イギリスのロンドンでは2019年に、市内中心部に乗り入れる一定の排ガス規制を満たしていない車両に対し、通行料の支払い義務を課す「超低排出ゾーン」が導入されました。この車両に対する排ガス規制が、ロンドンに住む子どもたちの「肺の健康状態」を改善したという証拠が報告されました。

Impact of the Ultra Low Emission Zone on lung function growth in children in London, UK: a prospective parallel cohort study - The Lancet Public Health

https://www.thelancet.com/journals/lanpub/article/PIIS2468-2667(26)00163-5/fulltext

Introduction of London’s ULEZ linked to improved lung growth in children | Imperial News | Imperial College London

https://www.imperial.ac.uk/news/articles/2026/introduction-of-londons-ulez-linked-to-improved-lung-growth-in-children-/

First Evidence That London's Scheme to Cut Car Emissions Worked To Improve Child Health : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/first-evidence-that-londons-scheme-to-cut-car-emissions-worked-to-improve-child-health

ロンドンの超低排出ゾーンは市内中心部の大気汚染問題を解消するため、特定の地域に乗り入れる乗用車・バス・バイクなどを対象に設けられ、2023年には超低排出ゾーンがロンドン全域に拡大されました。大型車両の排ガスに含まれる主要な汚染物質・二酸化窒素は超低排出ゾーンがなかった場合と比較して、ロンドン中心部では54%、ロンドン全域でも27%削減されたと推定されています。

大気汚染にさらされるとがんを含む肺疾患や早死のリスクが高まるほか、メンタルヘルスの悪化や認知機能の低下といった悪影響も指摘されています。また、子どもや青少年においては大気汚染物質への暴露が肺の発達障害と強く関連しており、それが生涯にわたるぜん息・慢性閉塞性肺疾患・心血管代謝疾患などのリスクを高めることにつながります。

そのため、車両による大気汚染を改善するための取り組みは、住民の健康状態を改善する方法として理にかなっています。しかし、ロンドンにおける超低排出ゾーンの設定が実際に住民の健康に与えた影響はよくわかっておらず、運転手に課されるコストを懸念する人々からの批判にさらされてきたとのこと。

そこで、インペリアル・カレッジ・ロンドンロンドン大学クイーン・メアリー校などの研究チームは、超低排出ゾーンの設定がロンドンに住む子どもたちの肺の健康状態を改善したのかどうかを調査しました。



研究では超低排出ゾーンが設定される1年前の2018年から2022年にかけて、超低排出ゾーンが設けられているロンドンと、ロンドンから北に約56km離れたルートンに住む子どもたちの肺の健康状態が測定されました。ルートンは人口約22万5000人の工業都市であり、大気汚染物質の組成は似ているものの、研究期間を通じて超低排出ゾーンは設定されませんでした。

被験者は合計84の小学校で募集された、研究開始時点で6〜9歳だった3400人以上の子どもであり、人数はロンドンとルートンでほぼ半々でした。研究チームは毎年小学校を訪問し、対象となった子どもたちに1秒間思いっきり息を吐き出してもらい、吐き出した息の量を測定して肺機能を評価しました。これは「FVC1」と呼ばれる指標であり、「FVC」は勢いよく息を吐き出した時の肺活量(努力肺活量)を、「1」は1秒間を意味しています。

以下のグラフは、2018〜2022年の空気中の二酸化窒素の量を表したもので、青色の棒グラフがルートン、赤色の棒グラフがロンドンです。いずれの都市も徐々に二酸化窒素の量が減っていますが、減少幅はロンドンの方が大きいことがうかがえます。



子どもたちのFVC1推移を表したグラフが以下。子どもたちが成長しているため、青い棒グラフのルートンと赤い棒グラフのロンドンの両方で年々増加する傾向がみられます。2018〜2019年の時点では明らかにロンドンの子どもたちは平均的な肺の発育が悪く、FVC1がルートンの子どもより低かったものの、徐々に差は縮まって2022〜2023年ではほとんど差がなくなっているのがわかります。



臨床的に肺機能障害があると判断された子どもたちの割合は、ロンドンでは超低排出ゾーンの設定前後で14%から9%に減少したのに対し、ルートンでは9%から7%への減少にとどまりました。また、親・子ども・教師たちはロンドンの空気がきれいになってぜん息の症状が軽くなったと回答したほか、子どもたちが自転車や徒歩で通学する割合はロンドンがルートンの4倍だったとのことです。

研究チームは論文で、「超低排出ゾーンの導入前は、交通関連の大気汚染物質への暴露はロンドンの方がルートンよりも高く、ロンドンの子どもたちの平均FVC1およびFVCはルートンの子どもたちより低い状態でした。その後の4年間で、ロンドンの子どもたちの肺機能の成長率はルートンを上回り、研究終了時には両地域の平均FEV1は同等になりました」と結論付けています。

論文の筆頭著者で、ロンドン大学クイーン・メアリー校の呼吸生理学者であるヘレン・ウッド氏は、「超低排出ゾーンによって大気汚染が軽減されることはすでに知られていましたが、同時に子どもたちの肺の健康状態も改善されたことがわかりました。これはロンドンに住む子どもたちや親にとって非常に重要な発見です」と述べました。