パリッコ 大泉学園「さにょる」の「炙りイカゲソマヨ」
1年前、地元の駅前の繁華街からは少し離れている場所に突然酒場がオープンした。酒飲み友達のあいだで噂になっていたお店に、数日前ようやく行くことができた。看板のデザインや窓ガラスに大きくプリントされたロゴにも今風の遊び心がある。席に着くやいなや、気になるメニューを発見した。
大泉学園に「さにょる」という不思議な名前の酒場がオープンしたのは、およそ1年前のことだ。
僕は買いものなどでよく通る道だが、駅前の繁華街からは少し離れているので、こんな場所に酒場が!? と興味を持った。などと言っておきながら、やっと初めて行けたのがつい数日前なんだけど、ここが地元の飲み友達などから聞いていた噂どおりの名店だった。
まだ若いご夫婦が始められた店らしく、カウンターとテーブル数席の店内は、かなりモダンなセンスだ。看板のデザインや、窓ガラスに大きくプリントされたロゴにも、今風の遊び心がある。
席に着くやいなや、気になるメニューを発見。毎週月曜と水曜限定で提供されている「さにょ呑みセット」。内容は、好きなドリンク1杯に、つまみが3品。「豚バラ串 2本」「枝豆の浅漬け」と、「炙りイカゲソマヨ」または「肉みそ野菜(甘 or 辛)」のどちらか。これで税込合計1,350円はかなりお得に感じる。ドリンクにホッピーセット、選べるつまみに炙りイカゲソマヨを選び、これでスタート。
で、結論から先に言ってしまうと、これが美しいまでに完成された、非の打ち所のないセットだった。
どの料理もていねいに作られていて、しかも独創性がある。名物のひとつである豚バラ串は、薄切りの肉を串に巻きつけ、ほんのりと衣をつけて揚げ、ぽん酢ベースっぽいたれをじゅわっとかけたような一品。熱々でさくさくでジューシー。肉の量もしっかり食べごたえがあって、これが単品だと1本100円というのもすごい。
枝豆の浅漬けはその名のとおりだが、ゆでてから漬けてあるそのひと手間が酒飲み的には嬉しいし、なにより、なんで今までこの味を知らなかったんだろう! というくらい、つまみに良すぎる。
極めつきは炙りイカゲソマヨで、ひと口食べた瞬間、ふいの感動に包まれた衝撃で、しばしフリーズしてしまった。いくらなんでも好きすぎる! そもそも近年の僕はいかが異常に好きで、特にゆでたのにマヨ七味をかけたのを、家の晩酌でも日常的に食べている。ただ、それが少年時代の悟空だとしたら、さにょるのこれはスーパーサイヤ人3だ。
たっぷりのいかげそが炙られ、平皿に平らに盛られている。その上を、かつて酒場で見たことがないくらいの量のマヨネーズが覆いつくしている。あえてある、に近いかもしれない。マヨネーズがほんのりと茶色く、適度にゆるいので、醤油やなんらかの調味料を加えたオリジナルソースと言ったほうがいいだろうか。ほんのりと燻製香もあるような気がする。さらに、七味と青のり。ところどころが焦げたいかが香ばしく、そこにとろりと濃厚なマヨソースが絡み、いかげそ界の至宝だ。

当然酒がすすみ、「ホッピー 中」(280円)、「芋焼酎 薩摩宝山」(500円)のソーダ割りと、テンポが上がってゆく。もちろんつまみもまだまだ頼む。日替わりボードから「梅ニラだれ厚あげ」(580円)、グランドメニューから、「タコブツの青唐辛子醤油和え」(680円)、「ホルモンの天ぷら」(730円)、「しょうが焼きそば」(630円)。
「梅ニラだれ」という字面だけでも酒が飲めるのに、それが炙られた厚揚げにたっぷりのっている。たこぶつは、青唐醤油にほんのりと大葉の香りが利かせてある。脂ののった牛ホルモンの天ぷらという絶対に重いはずの料理が、ポン酢風のたれにつけると不思議と軽快に食べられる。どれもこれも、なんと才気みなぎる料理なんだろうか。
ぷりぷりとした太麺を甘めのソースとしょうが風味で炒めた焼きそばは、どこかお好み焼きなどの粉もんを思わせる味で、これまたつまみにいい。本当に何気なく、これにいかげそをちょんとのせて食べてみて、またまた衝撃が走った。これは……炙りイカゲソマヨしょうが焼きそばだ!
って、ただメニュー名を並べただけなんだけど、そのあまりの相性の良さを的確に表現する言葉を探す気力が、もはやなくなってしまった。今目の前に、炙りイカゲソマヨしょうが焼きそばがあって、それをつまみに酒が飲めている。それでいいじゃないか。言葉はいらない(仕事放棄)。
長く料理人をされていたというご主人は地元在住で、地域の人々が集まる遊び場のような店を作りたいと、大泉で自分の店を始めたのだそう。その際、他にも名酒場がたくさんある街で、あまり普通の料理で勝負してもおもしろくないからと、独創性のあるメニューをあれこれ考えるようになったのだとか。それが目先の珍しさで終わらず、どれも絶品なのが、さにょるのすごいところだ。
と、一度行っただけの僕が偉そうに語ってしまったが、まだまだ頼んでみたいメニューがありすぎる店。今後とも末長く通わせてもらいたい。
あ、そういえば、不思議な店名の由来をうっかり聞き忘れてしまったので、次回は忘れずに聞いてみよう。

* * *
『酒場と生活』毎月第1・3木曜更新。次回第55回は2026年9月3日(木)17時公開予定です。
Credit:
文・イラスト=パリッコ

