甲斐翔真、芸能生活10周年、『風、薫る』直美の夫・吾郎役で朝ドラ初出演「訪問看護に携わっている母が喜んでくれた」鼻歌シーンは猛特訓
『エリザベート』や『ミスサイゴン』など、近年ミュージカルでの活躍が目覚ましい、俳優の甲斐翔真さん。芸能生活10周年の節目に、『風、薫る』(総合、毎週月曜〜金曜午前8時ほか)で連続テレビ小説初出演を飾った。同作は、看護師という職業の確立に貢献した大関和と鈴木雅をモチーフにしたバディドラマ。見上愛さん演じる一ノ瀬りんと、上坂樹里さん演じる大家直美の2人が、看護婦養成所で共に学び、成長する物語。原案は、田中ひかるさんの『明治のナイチンゲール 大関和物語』(中央公論新社刊)。甲斐さんが演じるのは陸軍近衛師団の軍人・小川吾郎。直美と結婚し、幸せな結婚生活を送っていたが、日清戦争が勃発。妊娠中の直美を残して出征し、帰らぬ人となった。甲斐さんに作品に込めた思いを聞いた。(取材・文:婦人公論.jp編集部)
【写真】直美と吾郎の結婚を祝う会では、看護婦養成所の同期生が集まった
* * * * * * *
想像の100倍いい結果
<2016年『仮面ライダーエグゼイド』でデビュー。順調に活躍の場を広げ、近年はミュージカルに力を入れ、2022〜2023年は『エリザベート』にルドルフ役で抜擢。2026年は『ミス・サイゴン』にクリス役で出演を控えている>
朝ドラ出演には運命的なものを感じています。この5年、舞台を中心に仕事をしてきました。映像とは違って、舞台のお仕事はだいたい2〜3年前に決まる。2026年の上半期は映像の仕事がやりたいと思って予定を空けていたんです。舞台の経験がどれくらい自分の身になったのか、映像という違う世界でこそ確かめられるものがあると思っていました。
ただ、予定を空けておくのは博打のようなもの。仕事が入るかわからない。でも、ふたを開けてみたら、今年は、夜ドラ『ラジオスター』と朝ドラ『風、薫る』が決まって。題材も役柄にも恵まれて、想像していた100倍いい結果になりました。
朝ドラ初出演が決まった時、母親が泣いて喜びました。母は訪問看護の仕事をしているんです。母は、3人の子育てが終わってから看護学校に通って、資格を取ったんです。数年前から看護師として働いています。それくらい看護に対する思いが強い人。だから、息子が朝ドラで看護婦の主人公を妻にすることができて、感慨深いものがあったんだと思います。
まっすぐに人と向き合える
<吾郎は、佐賀出身で農家の三男として育った。陸軍近衛師団の軍人だ。直美との出会いは、幼なじみを見舞うため、帝都医大付属病院を訪れた時。差し入れのルールを守らずに直美に怒鳴りつけられた。看護婦として毅然と働く直美に惹かれ、求婚するも一度は断られる。だが、りんに背中を押され素直になった直美から求婚され、結婚に至った>
吾郎は相手を尊ぶことができる人だと感じています。吾郎のようにまっすぐに人と向き合える人は当時も今も珍しいのではないでしょうか。直美に会った時も、女性として惹かれたというよりは「信念を持った人としてかっこいい」と感じて、心が動くものがあった。「人としてのかっこよさ」にどっぷり惚れてしまったんです。吾郎はあきらめない心の持ち主でもありますが、そこは僕も似ているところです。

(『風、薫る』/(c)NHK)
近衛師団の役割は天皇陛下を守ること。吾郎は、国を守ることが家族を守ることにもつながると思っています。明治の軍人役なので、所作指導や軍事所作指導もあり、撮影当初は苦労しました。今でも忘れられないのが、クランクインの日。佐賀弁で長いセリフを言うシーンでした。佐賀弁で軍人としてお芝居をするので、いろいろな感覚をフル稼働させたのは覚えています。お芝居では、不思議と軍服を着ると背筋が伸びました。軍服姿と浴衣では口調も姿勢も自然と変わるので、衣装がお芝居に与える影響を実感しました。
役作りのために、時代背景や近衛師団について調べた結果、「1人の人間である」ということを忘れないようにしようと決めました。そして、台本を読むほどに、「明治の人物だからこう演じたほうがいい」と落とし込む必要がないように感じました。「時代の変化の狭間にいる青年」だと感じたんです。
「直美役に説得力」
直美を演じている上坂樹里さんとは初共演です。最初の印象はすごく可憐で、華のある方。だけど、共演するほどに、心に強くて硬い核のようなものを持っている人だと感じるようになりました。
上坂さんは、「直美役に苦労した」とおっしゃっていたけれど、僕からすると上坂さんは直美役のためにお芝居の世界に入ったと思うくらい、説得力がありました。

(『風、薫る』/(c)NHK)
現場では上坂さんとは、それこそ今も思い出せないような意味のないたわいもない会話をしていました。
吾郎をめぐる状況が過酷になって重い空気が流れるシーンを撮った時に、たわいもない会話をしていたからこそ、その重さが生きてきたと思っています。
鼻歌シーンは猛特訓
<第101回では、吾郎が料理中に鼻歌で『埴生の宿』を披露。イングランド民謡の「ホーム・スイート・ホーム」が原曲で、戦争映画『ビルマの竪琴』でも使用された曲だ。劇中では日清戦争が始まり、戦争の気配が色濃くなってきたことや、甲斐さんはミュージカルで活躍していることもあり、その歌声はSNSでも話題になった>
制作側からは「うまく歌わないでほしい」と言われました。5年ほどミュージカルをやらせていただいていますが、そんなことを言われたのは初めて。もちろん理由があって、吾郎は軍人ですからプロの歌手ではない。今の歌い方や日本語の発声法とは全く違うので、明治の歌い方になるように歌唱指導の方に教えていただき、猛特訓しました。

(『風、薫る』/(c)NHK)
吾郎と直美が幸せに暮らしているシーンも印象に残っています。料理を作っている吾郎の背中に、直美が「今日のご飯は何?」と問いかける。
『風、薫る』は生死がからむシリアスな場面も多くあるので、張り詰めた空気になりがちですが、吾郎と直美のシーンでは、みんな口角が上がって笑顔になるという現象が起きていました。(笑)
軍人としての変化
<日清戦争が始まり、軍人の吾郎はいつ招集されてもおかしくはない状況に。そんな中、直美の妊娠が発覚。吾郎と直美は子どもの名前を考え、男でも女でも「明」と名付ける。だが、出産まであと少しという時期になって吾郎の出征が決まった>
出征のシーンは特に心が動きました。自分の中で、走馬灯のように吾郎のこれまでの心の動きをなぞったんです。
吾郎は、直美と出会う前は、国のために自分の身を捧げるくらいの気持ちで軍人として仕えていたけれど、子どもができてその名前を考えたときに軍人としての気持ちが初めて、揺らぎました。

(『風、薫る』/(c)NHK)
生まれてくる子どもの名前を考えることは、未来を考えること。なのに、自分はいつ出征するのか分からない。名前を決めても会えるのか分からない。「帰れなかったらどうしよう」と考えたのは小川にとって、多分初めてだったでしょう。
「直美のために帰ってきたいという」思いはもちろんあったけれど、心の底から「帰ってきたい」と願ったのが子供の名前を付けている時でした。
日本中の人とつながった
朝ドラに出演したことで、今まで僕を知らなかったような方に知っていただけたと感じています。全国放送なので、日本中の人とつながったような感覚になりました。
おばあちゃん世代の方からSNSで絵文字の入った、すごく可愛いメッセージをいただいたこともあって。僕はおばあちゃん子なのですごくうれしかったですね。
俳優として学んだこともあります。これまでは、自分がどう立ち回るか、どうしたら芝居をうまく見せられるのか、ある意味、そればかり考えてお芝居をしていた部分があって。
でも、『風、薫る』という視聴者の多い作品に参加したことで、視聴者の方が何を求めているのか考えながら、台本を読んだり、撮影に臨んだりするようになりました。大きな目線で、視聴者がどう思うかを考えて演じた経験は、これからも生かしていきたいと思っています。

