿を見せるようになりました。初めて発見されて30年が経過したとはいえ、まだまだ自然の時間の流れの中では新参者の外来昆虫です」
「花粉を減らしてくれるくらいには頑張ってほしい」
(東洋産業 大野竜徳さん)
「私としては、花粉症の原因となる植物を全滅させることはできなくても、少しでも花粉を減らしてくれるくらいには頑張ってほしいな……と、ついつい温かい目で見守ってしまいます。
もっとも、本人はそんな人間の期待など知ったことではなく、今日もどこかで、葉っぱをむしゃむしゃ食べているのでしょう。
小さな虫ですが、追いかけてみると、なかなか奥が深い。虫は小さいけれど、そこから生まれるフシギは尽きませんね」

