「地方議会のドン」強権番付 安倍元首相も敵に回すことを恐れていた「山口のドン」、“反高市”県議をまとめた自民党奈良県連の重鎮…全国各地で権勢を誇る実力者たちの素顔
福岡県議会の「ドン」として君臨し、議会人事や県政を牛耳ってきた蔵内勇夫・県議会議長が辞職した。辞職に至る経過のなかで明らかになったその権力構造には驚きの声も上がったが、実は全国を見渡せば蔵内氏をも上回る権勢を誇り、国会議員すら頭が上がらない地方議員がいる。蔵内氏が政界を去った後の「地方議会のドン」強権番付を本誌・週刊ポストがまとめた。
県会議長を5期連続13年務めている「山口のドン」
自民党を皮切りに多くの政党を支えてきた経験を持つ元民主党事務局長の政治アナリスト・伊藤惇夫氏が大関クラスに名前を挙げたのが山口の柳居俊学・県会議長(9期)と鳥取の斉木正一・県議(7期)だ。
「山口のドン」「影の知事」とも呼ばれる柳居氏は県会議長を5期連続、通算7期(13年)務めており、県が皇族などVIP送迎用に約2000万円の公費で購入したトヨタ・センチュリーを事実上の"議長専用車"として使い、公務の時は周防大島にある自宅まで送迎させることから地元では「センチュリー議長」として知られる。
山口の地元政界関係者の話だ。
「地方のドンならこの人の名前が出てこないとおかしい。柳居さんが県庁の議長室から出る時には、職員がまず部屋の外に出て廊下をチェックし、野党議員がいたら『ちょっと控え室にいてくれませんか』と通路を開けさせる。知事より上の扱い」
保守王国の山口は多くの総理や大物政治家を輩出してきたが、県連で大物政治家の調整をしてきたのも柳居氏だった。林芳正・総務相が参院から衆院山口3区に鞍替えした時は自民党県議全員を林氏支援でまとめ、河村建夫・元官房長官を出馬断念に追い込んだ。
「林さんも頭が上がらない。ましてや岸信千世、吉田真次という若手代議士はよく叱られている。安倍晋三・元首相さえも、柳居氏に気を使い、敵に回すことを恐れていたほどだ」(同前)という。
地元の自民党市議はこう語る。
「旧安倍系の県議が内々の飲み会で、『大島の坊主(柳居氏は周防大島の寺の住職も務めている)はセンチュリーに強いこだわりがあるから』というような発言をした。それが柳居議長の耳に入り、『自民党員の品位を汚す行為』として2年間の党員資格停止の処分を受けた。昨年のことだ。厳しすぎると思うが、議長には誰も逆らえない。影の知事以上の存在です」
鳥取の斉木県議も県政の実力者。自民党鳥取県連幹事長や県議会自民の会長を長く務め、石破前首相の後ろ盾となってきた。2025年の参院選で自民党が大敗し、党内から退陣論が強まると、斉木氏は電話で「辞めたらいかん」と石破首相を励まし、県連幹部と連名で総裁続投を求める要望書を党本部に送った。
関脇クラスの1人は高市首相のお膝元、奈良で「反高市」の県議らをまとめて首相に対抗してきた自民党奈良県連の重鎮(顧問)の米田忠則・県議(10期)だ。
前回の知事選(2023年)では県連会長だった高市氏が総務大臣時代の秘書官を強引に擁立したのに対し、それに反発した米田氏らが現職を支援、保守分裂選挙となって共倒れ。県連内部に大きなしこりが残ったとされる。
「奈良県連は親高市とアンチ高市に割れている。昨年8月に高市氏の選挙区の山添村という小さな村の村長選でも高市系候補と米田氏らアンチ高市の議員が支援する候補が対決。滅多に地元に戻らない高市さんが応援に駆けつけてなんとか勝てた。米田さんは高市サイドの無理押しにも毅然と反対するので、県連内でも信用が高まってアンチ高市派の中心になっている」(地元政界関係者)
もう1人は広島の檜山俊宏・県議(12期)。
広島県議の1人が語る。
「かつては檜山さんに話を通さないと絶対に予算はつかないといわれ、県庁幹部が行列をつくっていた。知事より力があった。大物代議士の亀井静香さんと敵対しても一歩も退かなかった。しかし、参院選で支援した河井案里の選挙違反で捜査を受けてから影響力を失った。それでもドンと呼ばれていた頃と同じように委員会は勝手に抜け出すし、本会議の時は県庁職員が2~3人張り付いてお世話をしている」
元大関の関脇的な立場のようだ。
自民党系候補を勝利させた沖縄保守の新たなドン
野党系で三役入りしたのが東の小結、福島の亀岡義尚・県議(6期)。旧民主党の地盤が強かった福島で民主党県連幹事長、立憲民主党県連選対委員長などを歴任し、県政を支えたベテランだ。昨年の福島市長選では連合や立憲が推した現職ではなく、元民主党代議士の馬場雄基・現市長を支援して当選させ、馬場氏に「生みの親」と言われた。連合の批判を受けて立憲民主党を離党したものの、現在でも立憲系会派で県政に影響力を持つ。
西は「石川のドン」福村章・県議だ。森喜朗・元首相の選対本部長などを務めた"城代家老"的存在。自民党石川県連最高顧問で、「福村軍団」と呼ばれる系列の地方議員を持つ。
それに続く前頭クラスでの注目は和歌山県政の新たなドンと見られている尾崎要二・県議。
「政界引退した二階俊博・元自民党幹事長には三羽烏と呼ばれた系列の県議がいたが、世代交代で今は世耕弘成氏が影響力を強めている。しかし、引退しても二階さんの威光は残っていて、自民党県議26人をまとめる存在がいなかった。そこに台頭したのが尾崎さん。当選10期、議長を2回務めた経験から、自民県議団をまとめる力はあるし、県庁の役人にも人脈が広く、予算も取れる。県政の新たな実力者です」(元県議)
県知事選さなかの沖縄では、自民党が玉城デニー知事に対立候補を擁立、県政奪還を目指している。その指揮を執るのが島袋大・県議(5期)だ。自民党沖縄県連幹事長時代には2024年の県議選で自民党全員当選、その後も那覇市長選、宜野湾市長選と自民党系候補を勝利させた立役者で、県連会長も務めた。沖縄保守の新たなドンだ。
「維新王国」の大阪府政には吉村洋文知事が君臨しているが、府議会のドンと見られているのが、大阪維新の会副代表の森和臣・府議だ。
維新府議の1人が語る。
「維新では議長や副議長もドンの指名でなく、立候補制で決める。私たち維新の議員にとって森さんは選対本部長としての存在が大きい。大阪府下の首長選挙、府議会や市議会選挙となれば陣頭指揮を執る。頼りになる維新議員団のリーダー的存在です」
地方のドンは県議会だけではない。県から独立した権限を持つ政令市などの議会には、県政のドンの力が及ばない「市政の実力者」が存在し、地元を仕切るケースがある。
前頭4枚目、5枚目に並ぶのはそうした市政のドンたちだ。
「北九州のドン」と呼ばれる片山尹(おさむ)・北九州市議(11期)は自民党市議ながら旧民主党系の北橋健治・前市長の後見人として市政に絶大な影響力を持ってきた。麻生氏が市長選への対立候補擁立に動いた時は、野党系だった北橋市長に自民党単独推薦で出馬することを飲ませ、麻生氏とも直談判して翻意させた。麻生氏も蔵内氏も、北九州での政治力は片山氏に及ばないとされる。
関連記事では引退した福岡県議会の蔵内・元議長を上回る権勢を誇る地方議会のドンたち18人の素顔を番付で紹介、地方議会にドンが生まれる政治構造のポイントと、良くも悪くも必要とされる理由についてレポートしている。
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※週刊ポスト2026年9月18日号
