“新たな家族”を模索する『Tシャツが乾くまで』と金ドラの金字塔『岸辺のアルバム』の共通点

写真拡大 (全3枚)

新しい家族の姿

今年の夏ドラマで最も注目を集めた金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』(TBS系)。今作は『silent』『いちばんすきな花』(共にフジテレビ系)を手掛けた生方美久氏の完全オリジナルストーリー。演出はドラマ『カルテット』(TBS系)や映画『花束みたいな恋をした』を撮った土井裕泰監督が担当した。

回を追うごとに世帯平均視聴率は右肩上がり。TBS金曜ドラマ枠の無料配信再生回数では歴代最高記録を更新している。

9月11日には、バスの転落事故に巻き込まれた2組の夫婦の喪失から始まる“愛と秘密”の物語は最終回を迎え、咲子(蒼井優)と充(松山ケンイチ)が選択した決断に今も賛否両論のコメントがSNS上に寄せられている。しかしこの作品の残した爪痕は、それだけではない。

「主演・蒼井優、脚本・生方美久、演出・土井裕泰という業界必見の3人が初めてタッグを組む今作は放送前から注目を集めていました。いざ始まってみるとヒューマンやサスペンス、はたまたミステリーやラブコメディといった既存のジャンルには当てはまらない。さまざまな要素を兼ね備えた新ジャンルを見事に切り拓いて魅せました。今後のドラマ界は“T乾以前”と“T乾以後”にカテゴライズされるようになるかもしれません」(制作会社プロデューサー)

逃避願望や失踪癖がある夫・充と、折り合いの悪い母親以外に“家族”を求め結婚・離婚を4度繰り返していた咲子。お互いの秘密を知ってしまった2人は、戸籍が別でも一緒に住んでいなくても、お互い気持ちよくてちょうどいい距離感でいられる人間関係を築くために、従来の“家族というカタチ”を手放す。

全話を見終えた今、『Tシャツが乾くまで』は、血縁や婚姻関係に縛られない“新しい家族”のあるべき姿を模索するドラマであったことに気づかされる。

今作のゾクゾクするような展開を目の当たりにして、今から50年前に同枠で放送された“金曜ドラマの金字塔”。第15回ギャラクシー賞を受賞した脚本家・山田太一の代表作でもある『岸辺のアルバム』を思い出したのは、私だけだろうか。

八千草薫が不倫を

ジャニス・イアンが歌う気だるく物悲しさの混じった主題歌『ウィル・ユー・ダンス』と共に多摩川の堤防が決壊していくショッキングなオープニング映像から始まるドラマは、秘密を抱えた夫婦の危機と子どもたちの抱える苦悩がやがて明るみに出て家族崩壊に至る。

『岸辺のアルバム』は当時のホームドラマの常識を覆した衝撃的な作品と言ってもいい。

「中でも家族が抱える秘密が当時のテレビドラマではありえないほど過激なものでした。商社マンの夫・謙作(杉浦直樹)は風俗嬢として働く女性を東南アジアから輸入しており、妻の則子(八千草薫)は、見知らぬ男・徹(竹脇無我)と不倫。そして長女の律子(中田喜子)は白人留学生にレイプされる。

こうした秘密を知るに至った弟の浪人生・繁(国広富之)は真実を家族の前でぶちまけ、家を出ていく。中でも貞淑を絵に描いたような八千草薫の不倫する姿には今観ても目が釘付けになってしまう。あの時代のGP帯でこれほどショッキングなドラマはありませんでした」(前出・プロデューサー)

戦後日本の繁栄が、一見、平和に見える家族1人ひとりの中にカゲを落としてゆく。やがて家族の幸せの象徴だった“家”が、多摩川決壊をきっかけに流されてしまう。そのシーンを目の当たりにした家族はもう一度結びつきを取り戻そうとする。こうした家族再生の物語にも目を奪われた。

「当時『ウィル・ユー・ダンス』を主題歌に起用した堀川敦厚プロデューサーは、『このドラマのカタチをなんと呼ぶか。記者や俳優やスタッフになんと説明するか四苦八苦した』と当時を振り返っています。当時の明るく楽しいホームドラマ全盛時代に抗う先進性、志の高さも『Tシャツが乾くまで』と類似する点ではないでしょうか」(制作会社ディレクター)

多摩川決壊、“家”を失うことで家族の意味を今一度考えさせる『岸辺のアルバム』。洗濯機のフィルターが破れることで“家族のあるべき姿”を考え直す『Tシャツが乾くまで』。

改めて『岸辺のアルバム』を観てみたいと思わせてくれた『Tシャツが乾くまで』のスタッフ&キャストによる新たなドラマに期待は高まるばかりだ。

取材・文:島 右近(放送作家・映像プロデューサー)