FRONTEO <2158> は「ライフサイエンスAI事業」を主力として、AI(人工知能)創薬支援サービス「Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」の活用を推進し、将来の成長に臨んでいる。同事業は2023年7月にスタートして今年で4年目、既に4本のライセンスアウトパイプライン(導出候補)があり、2027年3月期中に1-2本が製薬会社へ導出(ライセンスアウト)する可能性があるという。また、AI医療機器についても、「あたまの健康度」判定Webアプリケーション「トークラボKIBIT」が今期、本格的な販売展開を進めている。同事業はまさに「爆発」前夜であり、同社は来期以降に、創薬、医療機器の両面で飛躍的な成長が予想される。

 ライセンスアウトパイプラインは、「すい臓がん」(自社研究)のほか、「線維症」(エヌビィー健康研究所との共同開発案件を標的とした抗体医薬品)、「オンコロジー」(他社との共同プロジェクト)、「低分子創薬シーズ」(同)の4本。中でも、「線維症」については特に早期の導出が見込めるようだ。「低分子創薬シーズ」も製薬企業への導出を見据えた段階にあるという。一方、「すい臓がん」については、「DDAIF」を使って同社が独自に抽出に成功したもので、他に発見された例がなく、新規性、注目度が高い。

 「DDAIF」の中核には、同社の豊柴博義取締役・CSO(Chief Science Officer)が考案した「トヨシバ方程式」で駆動するAI「KIBIT」がある。これにより、数千万件にも及ぶ膨大な文献データを解析し、2万-3万個といわれる遺伝子に関連する標的分子の中から、創薬の成功確率が高い標的分子の迅速な抽出を可能にする。それにとどまらず、独自のアルゴリズムで文献に記載されていない疾患と標的分子の関連性を解析し、因果関係を解明し、人間の「ひらめき」に近い非連続的な発見を体系的に導き出せるという、ほかにはない機能も持つ。

 「DDAIF」はスーパーコンピューターを使わず、CPU(中央演算処理装置)のみで文書や単語の意味を保持したまま解析できるため、標的分子候補の抽出だけでなく、その後に適応症や作用機序などの情報を裏付ける仮説生成までできる。さらに、作用機序の解析を通じ、関連疾患のゲノム情報や新薬の安全性、実験モデルの提案まで、一貫した仮説とパスウェイマップの作成も可能だ。そのため、従来は10-20年かかっていた開発期間を劇的に短縮できる可能性もあるという。使用電力量も圧倒的に少なく、他の創薬AIと比較して圧倒的な優位性がある。

 同社は「DDAIF」を中心に、製薬企業や大学、バイオベンチャーなど各分野のスペシャリストと連携する「FRONTEO共創型創薬エコシステム」により、創薬開発プロセスをワンストップで対応できる体制を構築している。それを基に、同社と製薬企業などの研究チームが協調して標的分子の獲得を目指す「共創プロジェクト」、国内バイオベンチャーとの共同事業「DDAIF Innovation Bridge」、製薬企業の研究開発基幹機能として「DDAIF」を活用する「包括的共創モデル」、同社主導で仮説や創薬標的を創出する「自社研究・共同研究」の4事業モデルを展開中だ。

 5月には自社のAI創薬拠点「KIBIT AI Biology Lab」を開設した。同ラボは数十人規模の研究者、AIエンジニアが所属し、これら4事業モデルの中核拠点として、標的分子の探索、仮説生成を手掛ける。さらに、東京科学大学、オクラホマ大学など共同研究機関で得られるウェット(細胞・生体)検証から製薬企業への導出までの一連の創薬プロセスも行う。これにより、「DDAIF」は「文献データのみを解析するAI」から「ドライ・ウェット・臨床研究データを学習し続けるAI」へと進化している。

 同事業は「共創プロジェクト」を中心に、これら4事業モデルで収益を拡大してきた。前期の下期には営業損益の黒字化を達成し、今期は通期で黒字化する見通しだ。それに加えて、今期は1-2パイプラインを導出する可能性がある。それが実現すれば、これまで以上の収益を獲得するとともに、同社のAI創薬事業が新ステージに入ることになる。同社の守本正宏社長は「導出が決まれば、製薬会社の当社に対する支出が従来の『費用』から、今後の収益を生み出す『投資』に変わる。宣伝効果も大きく、将来のライフサイエンスAI事業へ好影響を及ぼすだろう」と話した。

 さらに、今期は米国へ本格的に進出している。日本と同様、さまざまなパートナーと協業し、着実に事業を拡大していく方針だ。その一環として、前バイエル薬品代表取締役会長で、現EIKI CONSULTING,LLCプレジデントの栄木憲和氏が同事業AI創薬分野の戦略アドバイザーに就任した。栄木氏は今後、グローバル製薬企業の経営経験と米国バイオクラスターとのネットワークを生かし、同社のAI創薬分野の米国展開と、国内事業の拡大を支援する。

 また、同社は25年から米国オクラホマ大学と共同で、新たな創薬標的分子の探索やドラッグリポジショニング(既存薬の他疾患への転用)を目的とした研究を行っている。今年2月には「DDAIF」で抽出したすい臓がん新規標的分子候補について、同大学医学部の武部直子教授(現・米ロチェスター大学教授)の研究室における検証実験の結果を発表、細胞増殖抑制効果が確認され、同社の先行試験が裏付けられた。今後はアンメット・メディカル・ニーズ(治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)の高いすい臓がんの新たな治療法の創出を目指し、動物実験でさらにエビデンスを蓄積し、米国での導出につなげる意向だ。米国の市場は日本より巨大で、米国における導出の宣伝効果はグローバルになりそうだ。

 一方、同事業ではAI医療機器の開発も進めている。同社と塩野義製薬 <4507> が共同開発した「トークラボKIBIT」は「KIBIT」で自然会話を解析し、「あたまの健康度」を判定する機能があり、日本生命保険が9-11月に全国の支社で実証実験を実施する予定。これは、「トークラボKIBIT」を活用し、保険契約の維持管理に関するコミュニケーションを支援するものであり、高齢者の意思決定能力の確認について、職員の負荷が軽減し、品質向上も可能になる。これにより、高齢者向け保険商品の販売の可能性が大きく高まる観測もある。また、「会話型認知機能検査用AIプログラム医療機器(SDS-881)」は臨床試験が3月に完了しており、今期中の承認取得を目指す。

 27年3月期のライフサイエンスAI事業の売上高は15億円(前期比45.2%増)、営業損益は1億円の黒字(前期は1600万円の赤字)で、大幅な売上増と通期黒字化の見通しだ。それに加えて、今期中のパイプラインの導出、医療機器の本格発売があれば、同事業の売上高、利益は飛躍的に拡大することになろう。さらに、「DDAIF」を活用すれば、今後も新規標的分子がこれまでなかったスピードで発見できる可能性があり、年々パイプラインが増えるとともに、導出も増加し、さらなる成長加速が望める。

 豊柴CSOは「DDAIF」について、「これまで利用してきて、数々の実績を積み重ねてきたが、まだ改良の余地がある」と話しており、今後さらなる機能向上が見込めそうだ。それが、同社業績の成長力強化だけでなく、将来的に医薬品産業を自動車、半導体に次ぐ基幹産業へ育成することと、「薬を必要とするすべての人に、適切な薬が届く世界」の実現につながると期待される。