《問われる東大と朝日新聞の対応》本田由紀・東大大学院教授の「遺伝的要因のおそろしさを感じる」投稿に「注意」だけで終わらせる姿勢への疑問 差別的発言野放しは許されるのか
〈この人たちを目にするたびに、遺伝的要因のおそろしさを感じる。露出の増加が逆効果になるかもしれない〉--9月1日、X(旧ツイッター)で三笠宮家の彬子さまらの写真を掲げた投稿を引用し、そう記したのは東京大学大学院教授の本田由紀氏だ。投稿には「遺伝を理由に差別するのか」などの批判が相次ぎ、大きな波紋を広げている。
【写真】三笠宮家の彬子さま。彬子さまの伯父にあたる麻生太郎・自民党副総裁も
ダブルスタンダードの姿勢にさらなる批判
教育社会学者の本田氏は東大大学院教授であり、朝日新聞デジタル版「コメントプラス」のコメンテーターを務める。リベラルな立場からジェンダー差別や外国人差別を問題視し、5月末には国会前での集会のスピーチで「人に加害や差別をしない」ことを社会の原則として掲げて高市政権を批判した。
その本田氏が引用した投稿は、改正皇室典範の成立により彬子さまの皇族費が増額されたことや、彬子さまの伯父にあたる麻生太郎・自民党副総裁らを批判する内容で、彬子さまの写真も添えられていた。
政治社会学者の木下ちがや氏(明治学院大学国際平和研究所研究員)が言う。
「地位も権威もある本田さんが、出自や属性などで差別しないというリベラリズムの基本原則に反し『遺伝的要因のおそろしさ』と発言した。訂正や謝罪はなく、人に対しては差別を糾弾するのに、自分の主張を裏切っても謝らないダブルスタンダードがさらなる批判を呼んでいます」
本田氏は9月5日、「投稿に関する解説」をXで公表し、「投稿は血縁者を優遇する麻生氏への批判であり差別や誹謗中傷ではない」などと反論。ルッキズム(外見差別)だとの批判には、投稿では容姿に言及しておらず、批判は「読み取る者自身が有するルッキズムの露呈」と主張した。
哲学者の東浩紀氏はこう指摘する。
「『解説』では差別の定義を説き、一般人の考える差別とは別の意味だと主張した。それで通ると思っている本田氏の感覚に驚きました。ルッキズムではないとしていますが、親族の写真が並ぶ投稿を引用して『遺伝的な……』としているのだから外見に関する言及としか解釈できません。外見と血筋をもって『おそろしさを感じる』と書いているわけですから大問題ですし、世間の批判を『曲解』と説明するのは屁理屈そのものでしょう」
投稿を受け、所属先の東大にも批判の矛先が向かっている。東大は、本誌・週刊ポストの取材にこう回答した。
「教育学研究科長から本人(註・本田氏)に対し、個人のSNS投稿についても十分考慮して行なうよう注意をしたところです。本学は今後も構成員に対する人権尊重及びコンプライアンスの重要性の周知に努めてまいります」(本部コミュニケーション戦略課)
前出・東氏はこう言う。
「東大大学院教授の本田氏は、問題発言をしても教員に居座れる構造があります。屁理屈の『解説』をしても講義は続けられるのだから、本田氏は合理的に振る舞っているとも言える。ただ、これからもそういう"常識"が通用するのか、問われていくでしょう。
今回の『注意』は重い処分ではないが、何も処分しないことがあり得たなかで東大も問題と認識するサインは出した。今後は本田氏が学会長の日本教育学会、そして朝日新聞などメディアの対応が問われます」
左派リベラル自滅の象徴的事象
朝日新聞は5日付朝刊で本田氏の投稿について報じ、「本社は人権尊重を基本原則とする人権方針を定めており、この方針への理解と実践をコメンテーターにも求めてまいります」と添えた。同社に改めて本田氏について尋ねると、「(人権方針では)『すべての取引関係者に対して理解と実践を働きかける』としており、本田氏にも改めてこうした理念をお伝えし、やりとりしてまいります」(広報部)と回答した。
同紙コメンテーターの一人でもある前出・木下氏が言う。
「朝日にはきちんとした検証記事を掲載してほしい。客観的な経緯に加え、識者の声も含めて記事にすべきです。それを受けて本田さんが反論コメントを出すなら、私も反論します。言論に対して言論で対抗していくことが、リベラル派にとっても大事なことです」
一方、ノンフィクションライターで元毎日新聞記者の石戸諭氏は言う。
「本田さんの研究は『自己責任論の解体』が大きなテーマで、社会に大きな影響を与えました。ある人の学力が低い、あるいは収入が低い理由は、様々な社会的要因--たとえば両親の収入、経済状況、社会的支援の不足--が複合的に重なり合ったもので、その人の努力が足りなかった=自己責任ではないというものです。しかし、今回の『遺伝的要因』投稿は完全に個人の変えようのない属性に要因を求めるもので、積み上げた研究を自ら壊している。
本田さんが当該投稿を謝罪しないのなら、朝日新聞は自分たちで判断して本田さんをコメンテーターから外すべきでしょう。誰であろうが本人にはどうしようもできない『遺伝的要因』を持ち出す結論は差別を正当化する論理にもなる。こうした発信を許容できる/できないのラインを新聞社として示すべきではないか」
騒動の背景には、SNSなどで過熱する"彬子さまバッシング"がある。8月30日には彬子さまが出演するNHK・Eテレ『日曜美術館』が放送されたが、出演に対する批判が多数あった。10月施行の改正皇室典範をめぐる議論と結びつけたもので、本田氏が引用した投稿も同じ流れに位置づけられるだろう。皇室史に詳しい小田部雄次・静岡福祉大名誉教授(日本近現代史)が言う。
「男系男子による皇位継承を前提とした今回の改正は女性・女系天皇支持派から批判されている。彬子さまは改正を主導したとされる麻生氏の姪であることに加え、過去の発言により、一部の層から男系支持と見られている節がある。そこに三笠宮家が分裂し皇族費が増額された状況も絡み、メディア出演に積極的な彬子さまが批判の対象とされたのではないか」
そのなかでの差別的な投稿を引用したのが本田氏だった。
前出・東氏は、騒動がリベラル崩壊の象徴的事象でもあると見る。
「左派リベラルは様々な発言や戦術でもっと社会常識と折り合いをつけたほうがいい。『自分たちは正しいことやっているから、常識は適用されなくていい』という思い込みによる行動で、どんどん自滅している印象です」
本田氏も、東大も朝日新聞も、こうした声とどう向き合っていくのか。
※週刊ポスト2026年9月25日・10月2日号
