Googleがハエの脳と中枢神経系全体のマッピングを公開するやいなや「DOOM」や「マリオ64」をプレイさせるエンジニアが登場

Google Researchやハワード・ヒューズ医学研究所ジャネリア研究キャンパスなどが、成体の雄のキイロショウジョウバエについて、脳と腹側神経索を含む中枢神経系全体の配線図を完成させました。研究成果が正式発表されてからわずか数日後には、公開された約16万6700個のニューロンの接続データを利用し、『DOOM』や『スーパーマリオ64』を操作させる実験が登場しています。
https://www.tomshardware.com/software/programming/google-maps-entire-brain-and-central-nervous-system-of-adult-male-fruit-fly-software-engineers-immediately-make-it-run-doom-ai-powered-3d-model-of-over-166-000-neurons-can-also-play-super-mario-64
キイロショウジョウバエは寿命が短く、行動や神経系に一定の共通性があることから、100年以上にわたって遺伝学などの研究に使われてきたモデル生物です。近年は、脳を構成する神経細胞とその接続関係を網羅的に記録する「コネクトーム」の研究でも重要な対象となっています。
ハワード・ヒューズ医学研究所のジャネリア研究キャンパスを中心に、ケンブリッジ大学やGoogle Researchなどが参加した共同研究チームは、雄のキイロショウジョウバエの中枢神経系を記録した「MaleCNS v1.0」を2026年6月8日に公開しました。MaleCNS v1.0は脳の中心部や視葉に加え、哺乳類の脊髄に相当する腹側神経索までを網羅しており、16万6000個を超えるニューロンと約1億2500万カ所のシナプス接続が収録されています。ニューロン数で見ると、記事公開時点で最大規模の脳配線図です。

続いて2026年9月3日、MaleCNS v1.0を解説する論文が学術誌「Cell」に掲載され、Googleも研究成果を正式に紹介しました。論文では雄の中枢神経系全体を扱ったコネクトームの完成に加え、すでに作成されていた雌のコネクトームとの比較結果も報告されています。研究チームは、雄または雌だけに存在する細胞型を262種類、雌雄の両方に存在するものの接続方法が異なる細胞型を114種類確認しました。
For the first time, scientists have mapped the complete brain and central nervous system of an adult male fruit fly - a key model organism in science. ????
Working alongside HHMI Janelia Research Campus and the scientific community, @GoogleResearch scientists and researchers used… pic.twitter.com/dpcXH4jmNS— News from Google (@NewsFromGoogle) September 3, 2026
このコネクトームを作るため、研究チームはショウジョウバエの神経組織を極めて薄い切片に分け、電子顕微鏡で撮影した大量の2次元画像をつなぎ合わせました。Google Researchが開発したAI技術などを使って画像内のニューロンを識別し、それぞれの立体形状と接続関係を再構築した後、専門家が結果を確認して誤りを修正しています。完成したモデルには1万1691種類の神経細胞が含まれ、視覚・聴覚・嗅覚などの感覚入力から、体を動かす運動ニューロンまでの経路をたどることができるとのこと。
Googleによる発表から3日後の9月6日、ソフトウェアエンジニアのアレックス・ウォーマス氏は、MaleCNS v1.0を『DOOM』の操作に利用する実験を公開しました。
I'm training a fly brain to play Doom using the full MaleCNS v1.0 fruit fly connectome.
Each Doom frame stimulates sensory neurons. Neural activity is mapped to game controls. Damage triggers a stimulus to two PPL101 dopamine cells as reinforcement.
Will the fly learn to… https://t.co/ObCJ03gxy3 pic.twitter.com/H2YDBtyuR8— Alex Wormuth (@nftechie_) September 6, 2026
ウォーマス氏の試みは、ゲーム内でプレイヤーがダメージを受けると、2個のPPL101ドーパミン細胞に刺激を与え、モデルが生存につながる操作を学習できるか検証するものです。『DOOM』の画面を構成する各フレームから明るさや色の情報を抽出し、明暗を検知する3335個のR1-R6視覚ニューロンと、色情報を受け取る811個のR8視覚ニューロンへの刺激に変換します。その刺激によって約16万6700個のニューロンからなるネットワーク内で生じた活動を計算し、特定の下行性ニューロンの反応に応じて、左右への旋回や前進、射撃といった操作を実行する仕組みです。
ただし、左右への旋回などと各ニューロンの対応関係はショウジョウバエ本来の運動機能をそのまま再現したものではなく、開発者がゲーム操作用に設定したもの。ソースコードはGitHubで公開されており、16万6700個のニューロンの活動と学習状況をウェブ上で確認できます。なお、記事作成時点では学習の途中であり、ショウジョウバエの神経回路が『DOOM』を攻略できたわけではありません。
さらに翌日の9月7日には、開発者のジェシカ・パケット氏が同じコネクトームで『スーパーマリオ64』を操作する映像を公開しました。映像ではマリオがジャンプしながら壁に繰り返し衝突しており、こちらもゲームを理解して攻略できる段階には達していません。パケット氏によると、このプログラムはGPT-6 Astraを使ったバイブコーディングで、楽しみのために作ったものとのことです。
playing mario 64 using a fly's brain pic.twitter.com/G4BmfMSWb8— Jessica Paquette (@barrelshifter) September 7, 2026
さらに開発者のエヴァン・スミス氏は、MaleCNS v1.0を『マインクラフト』の世界で動くハエに組み込む「NeuroCraft Fly」を発表しました。ハエはプレイヤーの接近や攻撃、食べ物、光などに対応し、用意された動作を行います。
I’ve successfully run the full retained MaleCNS v1.0 fruit fly connectome, all 166,700 neurons, inside Minecraft, with its simulated neural activity driving a fly’s movement.
V1 Currently in development. Built with the help of GPT-6 Astra.
Props to the @OpenAI team and… https://t.co/wqsrsN5DFn pic.twitter.com/BN9cGvwVP1— evnsnclr (@evnsnclr) September 4, 2026
今回の実験は、ショウジョウバエの脳をその働きまで含めて完全にコンピューター上へ再現したものではありません。コネクトームが示すのは主にニューロンの形状と接続関係であり、個々の神経細胞の性質や信号の伝わり方まで忠実に複製しているわけではありません。また、AIは主に顕微鏡画像から3次元構造を復元する工程で利用されており、「AI化されたショウジョウバエの脳が自発的にゲームを遊んでいる」という意味でもありません。
それでも、今回の『DOOM』『スーパーマリオ64』『マインクラフト』でのプレイ検証は、研究用データが公開後すぐに本来とは異なる用途へ応用された事例といえます。MaleCNS v1.0はCC BYライセンスで公開されており、神経回路と行動の関係を調べる研究や、生物の脳構造を参考にした新しい制御技術などへの活用が期待されます。
