不評だったケアマネジャーの更新制度は廃止へ、「介護の水先案内人」に本当に必要な研修と学びとは

写真はイメージ(buritora/Shutterstock.com)
近年の医療・介護制度では、生産年齢人口が激減する「2040年」を視野に入れた見直し論議が本格化している。これまでは人口的にボリュームが大きい「団塊世代」が75歳以上を迎える「2025年」を意識した制度改革が目指されていたため、一つの節目を迎えたことになる。
さらに、最近の物価上昇で医療・介護事業所は経営難となっており、これまでとは違う施策も展開されようとしている。本連載では、「分水嶺」に差しかかっている医療・介護制度の見直し論議や現場の動向を追う。
本稿では、介護保険のサービス調整などを担うケアマネジャー(介護支援専門員)の負担軽減策を取り上げる。
具体的には、今年の特別国会で成立した改正介護保険法等では、ケアマネジャーの資格を5年ごとに更新する制度の廃止が決まったほか、国会や厚生労働省の審議会では、書類作成や救急搬送時の同乗など、報酬を受け取れない業務「シャドウワーク」の負担を減らす必要性も話題になっている。
確かに利用者や家族から見ると、ケアマネジャーは介護保険のサービス調整などで相談に乗ってもらう「介護の入口」、または「介護の水先案内人」であり、ケアマネジャーの負担を軽減することで、長く現場で働いてもらうことは重要である。
しかし、ケアマネジャーの業務の実情を考えると、単に負担を軽減すれば済む話ではない事実にも気付かされる。今回は現場で不評だった更新制度の廃止を巡る議論を検討するとともに、利用者の視点に立って、ケアマネジャーに習得してもらいたい能力や、研修の在り方を再考する。
32~88時間も拘束、現場で不評だったケアマネ更新研修
まず、更新制度の廃止を巡る経過を簡単に整理する。この仕組みは2006年度に創設され、ケアマネジャーは研修受講を義務付けられるようになった。この研修は都道府県単位で実施されており、実務経験の有無などに応じて、研修の内容が細かく決まっているほか、受講しなければならない時間も32~88時間で設定されている。
例えば、最も短い32時間の研修について、東京都の場合、3年周期で見直される介護保険制度の情報に加えて、▽利用者や家族の意思に沿って介護保険サービスなどを調整する「ケアマネジメント」の実践や倫理、▽他の専門職との連携--などのカリキュラムが設定されている。
しかし、2025年12月の社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会意見書で、更新制度の「廃止」が明記され、今年の特別国会で成立した改正介護保険法で廃止が確定した(現時点で廃止の時期は未定)。
政府が今回、廃止に踏み切った背景として、ケアマネジャーの業務負担を減らしたいという意図がある。実際、更新制度について、現場のケアマネジャーでは不満が渦巻いており、2022年ごろにはSNS上で廃止を求める書き込みが広がったこともあった。
ここで、現場の不満の大きさをご理解いただくため、筆者の経験を紹介したい。筆者はケアマネジャーの有志に対し、定期的にオンラインで講演する機会をいただいており、参加していたケアマネジャーの一人が「国が定める研修の1万倍面白い」という感想を述べた。
そこで、筆者が「いやいや、褒め過ぎでしょ」と突っ込むと、別のケアマネジャーも「更新研修は本当に面白くないし、役に立たない」と述べた上で、「グループワークや休憩の時、『これはいい』と思った人材をスカウトするために参加しているほど、中身がスカスカ」などと同調し、他のケアマネジャーも一様にうなずいていた。
これは研修中の雑談であり、話題に出ている「研修」の全てが更新研修を指しているとは限らない。それでも以上のような声は決して少数派ではなく、多くの現場で共通して耳にする。
このため、更新制度の廃止が決まったことについて、現場では歓迎する声が多く出ているが、厚生労働省の方針には疑念と不安も示されている。同省が更新制度を廃止する一方、ケアマネジャーの資質を維持する観点に立ち、定期的な研修を義務付ける考えを示しているためだ。
では、何が問題なのか。国会や審議会の議論では、負担軽減の方法論として、分割受講やオンデマンド化などが語られているが、筆者は必ずしも本質的ではないと考えている。以下、運転免許と対比させつつ、議論を深めたい。
運転免許との比較で見える、更新研修の「費用対効果」
運転免許を持っている人は3~5年周期で「運転免許センター」などを訪ね、講習を受けていると思う。その際に「面倒くさいな」「講習資料が荷物になる」などと思わない人は恐らく少数派であろう。
それでも我慢できるのは、費用は3000~4000円程度であり、いろいろな手続きや講習を加味しても2~3時間で済むためである。さらに、免許が失効すると、車を運転できなくなるし、筆者のようなペーパードライバーでさえ、「身分証明書が欲しい」という効果を期待している。
つまり、知らず知らずのうち、受講者は運転免許の更新に伴う拘束時間と費用、そして更新で得られる効果を天秤にかけ、その必要性を検証している。もし「効果が費用や時間に見合わない」と考えれば、運転免許を更新しないかもしれない。
これらの3つで言うと、ケアマネジャーの更新制度はどう整理できるだろうか。まず、時間の点で見ると、すでに触れた通り、最短でも32時間程度の研修受講が義務付けられており、多忙なケアマネジャーの負担感を増幅させていることは間違いない。
費用で見ても、地域で差があるものの、多くのケースでは3万円程度。しかも、所属している自治体や事業所の支援がないと、ケアマネジャーが自腹で負担することになる。
こうした負担がケアマネジャーの不満を増幅させているのは事実であり、厚生労働省が分割受講やオンデマンド化などを検討しているほか、コスト面についても「教育訓練給付金」などの活用を促している。
しかし、筆者は「効果」という点が気になっている。ケアマネジャーから見ると、更新しなければ業務を続けられなくなるため、効果がゼロになることはないとはいえ、更新研修が最小で32時間、3万円程度の時間と費用に見合う分だけ学びの効果をもたらしているのか、もし役立っていないのであれば何が問題なのか、さらに利用者や家族の暮らしを支える内容になっているのか、といった問いは欠かせないだろう。
「適切なケアマネジメント手法」にも現場から不満の声
ここで、論点になるのが「適切なケアマネジメント手法」との関係である。
これは厚生労働省と民間シンクタンクで開発された手法であり、「根拠に基づいて、共通的な知見を示す」という考え方の下、ケアマネジメントで留意しなければならないポイントが定型化されている。すなわち、ケアマネジャーが利用者や家族から情報を収集する際、効率的に「あたり」を付けることに主眼が置かれている。
具体的には、図表1の通り、疾患や状態にかかわらず共通の基盤となる44項目の「基本ケア」に加えて、介護出身のケアマネジャーが医療職などとの連携を図りやすくするため、認知症や脳血管疾患、誤嚥性肺炎など疾患ごとの留意点を示す「疾患別ケア」で構成されており、2024年度から全ての法定研修に組み込まれている。

しかし、いくつかの現場の反応を聞く限り、こちらの評判も芳しくない。
国の委託調査では「他の職種との連携で役立った」などの意見が紹介されている(2023年3月、日本総合研究所「適切なケアマネジメント手法の策定、普及推進に向けた調査研究事業報告書」)が、実際の更新研修では講師が適切なケアマネジメント手法に関する資料を読み上げているケースも少なくないようだ。
こうした実情がケアマネジャーの不満を増幅させている面がある。
なぜ更新制度は生まれたのか、研修の原点を振り返る
では、更新制度を廃止した後、どんな研修が考えられるだろうか。筆者は専門職教育の専門家ではないし、現在の更新研修を受けた経験もないが、利用者の視点に立って、望ましい方向性を示したい。
特に、国会や審議会の議論では負担軽減の方法論が先行する一方、SNS上などでは現在の更新制度に対する嫌悪感からか、「これからも研修が義務付けられるのか」という不満が散見されるため、岡目八目の視点を提供したい。
最初に、検討するのは「そもそも、現在の更新制度はなぜ生まれたのか」という点である。当時の専門誌を読むと、厚生労働省幹部が座談会で下記のように述べている(2005年7月『介護保険情報』より)。
●介護支援専門員の皆さんは本当にまじめで、いま自分がやっている仕事について、「本当にこれでよいのだろうか」と悩んでいるということでした。
●仕事の結果が数量化できないので、いま自分のやっている仕事が、利用者にとって最適のサービスになっているのかどうかが、いつも不安なようです。非常に多忙で、肉体的にもきつくて、相談もできなくて、でもやっぱり自分の資質・能力にいつも不安を持っている人たちなのだと感じました。
●だからこそ、介護支援専門員の方々を孤立させないこと、後方支援の体制をきちんと整えることに加え、研修の機会をしっかり用意することは、とても大切だと思います。
●ケアマネジメントの分野は、これから学問的にもいろいろ発展があるでしょう。ケアマネジメントの技法やアセスメントの手法もどんどん進化、発展していくでしょう。そうなると、やはり生涯教育や生涯研修の体系が必要になってくる。
●現場で10~20年仕事する人もかなり出てくるはずで、そうすると、定期的に現場を離れて研修をする機会を設けることは、とても大切だと思います。そこで、5年に1回なり、更新の機会に定期的に研修の機会を設けることを考えました。
上記は今でも十分、通用する普遍的な内容を含んでいると感じられる。まず、ケアマネジャーが「悩んでいる」「仕事の結果が定量化できない」という部分については、確かにケアマネジャーは複雑で多面的な暮らしを支えており、その業務に明確な答えは存在しないし、不確実性にさらされている。
これは要介護者やケアマネジャーだけでなく、実は私たちの暮らしそのものである。私たちは進学や就職、結婚、入院など大きなライフイベントのほか、「今日の昼食は何にしようか」という身近なことについても、さまざまな情報を基に、「それっぽい答え」を見つけているに過ぎない。
さらに、「何が幸せか」といった価値観は個人の主観や経験に基づいており、個人の価値観や幸福を単一の数値で完全に捉えることは難しい。
しかも、ケアマネジャーが支えるのは介護という非日常に直面した高齢者や家族の暮らしである。当然、高齢者や家族の意思は揺らぐし、状況も変わる。その結果、ケアマネジャーが利用者・家族とともに組み立てる支援方針は暫定的にならざるを得ず、この状況に悩むのは当然であり、むしろ筆者は「悩んでいないケアマネジャーなんて信頼に値しない」とさえ考えている。
だからこそコメントに出ている通り、「孤立させない後方支援」「生涯教育・生涯研修」の仕組みが求められることになる。
知識を詰め込むだけではない、「無知の知」に気付く学びを
上記の視点に立って、最後に研修の在り方を少しだけ整理したい。
まず、利用者から見ると、ケアマネジャーは最初に相談する「介護保険の入口」、あるいは「介護の水先案内人」であり、介護保険制度についての知識を確実に身に付けてもらう必要がある。このため、国から制度改正の知識を広く伝えることは必須であり、こうした研修は相当程度、分割受講やオンデマンド化で対応できると思われる。
一方、実務経験の浅いケアマネジャーについては、複数の事例に対応することで、コミュニケーション能力や観察眼などを習得してもらいたいと考えており、座学による研修だけでは不十分である。
ここで、分かりやすく生成AI(人工知能)との対比で考える。今後、アセスメントの結果などをデータ化してAIに学習させれば、ケアプランの原案が作れるようになると思われるが、ケアマネジャーが利用者や家族から多くの情報を取る上で、コミュニケーション能力が欠かせないし、その前提として、利用者や家族から信頼してもらうことが求められる。
さらに、利用者や家族の表情や家の雰囲気など、「人間しか把握できない情報」を加味できる観察眼も必要になる。
これらは経験を積んで習得するしかないため、若手・中堅に対しては、適切なケアマネジメント手法の活用を含めて、ケアマネジメントの「イロハ」を習得してもらう研修が必要となる。
最後に、ベテラン向けの研修としては、自分の経験を唯一の「答え」としていないか、省察してもらう視点が重要である。ここで求められるのは知識の詰め込みではなく、事例の検討などを通じて、自分の経験の相対化ではないか。
つまり、業務に慣れるほど、自分の専門性や経験だけで簡単に結論を出してしまう場面はケアマネジャーに限らず、誰にも起こり得る。特に、ケアマネジャーの業務は非定型的であり、答えがない複雑で多面的な暮らしを支えており、自分の経験や視点を相対化する機会を定期的に作ることで、「別の方法があったのでは」と省察してもらうことが欠かせない。
すなわち、過去の実践を全否定するのではなく、異なる視点や意見に気づく「無知の知」を探求するような場づくりである。
以上のような工夫を講じれば、ケアマネジャーの学びの意欲を引き出すことが可能となり、負担感も減らせるのではないか。受講時間数の見直しやオンデマンド化などは方法論に過ぎず、こうした議論に終始している限り、ケアマネジャーの不満は解消しにくいと考えられる。
筆者:三原 岳
