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限られた年金で生活するなか、大きな負担を押してまで家族や孫へ金銭的援助を続けてしまう高齢者は少なくありません。その裏にある意識とは。ある68歳女性の事例から、高齢期における家計の現実と心の孤立について考えます。

夫を失った68歳女性。子ども夫婦が生きがいに

東京都内で一人暮らしをする野村和美さん(68歳・仮名)は、月14万円ほどの年金で生活しています。

夫は3年前に亡くなりました。遺族年金と自身の年金を合わせた収入です。

住まいは築30年を超えるマンションで持ち家。それでも管理費と修繕積立金で月3万2000円かかります。食費は3万円前後。光熱費と通信費で約2万円。医療費や保険料などを含めると、毎月の生活費は12万~13万円になります。年金でトントンといったところ。足りないときは貯金を取り崩すしかありません。

夫が亡くなってから、和美さんの生活は大きく変わりました。

平日は一人で過ごすことがほとんどです。以前は夫と出かけていた休日も、予定がなければ自宅で過ごします。

そんな和美さんにとって、長女一家、とりわけ小学5年生の孫・颯太くん(仮名)との時間は、生活のなかでも大きな存在になっていました。

「ばあば、今度いつ来る?」

そう電話をしてくる孫がかわいくて仕方ありませんでした。

会えば一緒に食事をし、帰りにはお小遣いを渡し、誕生日やクリスマスにはゲーム機かゲームソフトをプレゼントします。ランドセルや自転車など、要所要所にかかる大きな出費は、基本的に和美さんが出していました。

「孫のためなら、多少高くても問題ない。自分のために使っても、そんなに欲しいものもありませんから」

しかし、支出を記録してみると、状況は違っていました。昨年1年間に孫や長女一家のために使った金額は、約48万円。夫が残した貯金から補っていました。

厚生労働省『2025(令和7)年 国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の平均所得金額は336.1万円(中央値273万円)で、全体の88.2%が全世帯平均(575.2万円)以下です。

また、その所得の61.3%(205.9万円)を公的年金・恩給が占めており、生活の年金依存度の高さが分かります。一方で、別居の子がいる高齢者世帯のうち、子へ実際に仕送り(援助)をしている世帯はわずか1.73%に過ぎません。

和美さんの年金収入「年約168万円」は高齢者世帯の所得下位約3分の1に位置し、そこから年間48万円(所得の約28.6%)もの援助を行うのは、家計実態から見ても重い負担といえるでしょう。

それでも和美さんは、援助をやめませんでした。

「お金がないと言って、孫との距離までできるのが怖かったんです」

夫を亡くしてから、家族と過ごす時間は和美さんにとって大切なものになっていました。

だからこそ、孫や長女から頼まれると、断ることができませんでした。

いつも祝ってくれた敬老の日だったが

今年の夏、和美さんは長女から連絡を受けました。

「お母さん、9月の連休なんだけど、今年は日取りがいいから家族で旅行に行こうと思って」

実は9月が誕生日の和美さん。敬老の日に合わせてお祝いをする、というのが毎年の恒例行事でした。しかし今年は日取りがいいからと家族旅行を優先するとのことでした。特に和美さんの誕生日や敬老の日についての話はありませんでした。

和美さんは少し間を置いて、「そう」とだけ答えました。

電話を切った後、ふと思ったといいます。

「私、うまいように利用されているだけでは……」

颯太くんが「ばあばに会いたい」と言ってくれるのは、会えばお小遣いをくれるからではないか。長女夫婦が連絡をくれたり、会いに来てくれるのは、孫にお金がかかるタイミングがほとんど--。

「お母さんに買ってもらおうよ」

そんな会話をしてから連絡をよこしてくるに違いない。そんな疑念が大きくなっていきました。

ある日、和美さんは長女に尋ねます。

「私のこと、何だと思っているの?」

「何よ、いきなり。お母さんは、お母さんでしょ」

「都合のいい人と思っているんじゃないの?」

「誰がそんなことを言ったのよ

ちょっとした口喧嘩になりました。

「誕生日を蔑ろにされただけで、こんなに絶望的な気持ちになるなんて……たまたま日取りがよかったから家族旅行と、浮かれているだけかもしれません。でも普段から利用されているだけと考えてしまうんです」

内閣府『令和7年 人々のつながりに関する基礎調査』によると、同居人がいない単身女性で孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した割合は6.9%。さらに、自身の孤独感に影響を与えた出来事として「一人暮らし」(15.2%)や「家族との死別」(11.3%)が多く挙げられており、和美さんのように夫と死別し単身となった高齢期は、孤独を深めやすい実態があります。

経済的負担を重ねてでも家族との絆を維持しようとする背景には、孤立への強い不安があるのかもしれません。金銭に依存しない対等な関係の再構築や、地域の相談窓口など社会的頼り先の確保が重要といえそうです。