新型エルグランドの「思想」と「走りの真髄」とは

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新型エルグランドの「思想」と「走りの真髄」とは

 かつてはフラッグシップミニバンの代名詞として君臨しながらも、ライバルの台頭とその後の長い沈黙により、市場での立ち位置が大きく変化した日産「エルグランド」が、今回実に16年ぶりに全面刷新されました。
 
 果たして新型エルグランドは、過熱する高級ミニバン市場において何を提示するのでしょう。王者の帰還か、それとも裸の王様なのか。
 
 今回、一般公道での試乗をもとに、その思想と走りの真髄を紐解きたいと思います。

 新型エルグランドの開発テーマは「ビジネスクラス・グランドツアラー」です。

【画像】超カッコイイ! これが“最上級”グランドツアラー「新型エルグランド」です!(80枚)

 要するに単なる移動手段としての多人数乗車空間ではなく、ステアリングを握るドライバーも、後席に身を委ねるパッセンジャーも、すべての乗員が長距離移動をストレスなく楽しめるキャラクターが徹底して追求されています。

 この考えは、歴代モデルはもちろんそのご先祖さまにあたる「キャラバン/ホーミー」のV型6気筒「VG30」エンジン搭載車から脈々と受け継がれてきた独自の価値といえます。

 ただ、誤解してほしくないのは、新型エルグランドは単なるドライバー偏重の「走りのミニバン」ではないという点です。

 走る・曲がる・止まるというクルマの本質を高めることで、結果としてすべての乗員を快適にするというアプローチを探っているところが、従来と大きく変わった部分です。

 エクステリアは“あえて”ギラついたメッキ加飾に頼ることなく、ボディカラーとブラックのコントラスト、そして伸びやかで踏ん張り感のあるプロポーションによって圧倒的な存在感を放っています。

 フロントマスクは日本の伝統工芸である“組子細工”から着想を得たグラフィックが施され、夜間には横一文字のリヤコンビランプとともに洗練された表情を見せてくれます。

 サイドからリアにかけては流れるような伸びやかなルーフラインとワイドスタンスにより、大柄なミニバンでありながらスピード感と堂々とした風格が見事に共存しています。

 ただ、そんな車体に対して標準ホイールのデザインが控えめすぎて、踏ん張り感が少なめなのが残念なところ。個人的には純正オプションで設定されるBBS製鍛造アルミホイールの装着をおススメしたいところです。

 なお新型エルグランドは車両重量が重い(G e-4ORCE:2440kg)ので、アフター商品のセレクトはくれぐれもご慎重に……。

 インテリアには水平基調のインパネに、12.3インチの大型統合ディスプレイ(モノリス)がスマートに配置されています。

 シフトセレクターは最新日産車定番のプッシュボタンを採用し、すっきりとしたセンターコンソールを形成していますが、指紋が付きやすい表面処理は要改善項目だと感じました。

 また、スライドドアスイッチがインパネ運転席右下のやや奥まった位置に配置されている点も、日常の使い勝手を考えると見直してほしい部分です。

 ただ、左右独立型の非接触充電トレイや実用的な収納の配置により、ドライバーを中心としたパーソナルな包まれ感もしっかりと演出されています。

 シートにはフロント/2列目共に日産独自の「ゼログラビティシート」を採用し、長時間のドライブでも疲れにくい体圧分散を徹底しています。

 見た目の豪華さこそライバルに負けるかもしれませんが、オットマン付きのセカンドシートは、乗員が自然にリラックスでき、横揺れにも強い実用的な着座姿勢を提供してくれます。

 格納式のアームレストやシンプルな操作系によって、シート横のスペースを活用できるなど、リアルな使い勝手における「座る自由度」はむしろ一枚上手です。

 先代は輸出(北米で「クエスト」として販売)の兼ね合いから全高は抑えられていましたが、新型エルグランドはこのクラスの標準の高さに刷新されています。

 今回はそれを活かして1列目から3列目にかけて徐々に着座位置が高くなる「シアターレイアウト」を採用しています。

 実際に座ると、2列目・3列目の乗員にも抜けの良い前方視界が確保されており、シックで落ち着いたインテリアカラーでありながらも、ツインサンルーフと相まってパーソナルでありつつ圧迫感のない居住空間を作り上げています。

日産の最新「電動化技術」と「シャシー制御」を惜しげもなく投入

メカニズムは日産の最新電動化技術とシャシー制御を惜しげもなく投入しています。

 パワートレインは第3世代「e-POWER」を採用。発電専用に最適化された新開発の1.5リッター直列3気筒「ZR15DDTe型」エンジン(140ps・228Nm)で、「エクストレイル」の第2世代e-POWERとは別物です。

 高効率な燃費スイートスポットを広く取りつつも力強い出力を発揮します。

日産の最新「電動化技術」と「シャシー制御」を惜しげもなく投入

 新たな電動化ユニットは、モーター、インバーター、減速機、増速機、発電機を1つの強固なモジュールに集約した「5-in-1」構造を採用。個々のユニットを締結していた従来構造に比べてユニット全体の剛性が大幅に向上し、エンジンルーム側からの振動や異音の発生源を物理的に抑制しています。

 ちなみに前後に搭載されるモーター(フロント151kW・300Nm/リア100kW・195Nm)のシステム合算トルクは、5リッターV型8気筒エンジン並みの500Nm以上を誇り、車両重量2.5トン級の巨躯をアクセル操作の初期からよどみなく滑らかに加速させてくれます。

 プラットフォームは基本骨格こそ従来型がベースですが、バッテリーパックや前後モーターといった電動化コンポーネントの搭載に伴い、フロア構造から骨格の結合部に至るまで大規模な再設計が行なわれており、ほぼ新設計といっていい進化を遂げています。

 車体には高張力鋼板の適用拡大と構造用接着剤の多用によって結合剛性を大きく引き上げると同時に、フロアの共振周波数を人の耳に届きにくい帯域へとシフト。これにより、どのシートに座ってもフラットかつ強固な剛性感を実現しています。

 この基本素性に加えて“三種の神器”をフル活用しながら、走りと快適性の両立を支えています。

 それが「e-POWER」と「e-4ORCE」(電動駆動4輪制御システム)、「インテリジェントダイナミックサスペンション」(電子制御ダンパー)を緻密にリンクさせた“統合制御”です。

 発進から旋回、停止に至るあらゆるシーンで、クルマの挙動と乗員の頭部揺れをフラットに保ちます。

 その効果の1つ目が「加減速・停止時のフラットライド制御(ピッチング抑制&スムースストップ)」です。

 アクセル操作やブレーキングの過渡域では、前後モーターの駆動力・回生配分をミリ秒単位で制御しながら、4輪の電子制御ダンパー減衰力を瞬時に最適化。これにより、加速時のスクワットや減速時のノーズダイブ、それに伴う頭の揺り返しを徹底的に遮断します。

 さらに停止直前には、回生ブレーキと油圧ブレーキの減速度を緻密に抜き取る「スムースストップ機能」がシームレスに連動。不快な“カックンブレーキ”を完全に解消し、同乗者が気づかないほど滑らかな完全停止を実現しています。

 効果2つ目は「意のままのライントレースを生む旋回頭出し制御(スリップアングル最適化)」です。

 ステアリングを切り込んだ瞬間、駆動トルクを素早く後輪へシフトさせてフロントタイヤの横力を解放しつつ、旋回内輪へわずかにブレーキを介入。同時に外側ダンパーの踏ん張りを高めることで、ロールを抑えながらノーズをスッとイン側へ引き込みます。

 その結果、大柄なミニバン特有のアンダーステアやもたつきを一切感じさせず、切り始めから最小限の舵角で思い通りのラインへ導く俊敏な回頭性を生み出しています。

“三種の神器”搭載で「後席も酔わない」フラットな走りを実現!

 新型エルグランドは、今まで以上に静粛性にもこだわっています。

 車体各部に遮音材や吸音材を最適配置したほか、フロントガラス、フロントドア、リアドア、リアクォーターガラスに至るまで高遮音ガラスを採用。

 さらに、エンジン透過音とロードノイズの双方向周波数に対して逆位相音を発する「新世代アクティブ・ノイズ・コントロール(ANC)」を導入しています。

 その静音効果はスマートフォンの音量バー“3段分”に相当するそうです。

“三種の神器”搭載で「後席も酔わない」フラットな走りを実現!

 そんな新型エルグランドで一般道から高速道路、そしてワインディングと様々な道を走って検証してきました。

 走り出しのフィールはEV(電気自動車)そのものです。

 徹底した遮音設計とANCの合わせ技により、車内は驚くほど静まり返っています。

 EVモードは想像しているより粘る印象で、そこから1.5リッターの発電エンジンが始動しても、その存在は遠くでかすかに唸る程度で、3気筒特有の粗さは綺麗に封じ込められています。

 エンジンサウンドも比較的低回転かつ低音で聞こえてくるため、3気筒特有のデメリットはほぼ感じません。

 この静寂空間があるからこそ、オプション設定される「BOSEプレミアムサウンドシステム」の22スピーカーが極上の音響体験をもたらしてくれます。発売後、受注における装着率の高さも大いに納得できます。

 最大のハイライトは、三種の神器をフル活用したフットワークです。

 加減速時には前後モーターのトルク配分で車体のピッチングやノーズダイブを抑制します。停止直前には「スムースストップ」が働き、誰でもスッと滑らかに停車させることが可能です。

 コーナリング性能は、ミニバンを忘れるレベルといっていいでしょう。

 ステアリングを切り込んだ瞬間、後輪の駆動トルク配分と内輪ブレーキ制御が素早く介入し、ノーズがすっとインを向き、そこからも大柄なミニバンにありがちな「前輪だけで無理やり曲げていく感覚」や「強いアンダーステア」は皆無です。

 旋回中も4輪のダンパー減衰力制御によってロールが抑えられているだけでなく、車体姿勢自体が極めて安定しているので、4つのタイヤで曲がっているのが誰にでも解るはずです。

 その結果、ドライバーは最小限の舵角で思い通りのラインを気負うことなくトレースできるのは言わずもがな、目線がぶれないので後席の乗員も左右に頭を揺さぶられず、クルマ酔いしにくい仕上がりといえるでしょう。

 要するに、意のままの走りは、単に速く走ることやドライバーのためだけでなく、同乗者をも快適にしてくれるのです。

 乗り心地は、基本素性の底上げや統合制御、ゼログラビティシートに加えて、235/60R18と過度な大径・低偏平にしなかったタイヤの採用も功を奏し、路面からの初期入力が非常に優しいです。

 路面状況によっては大入力時にサスペンション取り付け部へ「ドンドン」と重めの振動が響く場面もありますが、全体としては極めて優しい快適性といえます。

新型エルグランドは「大きな“高級セダン”」にあらず!

 新型エルグランドのドライブモードは、複数用意されています。

「SPORT」を選択するとアクセルレスポンスが俊敏になり、濃厚なステアリングの手応えと姿勢変化を極力抑えた減衰設定で、「君はNISMOバージョンか?」と思うほどの一体感が増したクルマの動きです。

新型エルグランドのドライブモードがスゴかった!

 一方「COMFORT(コンフォート)」は、入力に対する角がとにかく丸く、ストローク感が高めで穏やかな減衰設定で、クルーザーのような、ゆったりしているけどフワフワしないクルマの動きと、各モードの変化具合が大きいことも嬉しいポイントでしょう。

 ただ、欲を言えば常用域だと「STANDARD(=基準のモード)」と「COMFORT」の境界がややわかりにくい場面もあるので、むしろSTANDARDは路面状況やドライバーの操作をセンシングして最適制御する「AUTO」に進化させてほしいと感じたのも事実です。

 とはいえ、総じて路面からの大きな衝撃を上手に受け流す足回りに仕上がっています。

 ちなみにワンペダル走行が可能な「e-Pedal Step」をONにすると加減速のコントロール性は増しますが、新型エルグランドが目指した「滑らかな走り」と言う点では、OFFのほうが多くのドライバーと同乗者にとって自然で違和感のない仕上がりだと思います。

新型エルグランドは「大きな“高級セダン”」にあらず!

※ ※ ※

 そろそろ結論にいきましょう。

 多くの自動車メディアでは、ライバルと目されるトヨタ「アルファード/ヴェルファイア」(アルヴェル)との比較が語られがちですが、筆者(山本シンヤ)は、両者のキャラクターは本質的に似て非なるものだと考えます。

 アルヴェルは「高級セダンの大容量版」とするならば、対する新型エルグランドは「スカイライン」をはじめとする日産のDNAが息づく「GT(グランドツーリング)カーの大容量版」といえるでしょう。

 GTカーに求められる本質は「より遠くに」、「より速く」、「より快適に」、「より安全に」、「より楽しく」移動できる“総合性能”の高さにあります。

 新型エルグランドは「ドライバーが走らせて楽しく、同乗者が最も快適に過ごせる空間とは何か」という問いに対する日産の明確な解答となっています。

 その結果、スペック競争や表面的な豪華さの追求や道具としての機能性だけに留まらず、乗る人すべての感性に訴えかける本格的なグランドツアラーとして、唯一無二の存在感を放つ1台に仕上がっていると思っています。

 ただ、高度なシャシー制御などの「走りのための技術」は、見た目やモニターの大きさやシートのギミックなどと違って、カタログスペックや見た目では直感的に理解されにくい側面があるのも事実です。

 ピッチやロールを緻密に抑える統合制御が、結果として「後席の家族が酔わない」「長距離でも疲れない」という最大のベネフィットを生んでいるということを、ユーザーへいかに分かりやすく可視化して伝えることができるか。

 筆者はそれこそが、新型エルグランドの最大の“課題”だと思っています。

 要するに「ハードだけでなく“ハート”もシッカリ伝えてね」と、日産には強くお願いしておきます。ユーザーは技術ではなく、クルマを買うわけですので。