〈サマソニ炎上〉「素人のカラオケ大会」サカナクションで隣客が大熱唱…山下達郎は苦言、King Gnuは歓迎 アーティストで違う“ライブで歌う”論争

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近年、音楽コンサートで周囲の観客が大声で歌う「熱唱客問題」がたびたび議論を呼んでいる。アーティストの歌声を純粋に聴きたい層と、合唱をライブの醍醐味と考える層の間で意見が対立し、SNS上でも論争が絶えない。

【画像】満員電車のように混んでいたサカナクションのステージ

 

B’zやKing Gnuの事例や、矢沢永吉山下達郎といったアーティスト側の見解を紐解き、ライブにおける「楽しみ方」の適切な線引きとはどこにあるのかを考察する。

サマソニで隣の客が大熱唱

音楽コンサートをめぐる“熱唱客問題”は、近年たびたび議論になっている。

昨年、B’zの東京ドーム公演を訪れた女性が、1曲目から大声で歌い続けていた後ろの男性客に対し「声量を抑えてほしい」とお願いしたところ、「ライブは楽しむものじゃないの?」と返された。

この出来事がXで紹介されると、「高いチケット代を払って稲葉さんの歌を聴きに来ている」という共感の声が上がる一方、「ライブなんだから歌って楽しんでもいい」との反論も相次いだ。

また、今年2月には、King Gnuの全国ツアー仙台公演でも同様の問題が浮上。「周囲の歌声が大きすぎて井口理の歌が聞こえない」といった不満がSNS上で噴出した。

すると翌日、King Gnuの井口本人が「僕としてはですね、求めてることなので」と言及。「ガンガン歌ってもらって」「隣の声うるさいなって思ったらそれ以上に歌ってください」と、観客の合唱を歓迎した。

それでも「本人が認めているならいい」「いや、本人の歌を聴きたい」と意見は分かれた。

そして8月、「SUMMER SONIC 2026」でも再び“熱唱客問題”が浮上。舞台は約2万人を収容できるとされている、『MOUNTAIN STAGE』。当日、入場規制がかかるほど観客を集めたサカナクションのステージでのこと。

「当初は、結構いい場所で見られるなと思っていたんですよ」

そう振り返るのは、東京都に住む30代の男性。ドーム公演などと違って、座席の指定がないSUMMER SONIC。お目当てのアーティストをより間近で見るために、 サカナクションの2組前から少しずつ前方へ移動し、メンバーの姿が見えるほどの位置で開演を迎えた。

演奏が始まり、2曲目はSNSでバズった「夜の踊り子」。ここで会場のボルテージは一気に上昇。山口一郎の歌に応えるようにレスポンスするくらいまでは、男性も一緒になって楽しんでいたそうだ。

「でも、周りの観客がコーラスのパート以外も大熱唱していて……。途中から山口さんの声がよく聴こえなくなり、『一体、何を騒いでいるんだろう』と、だんだん冷めていきました」

男性も隣客に「歌うなと言いたいわけではない」と話す。引っかかったのは、曲が変わっても、大きな歌声が聞こえ続けたことだった。

「だんだん『3次会のカラオケ?』という気分になってしまったんです。僕だって好きな曲なら口ずさみます。でも、安くないお金を払ってサカナクションを観に来ているので、知らない人たちの歌声を聴いてもな……という感覚でした」

アーティストによって異なるルール

SNSでも「山口さんの歌声があまり聴こえなかった」「素人のカラオケ大会」といった不満が上がる一方、「ぶち上がった」と絶賛する声もあった。

「あれだけ大熱唱できたら、周りを気にせず歌っている本人は楽しかったでしょう。でも、僕は山口さんではない人たちの歌声ばかり聴こえてきたので、テンションだだ下がりでした」

と、静かな苛立ちを口にした。とはいえ、観客が一緒に歌うこと自体は、ライブならではの楽しみ方のひとつでもある。演者が客席にマイクを向け、大合唱が生まれることも珍しくない。

ただ、演者に求められて歌うことと、演者が歌っている最中も隣の客が熱唱し続けることは、同じ「ライブで歌う」でも意味が違うのではないか。

問題は「歌っていいか、いけないか」という二択ではなく、どこまでなら周囲の鑑賞を妨げずに楽しめるのか。その線引きだろう。

この問題に明確な答えを出しているのが、ロックミュージシャンの矢沢永吉だ。矢沢のコンサートでは、1曲目から本編終了まで「永ちゃんコール」や「一緒に歌う」といった行為が禁止されている。

現在のルールが定着するきっかけとなったのは、2019年に公式ホームページで発表された「私設応援団お断りについて」だった。さらに2021年のツアーで声出しを禁止したところ、ファンから「永ちゃんの歌がちゃんと聴けてすごくよかった」「周りに騒ぐ人がいなかったので快適だった」といった声が多く寄せられた。

そこで、コロナ禍による声出し規制がなくなった後もルールを継続。2026年のツアーでも、本編中の「永ちゃんコール」「一緒に歌う」は禁止する一方、開演前とアンコール以降は、周囲の迷惑にならない範囲で声を出していいことになっている。

興味深いのは、単純に「ライブでは声を出すな」としているわけではないことだ。本編は矢沢の歌と演奏を聴き、アンコール以降は観客も声を出して盛り上がる。つまり、「聴く時間」と「声を出す時間」の境界線を主催者側があらかじめ引いている。

また、山下達郎も観客の熱唱について自身のラジオ番組で興味深い発言をしている。

「ライブで(アーティストと)一緒に大声で歌うと、妻から『あなたの声しか聴こえない』と怒られる」という相談が寄せられると、山下は「ダメです」と回答。周囲はあなたの歌を聴きに来ているのではない、という趣旨で苦言を呈した。

ただし、山下はのちに「お客が一緒に歌うのをダメだと言った覚えはない」と説明している。問題にしたのは歌う行為そのものではなく、「隣の人に迷惑をかけるほどの歌い方」だったという。

ちょっとした配慮で作る「みんなが楽しむ」空間

では、アイドルグループではどうだろうか。

STARTO ENTERTAINMENT所属のアーティストの公演では、ペンライトやうちわ、コール&レスポンスなど、独自の応援文化が長年形成されてきた。曲によっては観客が一緒に歌う場面もあるが、「この曲のここでは一緒に歌う」といった“お約束”がファンの間で共有されているケースもある。

もちろん、STARTO側が「演者の歌唱中に一緒に歌ってはいけない」と公式ルールで定めているわけではない。それでも、明文化されたルールとは別に、「ここでは声を出す」「ここでは演者の歌を聴く」といった楽しみ方が、ファン文化として共有されている。

それは他のアイドルグループでも一緒だろう。公式YouTubeチャンネルで『Cheering Guide』として、ファンのコール&レスポンスの大まかなガイドを出しているグループもいるぐらいだ。

一方で、観客の大合唱そのものが、ライブの醍醐味になっているケースもある。イギリスの伝説的バンド・オアシスの名曲「Don't Look Back In Anger」を数万人が一斉に歌う光景などは、その象徴だろう。

まさに十人十色。アーティストそれぞれの文化があることがわかる。

アーティストと一緒になって歌いたいと思うファンからは、「本人の歌をしっかり聴きたいなら、ライブ映像を家で見ればいい」という意見が出てくる。

しかし、生の歌と演奏をその場で体感したいからこそ、観客はライブ会場に足を運ぶ。逆に、「大声で歌いたいならカラオケに行けばいい」と言い返してしまえば、議論は平行線だ。

結局、「どこまで歌うか」の感覚は観客によって違う。求められた部分だけ歌う人もいれば、好きな曲を最初から最後まで歌う人もいる。矢沢永吉のように明確なルールがないからこそ、その違いが客席でぶつかってしまう。冒頭の男性は、こう話す。

「ライブをどう楽しむかは人それぞれだと思います。大声で歌うことも、その人にとっては楽しみ方のひとつなのかもしれません。ただ、そのすぐ隣には、あなたの歌ではなく、バンドの歌と演奏を聴きに来た人がいる。同じファンであるならばこその思いやりもライブでは大事なように思います」

やはり、万人が納得する答えはないのだろう。ただ、ひとつだけ基準を挙げるなら、自分の歌声で隣の人が演者の歌を聴けなくなっていないかどうか。そこまで考えることも、ライブを「みんなで楽しむ」ことの一部なのだ。

取材・文/千駄木雄大