仮囲いには立石ゆかりの人気漫画「キャプテン翼」/(C)日刊ゲンダイ

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 東京都の東北端に位置する葛飾区の心臓部にあたる立石は、この数年で様変わりした。半ば都市伝説と化していた京成立石駅周辺の再開発事業が実行に移され、あちこちから酔客を吸い込んでいた「せんべろの聖地」は姿を消した。2031年度末予定の京成押上線の完全高架化に前後して、新・立石駅を見下ろすタワーマンションが南北に3棟も建つこととなっている。供給予定は計1850戸。区は〈防災性・利便性・快適性の向上と商業の活性化を図ることにより、「活力と魅力にあふれた立石」を実現する〉としているが、東京ドーム1個分の敷地をガラガラポン。戦後の紆余曲折を経て醸成されたにぎわいの再生は、一筋縄ではいきそうにない。

東京・日本橋、首都高のフタ取れ 川沿いを楽しく歩ける街に

 下り線ホームに降り立つと、仮囲いの向こうで重機数台がガチャンガチャンやっているのが目に入る。約2.2ヘクタールに及ぶ北口地区の工事現場だ。薄暗い路地にスナックや飲み屋が軒を連ねた「呑んべ横丁」も、旧赤線地帯ものみ込まれた。バスやタクシーなどが乗り入れる交通広場を間に挟み、区役所の総合庁舎や商業施設が入る地上13階建てのオフィス棟、地上36階建てのレジデンス棟が30年度末に竣工予定だ。立石初のタワマンは、30平方メートルほどの1DKから100平方メートル超の3LDKまで総戸数710戸。そのうち、およそ3割は権利変換で人手に渡っているという。

「分譲販売は27年以降の予定で、価格帯は検討中です。詳細の発表は年明けになる見通しです」(北口事業に参加する東京建物広報担当者)

 令和の不動産バブルがはじける気配はなく、億ションとなるのは間違いなさそうだ。

北口のテナントは白紙

 都が認可した事業計画書によると、中型スーパーに加え、飲食店が20軒ほど入る予定。どんな陣容になりそうなのか。

「テナントの募集はこれから。といっても、すべてはオーナー次第です。権利変換した大家の場合は自分で店を出すかもしれないし、決まったものは何もない状態。設計図通りに進めるかどうかも含め、未定です」(立石駅北口地区市街地再開発組合事務局)

 立石を「せんべろ」たらしめた猥雑な飲み屋とピカピカのタワマンは、ミスマッチが過ぎる。そうでなくても、コストは見合わなくなりつつあった。都内の不動産高騰と再開発需要があいまって、一帯の相場は右肩上がりだ。

「立石駅近くの地価はこの10年で3割ほど上昇し、それに伴って店舗賃料の相場も急騰しています。北口に店を構えていた個人経営の飲み屋は、大半が区内の亀有や金町に移転。お花茶屋にも移っています」(不動産関係者)

 立石脱出が相次ぐ中、踏みとどまる人気店もある。水餃子がうまい「蘭州」は、駅の南側を走る奥戸街道沿いに引っ越し。時価の若鳥唐揚げが絶品の「鳥房」や、煙モクモクの「焼肉牛坊」は北口地区のさらに北へ移転し、3店とも元気に営業を続けている。

「駅の周りはずいぶん静かになった。午後9時を回れば人出はほぼないですよ」(前出の不動産関係者)

南口は数年単位の遅れ

 一方、東西に分割された南口の再開発は不透明感が漂う。東地区は住民の間で「アーケード」と呼ばれ親しまれる「立石駅通り商店街」を境にした約1ヘクタール、西地区は「立石仲見世商店街」が中心の約1.3ヘクタール。いずれもスケジュールは押している。

 両事業に参加する野村不動産ホールディングスによると、東地区は権利変換計画認可を今年度に予定。27年度に建築工事に着手し、30年度完了で地上32階建て約440戸を供給する計画だ。西地区は28年度に権利変換計画認可、30年度に着工、34年度竣工で地上34階建て約700戸を供給予定としている。

 年単位で後ろ倒しとなっている事情もあってか、仲見世もぱっと見は往時のままだが、開けている店は片手ほどしかない。立石3大もつ焼きに数えられた「ミツワ」のシャッターには〈諸般の事情により令和8年4月3日をもちまして閉店いたすことになりました〉との張り紙がペタリ。向かいの「宇ち多゛」では客が肩を寄せ合い、静かにもつをつつきながらチビチビやっているものの、これとていつまで楽しめるか。アーケードはチェーン店ばかりで味気ない。

 奥戸街道沿いで居酒屋を営む店主はこう言う。

「南口の再開発は一体どうなっているんだか。計画は当てになりゃしない。だけど、権利変換が済んでいよいよ解体となれば、駅の周りの飲み屋はみんな店じまい。飲んべえは行くところがなくなっちゃうから、うちなんかはこの先数年は稼ぎ時だよね」

見通せないゴール

 北口事業をめぐっては、区庁舎の移転に対して住民訴訟が提起されているものの、収束する公算が大きい。移転先のオフィス棟3階部分の評価額は、他の地権者が得た2階部分の2倍にあたる1平方メートル当たり98万円。不当に高く取得して区に7億円超の損害を与えたとして、24年4月に青木克徳区長が提訴された。しかし、1審、2審とも住民側が敗訴。今年3月に最高裁に上告した。早ければこの秋にも区切りがつくとみられている。

 区が旗を振る再開発によって消滅した「せんべろの聖地」の原点は、終戦から間もない1954年にできた「立石デパート」。長屋に日用雑貨の店や園芸店、洋服店、飲食店などが軒を連ねるちょっとしたマーケットだった。高度経済成長期に入り、近隣の工場に労働者が集まるにしたがって盛り場に発展。売血で得た小銭を握りしめ、酒を求める姿もあった。そのあたりは、立石出身の漫画家・つげ忠男の作品「無頼平野」などにも描かれている。

 再開発計画が浮上してから30年あまり。ゴールもにぎわい復活も見通せない。