激変。もはや、「知」は文系・理系の区別すら要らなくなるに違いない…想像を絶する能力をもつ「量子コンピュータ」。じつに意外な、苦手とする「簡単なこと」
AIの「次にくる時代」に備えよう!
急速に広がり、すでに生活のあらゆる場面に浸透しつつあるAI。一方で、その限界を指摘する声も聞こえてきます。そんななか、政府が技術イノベーション戦略として掲げ、超複雑な計算も瞬時にこなすその処理能力の高さから、産学各方面より注目を集めるのが「量子コンピュータ」です。
とはいえ、今までのコンピュータとどう違うのか、複雑な計算はできても単純計算に不向きとはどういうことか? データのコピーなどはできるのか、量子機器につきものの「量子エラー」って何? ……と、まだまだわからないことだらけと感じている人も少ないはず。
“すごそうだけど、まだよくわからない”量子コンピュータを、日米での量子コンピュータの関連特許を発明した著者が、懇切丁寧に解説する『量子コンピュータに何ができるか 知識ゼロから理解できる原理としくみ』が登場、すでに刊行前から大きな注目を集めています。
「産業革命以来のインパクトをもたらす」とまで言われる量子コンピュータの本質を、量子力学の基本から解説する本書から、必読の最新トピックをご紹介していきます。
今回は、本書の入り口となる「はじめに」を一挙公開します。
*本記事は、『量子コンピュータに何ができるか 知識ゼロから理解できる原理としくみ』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
「AIをはるかに上回るインパクト」をもたらす技術革新
原子レベル以下の存在ーーたとえば電子のふるまいを完全にシミュレートするには、現在のコンピュータの能力では不十分である。量子力学に基づいた新しいコンピュータが必要だーー。
これは、1981年5月におこなわれた「コンピュータを用いた物理シミュレーション(Simulating Physics with Computers)」と題された講演で、アメリカの物理学者、リチャード・ファインマンが語った言葉です。朝永振一郎らとともにノーベル物理学賞を受賞したことでも知られるファインマンは当時、最も尊敬を集める科学者の一人でした。
ファインマンによる、この先駆的な概念の提唱が、本書『量子コンピュータに何ができるのか』の主人公である「量子コンピュータ」のはじまりです。
それから半世紀近い時間が流れた現在、世界中で量子コンピュータの研究が盛んにおこなわれ、開発競争は熾烈(しれつ)を極めています。
生成AIに代表される人工知能がここ数年で一挙に存在感を増してきましたが、「AIの次に来る」、しかも「AIをはるかに上回るインパクトをもたらす」技術革新として期待されているのが、量子コンピュータなのです。
量子コンピュータの実用化で、何が起こるか
『量子コンピュータに何ができるのか』の中で詳しく紹介するように、「万能型」とよばれる量子コンピュータが実現するためには7つの条件が必要ですが、その条件を満たすために、超伝導現象を応用するものや、イオンや中性原子を用いるもの、あるいは光子や銅酸化物を使用するものまで、さまざまな方式が模索されています(各方式については本書の第8章で解説します)。
量子コンピュータが実用化されれば、現在の暗号の主流となっているRSA暗号が容易に解読され、重要なセキュリティ問題が生じることが広く知られています。しかし、影響はそれにとどまりません。
「超複雑な計算が高速におこなえる」「扱えるデータ量が多い」といった特徴を活かし、物理学では高温超伝導現象の解明、数学では組合せ最適化問題、生命科学・化学では創薬や触媒の研究、地球科学では地球温暖化問題……と、自然科学の幅広い分野で重要課題の解決に貢献することが期待されています。
「脳と心」の謎を解き明かす可能性
興味深いのは、量子コンピュータが「脳と心」の謎を解き明かす突破口になるかもしれないことです。イギリスの数学・物理学者であるロジャー・ペンローズが提唱する「量子脳理論」によれば、脳内の情報処理は量子コンピュータとよく似たメカニズムに基づいており、そのはたらきが心をもたらすのだといいます。
量子コンピュータの登場によって、「心とはなにか」という人類の長年の疑問に、ついに答えがもたらされるのかもしれません。
さらには、「言葉の謎」を乗り越える可能性も指摘されています。じつは、私たちがふだん当たり前のように話している日本語や英語などの自然言語の原理は、いまだ解明されていません。
言語のしくみと量子計算は相性が良いとされ、量子コンピュータによって初めて、自然言語がなぜ成り立ちうるのか、その本質に迫れるかもしれないのです。
本書では、心や言葉をはじめ、哲学的な問いにまで視野を広げ、文字どおりの文理融合に量子コンピュータが資する可能性についても考えをめぐらせていきます。
じつは、「1+1」みたいな単純な計算は苦手…?
さまざまな可能性を秘める量子コンピュータですが、じつは「1+1」などの単純な計算には不向きで、データのコピーも難しいというデメリットも抱えています。
その背後には、「量子力学に基づいたコンピュータ」ならではの特徴がひそんでいるというのですが……?
本書『量子コンピュータに何ができるか』では、その理由を理解するためにも必要不可欠な量子力学の基礎知識から、順を追ってていねいに解説していきます。いくらか難しい箇所もありますが、なるべく端折(はしょ)らずに基本的な要素から説明することに努めました。
物理学に慣れていない人にもお読みいただけるよう工夫して書かれていますので、ぜひじっくり読み進めてください。
それでは、量子と量子コンピュータをめぐる探索を始めることにしましょう。
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