タバコや過去の治療も関係?『腟がん』の“原因”となりやすい人の特徴【医師監修】
腟がんの発症には、ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染をはじめ、放射線治療の既往歴や喫煙習慣、免疫機能の低下など、複数のリスク因子が関係しています。どのような要因が発症に関与しているかを知ることは、予防策を考えるうえでの第一歩です。ここでは、腟がんの主な原因について整理しながら解説します。
監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
筑波大学医学群医学類卒業 。その後、北海道内の病院に勤務。 2021年、北海道札幌市に「宮の沢スマイルレディースクリニック」を開院。 日本産科婦人科学会専門医。日本内視鏡外科学会、日本産科婦人科内視鏡学会の各会員。
腟がんの主な原因:発症に関わるリスク因子を理解する
腟がんがなぜ発症するのか、その原因についての理解は予防や早期対策に直結します。このセクションでは、 がんの発症に関わる主なリスク因子について、科学的な観点から詳しく解説します。
HPV感染と腟がんの関係
腟がんの発生原因として最も科学的根拠が確立されているのが、ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染です。HPVは性的接触のある女性の多くが一生に一度は感染するごく一般的なウイルスであり、200種類以上の遺伝子型が存在します。そのうち、発がんリスクが高いとされる「高リスク型HPV」(特に16型や18型など)が、腟がんの発症に深く関与していることが判明しています。
通常、HPVに感染しても約90%は本人の免疫力によって自然にウイルスが排除されます。しかし、免疫機能の低下や体質的な要因によって感染が数年以上にわたり持続すると、ウイルスの遺伝子が粘膜細胞のDNAに組み込まれ、正常細胞が前がん病変(腟上皮内腫瘍:VAIN)へと変化し、最終的に腟がんへと進行する可能性があります。研究報告によると、原発性腟がん患者の組織の約60~70%から高リスク型HPVが検出されています。
現在普及しているHPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)は、子宮頸がんだけでなく、同じ高リスク型HPVが原因となる腟がんや外陰がん、肛門がんの予防にも非常に高い効果があることが確認されています。公費による定期接種対象年齢(小学6年生~高校1年生相当)の段階で確実に接種を受けることが、将来のがん発症リスクを大幅に下げる鍵となります。
放射線治療歴・DES曝露・その他のリスク因子
HPV感染以外にも、腟がんの発症リスクを高める因子がいくつか知られています。その代表的なものが、過去に子宮頸がんや子宮体がんなどの治療として骨盤領域への放射線治療(照射)を受けた既往歴です。放射線はがん細胞を死滅させる一方で、周囲の正常な腟組織にも微少な影響を与えるため、治療後数年から数十年を経て照射部位から二次的ながんが発生することがあり、これを「放射線誘発がん」と呼びます。
また、歴史的に有名なリスク因子として「ジエチルスチルベステロール(DES)」という合成エストロゲン製剤への胎内曝露(ばくろ)があります。DESは1940年代から1970年代にかけて欧米を中心に流産防止薬として妊娠中の女性に投与されましたが、この薬を胎内で浴びた女性(DES娘)に「明細胞腺がん」という特殊なタイプの腟がんが多発することが判明しました。現在は世界的に使用禁止されていますが、該当する世代の女性は継続的な婦人科診察が必要です。
・その他のリスク因子としては以下のようなものが挙げられます。
・子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)や子宮頸がんの既往歴(共通のHPV感染リスクがあるため)
・長期にわたるペッサリー(子宮脱の治療で腟内に挿入するリング状器具)の使用による物理的・慢性的な粘膜刺激
・喫煙習慣(タバコの有害物質が腟粘膜の局所免疫を低下させ、HPVの持続感染を促進する)
・HIV感染や免疫抑制剤の使用による顕著な免疫力の低下
これらのリスク因子が重なることで発症率は上昇するため、自身の既往歴や生活環境を正しく把握しておくことが重要です。
まとめ
腟がんは、決して「まれな病気だから自分には関係ない」と言えるものではありません。知識を持ち、前兆に気づき、適切な行動を取ることが、女性の身体を守るうえで大切な一歩です。
腟がんに関して気になる症状がある方、または検診を受けたことがない方は、ぜひこの機会に婦人科・産婦人科への受診を前向きにご検討ください。自分の身体を守るための行動を、今日から始めることが勧められます。
参考文献
国立がん研究センターがん情報サービス「腟がん」
日本産科婦人科学会「子宮頸がん・HPVワクチンに関する患者さんへの情報」
公益社団法人日本産婦人科医会「女性の健康週間・がん検診啓発資料」

