純利益5兆円超えの裏でなにが…過去最高益に沸くメガバンクに専門家が突きつける「決定的な問題点」
純利益「5兆円超え」で最高益の裏で何が
3メガバンク合計で純利益5兆円超え--。三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの3行は、いずれも過去最高益を叩き出した。
超低金利による低収益に喘いできた過去から一転、我が世の春を謳歌している格好だが、この高収益はいつまでも続くのか。AIの浸透や金利上昇、円安に人口減少と、金融機関を取り巻く環境は、以前と様変わりしている。
『捨てられる銀行』シリーズ著者で経済ジャーナリストの橋本卓典氏はこう指摘する。
「1873年に渋沢栄一が第一国立銀行を設立しました。現在のみずほにつながる日本初の銀行ですが、この153年間、銀行の業態はほとんど変わっていません。その間に自動車が生まれ、パソコンも普及し、スマホが現代人の生活環境を一変させた。しかし、銀行の業務だけはさほど変わってきませんでした。
具体的に言えば、銀行に集まった情報は外に出されることはなく、今も融資判断以外にはほとんど使われていません。銀行システムそのものが、情報を外部に出すことを想定しておらず、情報は内部で管理するものだという発想で運用されてきたからです」
しかし、それではこれからの時代は通用しないというのが、橋本氏の考えだ。
「昨今の利用者は、スマホで自分の資産を一元管理したいと考えています。口座情報を銀行外部の家計簿アプリに連結させることに抵抗がない人も多いでしょう。銀行はこうした要望に一貫して後手に回り、できれば顧客の情報を外部に出したくないという姿勢を取り続けてきました。
しかし、スマホの活用が個人の資産運用に及ぶにつれて、この前提がいよいよ崩れ始めています。153年間の当たり前をどこまで変えられるかが、これからの銀行に問われる最大のテーマです」
邦銀のAI活用、未だ「チャットボット」レベル
もちろん、メガバンクの側も変化に対応し始めている。銀行業務においてAIを積極的に活用していくと、各行は謳う。だが、『変われなかった銀行の近未来』などの著書がある東洋大学教授の野﨑浩成氏は不十分だと言う。
「AIに関して、日本の銀行の活用状況は、諸外国と比べてまだまだ遅れています。圧倒的に進んでいるのは米国で、JPモルガン・チェースは顧客への投資アドバイスにAIを使ってテーマ別の投資戦略を活用したり、多数の株主総会のデータをAIで分析して投資家の議決権行使に役立てたりしています。中央銀行の声明や要人発言、ニュースなどをAIで大量・迅速に解析し、市場判断や投資アイディアの形成にも利用しています。同社はAIを含めたテクノロジー領域に年間200億ドル(3兆1800億円)を投資しているといいます。
それに比べて邦銀の実態は年間数百億円規模ですから、規模感がまったく違います。いまのところ、邦銀の顧客が接するAI活用は、ユーザーにとってはストレスばかりが募るチャットボットのようなものにすぎません。これを改善していくことが、今後の課題でしょう」
メガバンクは融資の判断でも決算書のデータをAIに読み込ませて活用するとしているが、最終的には人間の判断に頼っているのが現状だ。そんななか、野﨑氏が面白い試みだと評価するのが、三井住友の「AI-CEO」である。
「これは同社の中島達CEOを模したAIです。経営会議での発言や社外向けのコメントなどを読み込ませ、人柄も反映させたものをつくり、全行員が業務やキャリアの相談をできるようにしています。おもちゃに過ぎないという批判的な意見もありますが、私はそうは思いません。
社長という存在は、業務のフロントにいる一般行員からすると非常に遠い存在です。そこでAIに社長の考えを学習させて、何でも聞いてくれという形にする。しかも文句を言ってもいい、という設計です。そうして社内の不満を汲み取って改善していく。非常に民主的なAIの活用法だと思っています。大きな声では言えませんが、上意下達の行風が強いとされる某メガバンクでは到底できない取り組みでしょう(笑)」
明暗分かれる「3メガ最新戦略」
目下のメガバンクの高収益を支えているのは、円安と金利上昇だ。3行とも海外収益の割合が高まっており、円安になれば、円換算したときの金額が大きくなる。
「さらに、市場金利が上昇している一方で預金金利が低いため、銀行の儲けが大きくなっています。たとえば市場金利が1%上がったときに、預金金利は0・4%程度しか上がりません。その差額の0・6%が、まさに銀行の儲けになるのです。そうなると今後は、預金を集めれば集めるほど儲かることになる」(野﨑氏)
そのため、現在、マスリテール(大衆向け業務)の拡大を通じて、激しい個人預金の獲得競争が起こっている。先鞭をつけたのは、三井住友だった。同社は、「Olive」を中心としたデジタル金融プラットフォームを通じて、個人の預金獲得に注力する。
「Oliveは銀行口座とクレジットカード、Vポイント、証券口座まで一つのアプリで管理できるデジタル口座です。渋谷や新宿には、Olive LOUNGEという店舗もあり、ここにはスターバックスやATM、シェアオフィスのようなスペースが設けられ、会員にはポイント還元のメリットもあります。日常の行動の中に金融サービスとの接点を生み、自然とOliveを利用してもらおうという狙いです」(SMBC中堅幹部)
もう一つ、三井住友が注力しているのが、中小企業向け金融サービス「Trunk」だ。これはOliveの法人版サービスと言える。
「これも非常に面白い動きです。これまで中小零細企業向けの融資には、決算書だけでは判断しづらい側面がありました。決算書に正確な数字が記載されているのか、正直怪しいところがありますから。
しかし、このTrunkの口座を使っている企業だと、その会社がどこにおカネを払ってどの程度の集金があるのかが決済情報から明らかになります。データが正確であれば、AIを使って正確な与信判断を下すことができる。これまで小規模な会社を相手にしてきた地域金融機関などは三井住友に顧客を奪われるのではないかと怯えていると思います」(前出・野﨑氏)
三菱UFJ「エムット」、みずほ「楽天連携」を強化
三井住友のOliveを猛追するのは、同様の金融サービス「エムット」を昨年6月から開始した三菱UFJだ。
「銀行口座やクレジットカード、証券口座、子会社化した資産運用のロボアドバイザー、ウェルスナビなどを組み合わせたものです。いまは『昭和のバンカー』のように銀行員が足で歩いて預金口座を集めてくる時代ではなく、仕組みを作って預金を集めることが重要です。金融サービス全体をつないで、人生のさまざまな局面で利用していただきたい」(三菱UFJ中堅幹部)
マスリテールでは出遅れた感のあるみずほは、どんな施策を打つのだろうか。
「率直に言えば、マスリテールはみずほの得意分野ではありません。だから自分たちで作るのではなく、楽天グループと組んでいく。楽天証券やみずほ楽天カードを通じて楽天経済圏にいるお客様と接点を持ち、みずほと楽天が互いにお客様を送り合うことで、ともに顧客基盤を広げていくという戦略です。
法人向け金融では、UPSIDERとの提携を通じて新たなサービスに取り組んでいます。同社が提供する中小企業向け法人カードの決済データから、企業の実際のキャッシュフローをリアルタイムでかなり把握できます。こうした情報をAIで分析し、融資を判断する仕組みはこれから広がっていくと思います」(みずほ中堅幹部)
【後編記事】『純利益5兆円でも世界では勝てない…?専門家が「今のメガバンクには狂気が足りない」と指摘する理由』につづく。
「週刊現代」2026年9月14日号より
