鹿児島県、霧島連山の奥深くに眠る「通し川の湯」と「湯の池地獄」。そこは地図にすら記載がなく、道なき樹海をさまよった者だけが辿り着ける幻の野湯だ。一歩間違えれば命の危険を伴うという“ヤバい温泉”に魅了されるマニアは少なくないが、はたして、いったいどんな温泉なのか。現地を訪れたもようを紹介する。

【画像】鹿児島県の奥地に実在する…一歩間違えれば命の危険を伴う“ヤバい温泉”にたどり着くまでの一部始終を写真で一気に見る

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危険度トップクラスのヤバい温泉

「通し川の湯」と「湯の池地獄」の存在を知ったのは、野湯マニアの方からの情報だった。是が非でも浸かりたいと懇願したものの、当時の愛好家の間では詳細な位置を明かさないのが暗黙のルール。教えてもらえたのは「大霧発電所付近から荒れた林道を数km進み、終点からヤブコギ(草や木の茂みをかき分けながら道なき道を進む)をする」という大雑把なヒントだけだった。


入湯に危険が伴う「湯の池地獄下の湯」

地図なき樹海で2時間の迷子…頼りは人づての情報

 初めて現地を訪れたのは令和のはじめ頃のこと。当時は野湯の情報は現在に比べて極めて乏しく、Googleマップや国土地理院の地図などにも当然記載は無い。頼れるのは人づての情報だけだった。

 おおよその場所にあたりを付け、踏み跡を辿って探し続ける。霧島の鬱蒼とした森に入ると、目印になるものはほとんどない。迷った時や帰りのために、変化の少ない周辺の風景を頭にたたき込みながら進む。

 しかし温泉の気配すら感じられず、車に戻って次の候補地へ。荒れ果てた林道の終点に車を駐めて、道なき道に入っていく。しかし、すぐに踏み跡は途絶え、ヤブコギをしながらの捜索となる。

 当時は高機能なGPS機器を持っておらず、地形図とコンパスだけが頼りだ。方向すらわかり難い森の中をヤブコギしながら2時間近く彷徨ったが、全然見つからない。危険を感じては、見覚えのある場所まで何度も引き返す。

 諦めかけたその時、森の奥にやっと明るく開けた場所を見つけ、キラキラ光る流れを目にした瞬間、思わずその場に座り込み、感激のあまり涙が出そうになった。

天然の泥パックで至福のひととき

 アイスブルーの緩やかな流れは「通し川の湯」と称される。この流れは湯の池地獄「下の湯」と「上の湯」の2つの地獄を結ぶ。

 森の中の緑のトンネルから天の川のように流れ出る青白いお湯は、ほわほわと立ち上る湯気を木漏れ日に輝かせて幻想的な雰囲気を醸し出している。

 あまりに美しい野湯に、思わず引き込まれるように入湯する。適温ながらも底の泥からは熱めのお湯が湧出しており、時折冷たい流れがやってくる。

 感無量の湯浴みが、過酷な道のりの疲れを癒し、心身ともに蕩けていった。ちなみにこの川底の泥は硫黄成分が濃く肌にとても良いとされている。紫外線に晒され続けた顔に泥パックして、しっかりとお肌のお手入れを行い、翌日にはツルツルに生まれ変わった。

 通し川の上流には「湯の池地獄上の湯」があるとのことなので、川を遡って行こうとしたが、底の泥が所々激熱で断念。陸に上がり、森の中を川沿いに進む。10分も経たないうちに視界が開け、随所から噴煙が上がる荒野に出た。

 ここが「湯の池地獄上の湯」である。しかし、熱すぎてとても入湯できない。

 流れは全て熱湯で、湯船を作ることもできなかった。

沸き立つ水の周りは全域ボッケ帯

 今度は「湯の池地獄下の湯」を目指して通し川を下流に向かうが、崖でさえぎられて川沿いには進めず、ヤブコギしながら前方に広がる空の下を目指す。崖を越えると目の前に大きな池が現れた。野球場ほどの広さの水面全面から湯煙が立ち昇っている。

 池の中では巨大なジャグジーのようにブクブクと熱湯が噴出。見ているだけで畏敬の念すら覚える光景だ。

 岸はほとんど全て噴出した泥で形成されており、その地中のほぼ全域に、空洞に熱泥が溜まった「ボッケ」が存在。

 池は熱湯でとても入湯できないが、温度が低い場所が無いかを探し回る。

 泥が固まった場所を選んで進むが、少しでも気を抜くとズボっと足が沈み込み、火傷しかねない。そのため、ストックで地面を突きながら慎重に進む。まるで地雷原に飛び込んでしまったような感覚だ。

熱湯の底なし沼で見つけた至高の湯

 沢が流れ込む最奥部の入り江で、ようやく手で触れられる温度の場所を発見した。入湯を試みるが、岸は脆く、すぐに崩れて熱泥の中に足がめり込み、火傷をしそうになる。岸の土で埋め立てて何度も底を固めながら決死の覚悟で湯へと身を沈める。

 やっとの思いで、なんとか肩まで浸かることができた。時折底から熱湯が襲い掛かってくるが、その度に必死で掻きまわして湯温を下げる。

 気を抜くと埋め立てた足元の泥が崩れ、激熱の底なし沼に足がのめり込んでいく。それでも入湯できることに至高の喜びを感じていた。噴出した新鮮な泥によって、「これでますます肌が綺麗になるかも」と妄想して、湯に浸かる。

「足首に激痛が…」全治5ヵ月の大火傷を負っても笑える理由

 夢心地で岸に上がった瞬間、足がズブっと岸の泥の中に沈んだ。不覚にもボッケを踏み抜いてしまったのだ。次の瞬間、足首に激痛が走った。

 足を引き抜こうとしてももう片方の足が沈み込み、思うように抜けない。ようやく泥から足を引き抜くと、激痛が激熱に変わった。酷い火傷で皮膚が大きくただれてしまった。

 近くに清潔な水もなく冷やすこともできないまま、絆創膏で応急処置をし、帰路につく。歩くたびに激痛が走るが、40分ほどで車に戻り、なんとか下山。病院では全治4~5ヵ月と診断された。

 数年が経った現在でも、この時の火傷跡は時々疼いている。しかしその疼きを感じる度に「湯の池地獄下の湯」に入湯できた喜びが蘇り、思わずニンマリしているのだ。

※野湯の訪問には、重大な事故や命を落とす危険を伴います。訪問の際は、万全の備えと情報収集、安全第一の行動と迷ったら撤退する勇気を心がけてください

INFORMATION

【データ】
住所 鹿児島県霧島市牧園町三体堂
アクセス難易度 ★★★★☆
湧出量 多量
湯温 高温

(瀬戸 圭祐)