警視庁麻薬Gメンの実名・顔出し告白…バンかけ編「バックミラーで見破った」銃刀法違反
自ら隊エースの「能力」
荏原(えばら)警察署(品川区)の管内にある補助26号線をパトカーで流していたときのことでした。ハンドルを握るのは故・黒木昭雄さん。後に警察ジャーナリストとして活躍されましたが、当時は第二自動車警ら隊のエースとして名を馳せていました。
自動車警ら隊(自ら隊)はパトロールおよび職務質問のエキスパート集団。私はまだ20代の駆け出しでしたが、上司に頼み込んで、2~3日だけ「エース」に同行させてもらっていたのです。
反対側の車線の歩道をTシャツにジャージのズボン、サンダル姿の男性が歩いていました。特に不審な点は見当たりません。休日なら、私だって同じようなラフな格好でコンビニに行ったりします。年齢は40代後半くらいでしょうか。ところが、黒木さんは男とすれ違った後にパトカーをUターンさせ、こう言いました。
「あいつにバンかけろ」
語源は不明ですが、警察官の専門用語で「職務質問しろ」という意味です。
男の所持品は黒い長財布のみ。ですが、中身を見せようとしません。無線で応援を呼んで、ようやく所持品検査にこぎつけると--長財布の中からシャブが入ったパケが出てきました。
どうしてわかったのか? 私の問いに黒木さんは「あいつ、パトカーに気付いて左手をポケットに入れたんだよ」と一言。後から聞くと、男は現役のヤクザで左手の小指が欠損していました。それをパトカーに見られまいと無意識に隠したのを、黒木さんは見逃さなかったのです。
元警視庁警部補の小比類巻文隆氏(53)は’93年に入庁して以来、30年にわたるキャリアのほとんどを組織犯罪と薬物事案の捜査に捧げてきた。今回は「犯罪を未然に防ぐ」究極の治安維持活動、職務質問に迫る。
視線の違和感
朝8時、交代間近になっても黒木さんは集中力を切らしません。50mほど先で停車していた白いセドリックを追い抜いた後、黒木さんはパトカーを真ん前に停めて「バンかけよう」と言いました。
「これからゴルフに行くんだ。ここで今、友達と待ち合わせをしている」
運転手の男性の受け答えに不自然な点は見られませんが、免許証を照会するとヤクザでした。運転席と助手席の間に杖が置いてあるのを見つけて、黒木さんが「これは何?」と聞くと「俺、足が悪いからさ」と返ってきた。皆さん、″違和感″に気付きましたか?
これからゴルフをしようという人が「足が悪い」と言うのです。黒木さんは「これ、ちょっと触っていい?」と言いながら杖を取り、私に手渡しました。ズシリと重く、柄の部分をクルクル回すと刀が出てきました。いわゆる仕込み杖です。
黒木さんがその場でメモ帳を刃にかけるとスパッと切れました。おそらく護身用に持ち歩いていたのでしょう。ただ、ゴルフに行こうとしていたのは本当だったようで、トランクにはゴルフバッグが積んであり、友達も来たのですが、腹を括ったのか、ヤクザは「今日はゴルフに行けそうもないや」と友達を帰しました。
50m先に停まっているセドリックを見て、なぜ「バンかけよう」と思ったのか。黒木さんの説明を聞いて愕然としました。「バックミラーでパトカーを見ていたから」と言うのです。バックミラーで後ろから近づいてくるパトカーの動きをずっと見ていたのに「いざ横を通過する際はパトカーから不自然に目を逸らし、気にしていない風を装っていた」と。
この「能力」を言語化するのは難しい。黒木さんと同じ「自ら隊」の隊員が「任意同行に応じたから」と職質をかけた人を署に連れてきたことがありました。私が取調室で話を聞いている隣で、隊員は所持品のスポーツバッグを隅から隅まで調べていました。
ごく普通のスポーツバッグで内心、「何も出てきやしないだろう」と思っていたら--バッグの持ち手の付け根にほつれが見つかりました。ほつれをほぐしていくと、薄く伸ばしたシャブ入りのパケが出てきました。
「一日50回、バンかけしろ。そして、何時何分にどこでどんな人物に声をかけたかをメモしておけ」
黒木さんは私にこう命じました。教わったとおりにしてみると、だんだん自分の管轄する地域の、時間帯ごとの人の流れがわかってきた。そして「小さな違和感」に気が付くようになりました。
『FRIDAY』2026年9月25日号より
