次期日銀総裁の有力候補に急浮上との情報も 「円安ファイター」三村淳財務官の奮闘

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「大物財務官の証」

円相場を押し上げる効果は限定的だったものの、米国の威を借りて市場にこれまでにない介入警戒感を植え付け、一段の円安進行には歯止めをかけた--。日米両政府が7月末に実施した約28年ぶりの円買い協調介入はこう評価できるだろう。

実際、8月末の外為市場では、米国の利上げ観測の高まりを受けた円売り・ドル買いで介入後初めて1ドル=160円台を付ける場面があったが、従来に比べて円安の勢いは限定的だった。市場関係者の間に「急激な円安になれば、再び日米協調介入が発動される」との警戒感が根強いためだ。

円安と輸入物価高の負の連鎖に懸念を強めてきた高市早苗政権内では、日米協調介入劇を演出した財務省の三村淳財務官(1989年旧大蔵省)の株が大きく上昇した。8月人事で「大物財務官の証」とされる3年目続投がすんなり決まり、首相の覚えも目出たいことから、霞が関では次期日銀総裁候補に推す声も挙がっている。

三村氏の持ち味は、「国際通貨マフィア」として投機筋の機先を制す能力に長けているだけなく、時の政権がどうして欲しいかを機敏に察知する政治的センスに秀でていること。官邸や国会対策を担う官房文書課長を経験しており、政治家の心の機微を汲み取って動ける。介入に踏み切った7月末というタイミングにその一端がうかがえた。

「消費税減税は(今年2月の)衆院選で国民に約束したものだ」。高市首相は7月30日、食料品にかかる消費税率(現行8%)を2年間実質ゼロにすると正式表明した。衆院選後に鳴り物入りで立ち上げた超党派の社会保障国民会議で消費税減税について意見集約できず、2年間で計10兆円に上る財源の手当てもできないままの独断だった。

前日の円相場は1ドル=163円台で推移し、約40年ぶりの安値圏で推移していた。消費税減税の表明で財政悪化への懸念が高まり、放置すれば円売り圧力がさらに強まるのは必至だった。

「大きなサプライズだった」

しかも米国では、インフレ率の上昇を背景に米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測が台頭。対照的に、6月に追加利上げを決めたばかりの日銀は7月31日の金融政策決定会合で政策金利を据え置くことが確実視されていた。「日米金利差拡大」の思惑から投資家の間では1ドル=165円を超える円安進行も見込まれていた。

一計を案じた三村氏は、米財務省と綿密に腹合わせした上で2段構えの円買い介入を仕掛けた。まず30日に日本単独による大規模な円買い・ドル売り介入を実施。それでも円売り圧力を抑えきれないと見るや、31日にはかねて仕込んできた米国との協調介入を繰り出した。

市場関係者は「日銀の追加利上げ見送り後の介入は要注意と考えていたが、その前日から始まり不意を突かれた。米国との協調介入という追撃は大きなサプライズだった」(大手行ディーラー)と吐露した。三村氏に裏をかかれたことを率直に認めた発言である。

「国民への支援を理由に首相が消費税減税を唱えながら、エネルギーや食料など輸入品の価格上昇につながる円安進行を招き、生活を苦しめる結果となっては目も当てられなかった」。官邸筋は今回の介入をこう高く評価する。三村財務省は高市政権に最も恩が売れる絶妙のタイミングで「切り札」を繰り出したことになる。

三村氏はその後の振る舞いも巧妙だった。

米国が助け船を出した理由

協調介入を公表した8月3日には、記者団に「いわば日米通貨同盟の完成形だ」と大々的にアピール。

米国側もベッセント財務長官が「経済安全保障は国家安全保障であり、日米同盟はいずれにも築かれている。必要なら何でもやる」などと呼応した。あたかも円相場が一定水準を下回れば自動的に協調介入する「日米密約」があるかの如く市場に印象付けた。

米国の歴代政権は基本的に投資マネーの自由な流れを尊重し、為替介入を大災害や金融危機などが起きた際の非常手段に限ってきた。

前回1998年の日米協調の円買い介入は、日本の不良債権問題の深刻化とアジア通貨危機が重なる中、国際金融市場の混乱を抑えるのが目的。2011年には円売りの協調介入が実施されているが、この際は東日本大震災が発生した日本が急激な円高進行に見舞われ、経済の更なる落ち込みが世界経済に波及することが懸念されたためだった。

世界的な危機でもないのに、米国が今回、あえて日本に助け船を出したのはなぜか。それは三村財務省が、米国側が抱える弱みに付け込み、「円安進行をこれ以上許せば、米国にも悪影響が及ぶ。日本に協力したほうが米国のためだ」とベッセント氏をはじめ米財務省側を粘り強く説得してきたからだろう。

三村財務官はいかにして、米国を円安対策に引き込んだのか。その舞台裏と、財務省を待ち受けるさらなるハードルを解説する。後編記事『日米協調介入の立役者…三村財務官が「次期日銀総裁」に向けて越えなければならないハードル』に続く。

【つづきを読む】日米協調介入の立役者…三村財務官が「次期日銀総裁」に向けて超えなければならないハードル