ススキノ首切り事件から3年 ――「瑠奈ファーストだった」田村修被告が瑠奈誕生前に元同僚に語っていた「意外な言葉」
争点は刑事責任の有無
2023年7月1日、北海道最大の歓楽街、札幌・ススキノのラブホテルで男性が殺害され、首が切断された状態で発見された。この猟奇的な殺人事件は、日本中に大きな衝撃を与えた――。
「2023年7月24日、札幌市の住宅から被害男性の首が見つかりました。その後、殺人などの疑いで田村瑠奈被告と両親が逮捕・起訴された。ですが、事件から3年が過ぎた今も主犯で長女の瑠奈被告(32歳)の裁判は見通しが立っていません。一方、娘の殺人や死体損壊などのほう助罪などに問われていた瑠奈被告の両親は地裁、高裁での審議は終わり、すでに判決も出ています」(全国紙社会部記者)
父親で精神科医の修被告(62歳)は2026年1月、札幌高裁で、死体損壊ほう助のみが有罪とされ、懲役1年執行猶予3年の判決が言い渡されている。
母親の浩子被告(63歳)についても「死体損壊ほう助の成立は認められない」として、懲役1年2カ月、執行猶予3年の一審判決が破棄されたうえで、懲役6月、執行猶予2年の判決が言い渡された。
高裁で減刑されたものの両親は無罪を訴えており、判決を不服として最高裁判所に上告し、争う構えを見せている。
「瑠奈被告は精神疾患を患っているとされ、『刑事責任能力の有無』が裁判の争点とされています。札幌地検は起訴前の鑑定留置では『刑事責任能力は問える』と判断していましたが、現在、2回目の精神鑑定が行われているようです。この結果次第で、瑠奈被告側は刑事責任能力を問うことはできないとして刑を軽減させる、もしくは無罪を訴えるつもりとみられています」(前出・全国紙社会部記者)
事件が注目された背景には、猟奇的な犯行態様ばかりでなく、異常ともいえる“家庭環境”もあった。そこで、瑠奈被告と一家について振り返りたい。
両親を“ドライバーさん”と“彼女”と呼んで
「瑠奈被告は小学校2年生のころから不登校気味になりました。18歳ごろから自宅に引きこもるようになり、自傷行為やODなどを繰り返すようになった。修被告のもと、通院しながら自宅で療養生活を送っていたそうです」(両親の裁判を傍聴した記者)
そうした生活の中で、瑠奈被告とは別の人格が徐々に現れるようになったという。
「両親が『瑠奈』と呼びかけると、『その子は死んだ』と言い、自らを『シンシア』『ルルー』などと呼ぶようになった」(前出・傍聴した記者、以下「」も)
つまり、瑠奈被告は自らが別人格であると主張するようになったのだ。おまけに両親が自分の名前を呼ぶことは許さず、“お嬢さん”と呼ばせ、修被告のことは“ドライバーさん”、浩子被告のことは“彼女”などと呼ぶようになったという。
やがて一家の生活は瑠奈被告を中心とした「瑠奈ファースト」となり、両親は瑠奈被告の要求に逆らえなくなっていた。
「例えば、家の中には衣類やぬいぐるみなどが大量にあったそうですが、これらを動かしたり捨てたりすると瑠奈被告は激怒することもあったと言います。そのため両親の生活スペースは限られたものだったようです」
また、事件当時、瑠奈被告に友達はおらず、外出する機会もほとんどなかった。昼夜逆転気味の生活で、同居する家族以外とはほとんど接点のない状態だった。興味があるものと言えばホラー映画やSMで、そのうちに札幌市内にある怪談BARやナイトクラブなどに足を運ぶようになる。
そこで、出会ったのが被害者となる男性だ。
「娘が家族以外の人間と接点を持つことができるようになったことを、両親は喜んだ。男性とラブホテルに行くことになった際も、複雑な思いを抱きながら送迎などに協力していたようです。だが、そこで瑠奈被告は被害者とトラブルになった。憤慨した瑠奈被告は復讐を果たすため、被害者を探していた。修被告はそんな瑠奈被告を手伝っていました」
瑠奈被告はSMプレイにも興味を持っており、修被告はその練習台になったこともあるという。傍から見れば両親と娘との関係は異様に見える。だが、そこには両親なりの理由があった。
娘の心をこれ以上、壊したくない
「両親が恐れていたのは瑠奈被告の心が壊れること。つまり、症状の悪化です。精神科医である修被告はそのあたりも考えた上で瑠奈被告と接していた」
瑠奈被告が被害者の首を持ち帰り、浴室に遺棄した際も、修被告は問い詰めることはしなかった。
「なにを持ってきたのか」と尋ねると瑠奈被告は「首」と答え、少し間を置いて「拾った」と言ったそうです。7月2日、両親は「瑠奈被告が拾った首というものが自宅の浴室にある」ことを確認、そして報道を通して事件が起きたことを知った。
修被告の供述調書にはこの時のことについて、「『頭が真っ白になっていた』『娘がそんな冗談を言うわけがないので、首なら被害者の首だと思った』と記されていました」
修被告は法廷で、「信じたくないが、とんでもないことが起きたと思った」とその当時の心境を明かしている。
そして7月7日ごろ、損壊した被害者の遺体を目にし、すべてを知ることとなった。
その間、両被告は「信じたくないと思っており、事件の話はしなかった」(供述調書より)と、瑠奈被告を問い詰めることもなく、警察に相談することもなく、ただ迫りくる逮捕の時まで、変わらぬ日常を過ごしていたという。
「両親は瑠奈被告が殺人を計画していたことを知ってもなお容認し、協力したとされています。修被告は瑠奈被告に頼まれてのこぎりなどを購入し、犯行が行われたラブホテルへの送迎も担当した。そして自宅に被害者の頭部が持ち帰られ、浴室に置かれてもなお警察に通報することはなかった。それどころか、瑠奈被告に言われるがまま、頭部を損壊する様子まで撮影していたのです」
それに対し、修被告は法廷で「これ以上、娘を追い詰めたくなかった」と述べていた。その一方で、「朝から晩まで奴隷のようにしたがっていたわけではない」とも反論、あくまでも両親は、精神的に不安定な瑠奈被告を守るため、支えるためだったという旨を証言していた。
また、浩子被告は切断された被害者の頭部と瑠奈被告の行動について「地獄」と表していた。
人間の赤ちゃんほど嫌いなものはない
事件発生から裁判までが報じられると、田村一家の家庭環境は度々世間の注目を浴びた。
しかし、元からそうだったわけではない。今回、事件以前の修氏を知る人物が筆者の取材に応じた。
その証言から浮かび上がるのは、事件を起こした娘の言いなりになるような人物とは思えない修氏のかつての姿だった。
「とにかく腰が低くて誠実な先生でした」
そう振り返るのは、修被告の元同僚だ。元同僚は「修先生は患者への対応も丁寧で、周囲からの評判も良い精神科医でした」と当時を振り返る。
「心を病んだ方をケアするお仕事です。彼は患者さんの環境の分析や、具体的な症例について人一倍、勉強していたと思います」
当時の修被告は30代。同僚からも患者からも人望を集め、医局内でも期待の若手医師だったという。しかし、前出の元同僚はそんな修被告の「別の一面」を覚えていた。それはある患者への治療方針を話し合う会議の場でのことだ。
「なぜ、そんな話になったかはよく覚えていませんが……」と前置きをしたうえで、修被告の言葉を次のように振り返った。
「先生は『この世の中の生き物のなかで人間の赤ちゃんほど嫌いな生き物はいない』と言いました。この言葉は30年近く経った今でも忘れられません。
その理由について『赤ちゃんは泣くことしかできず、言葉による意思疎通ができない』という旨を説明していたと思います。この時、先生はどんな精神状態でこんなことを言ったのかまでは分かりませんが、子供が苦手なのかなという印象は受けました」
しかし、その後、瑠奈被告が誕生すると、元同僚の修被告に対する印象はガラリと変わることになる。
胸ポケットには瑠奈被告の写真
「胸ポケットにいつも瑠奈の写真を入れていて、いわゆる子煩悩なお父さんという印象に変わりました。子供が苦手と思わせる発言をしていた方でも、父親になると人はこんなに変わるものなんだなと思いました」
だが、その子煩悩ぶりは幼少期から行き過ぎていたのかもしれない。2024年10月、証人として法廷に出廷した浩子被告の兄の証言からその様子が垣間見えた。
「浩子被告の兄は瑠奈被告が幼稚園の時の親子関係を証言しました。例えば食事中にみそ汁が天井に付くくらい、激しくみそ汁椀をぶちまけたり、ほかの子がゲームしているときに『途中でやめた』ことなど、いくつかの状況を説明しました、この時、瑠奈被告の両親は彼女を咎めることはなく、兄は驚いたことを明かしていました」(前出・傍聴した記者)
修被告らは瑠奈被告に対し、「子どものころはきちんとしつけをしてきた」と述べていたが、第三者はそうは見ていなかった。
「自分の子どもは別」というが、修被告にしてみれば、まさにそのような心境だったのだろう。
こうしたことから元同僚は「逮捕された田村修容疑者(当時)は田村先生と同姓同名の別人だと考えていたんです」と語る。
「私の知っている田村先生の印象とどうしても結びつかなかったんです。先生は誠実で子煩悩な医師でしたから。でも、子煩悩だったからこそ、瑠奈さんのことは、大切に育てすぎたのかもしれませんね。
他人の家庭については外野がとやかく言うべきことではないとは思っていますが、『我が子を千尋の谷に突き落とす』ではないですが、時には瑠奈さんが間違ったことをした際に、きちんと叱ることも必要だったのかもしれません」
第三者から見れば歪んでいた娘への愛し方――いったい、なにが正解だったのだろうか。
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