中田敦彦

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否定的な意見も

 シンガポールに移住していたオリエンタルラジオの中田敦彦が、8月10日放送の「しゃべくり007」(日本テレビ系)で日本に帰国後初となる地上波バラエティ出演を果たした。英語教育をテーマにした企画の中で、中田はシンガポール移住の経験や子供の教育について熱弁を振るい、持ち前の大きなリアクションや高いテンションも存分に見せていた。【ラリー遠田/お笑い評論家】

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 しかし、放送後にはその振る舞いに対してSNSでは「痛々しい」「すべっている」といった厳しい声も相次いだ。もともと好き嫌いの分かれやすい人物ではあるが、今回の出演については否定的な意見が目立っていた。

中田敦彦

 番組を見た個人的な印象としては、中田がそこまで空回りしているとは感じなかった。彼自身は日本でテレビに出ていた頃とほとんど変わらない振る舞いをしているように見えた。

 今回の企画では、文化人を含む複数の出演者が英語教育をテーマに話をしていて、中田もその中の1人だった。テレビに不慣れな出演者も多い中で、テレビに慣れている中田が力強く積極的に発言をしていて、特別に目立っているように見えたため、彼の芸風が肌に合わない人にとっては不快に感じられたのかもしれない。

 中田はもともと特殊なタイプの芸人だった。オリエンタルラジオとして「武勇伝」でブレイクした当初から、既存の芸人像に自分を合わせるのではなく、自分なりの見せ方を発明することで存在感を示してきた。テレビ出演を減らしてYouTubeへ活動の軸足を移してからは、その傾向がいっそう強くなった。

 YouTubeにおける中田の話し方は、1人で視聴者の注意を引きつけるのに向いている。声を大きくして、表情や身ぶりを誇張して、話のポイントを明確に示す。そのスタイルを何年も磨いてきた結果、中田は「誰かと一緒にしゃべる人」というより、「1人で番組そのものを成立させる人」になった。今回の「しゃべくり007」で一部の視聴者が抱いた違和感は、その完成されたYouTuber的話法が、地上波の集団トークの中にそのまま持ち込まれたことから生じたのだろう。

「引き算」の技術も必要

しゃべくり007」は出演者同士の絶妙な呼吸によって成り立っている番組である。ネプチューン、くりぃむしちゅー、チュートリアルといった長年テレビの現場で活躍してきた芸人たちが、互いに空気を読み合ってやり取りを進めていく。そこでは、誰かがしゃべり始めたら一歩引く、自分に話が振られてもあえて全部を説明しない、自分が笑いを取るよりも周囲にいじられる余地を残す、といった「引き算」の技術も必要になる。テレビのバラエティでは、しゃべる技術と同じくらい、しゃべらない技術が重要なのである。

 今回の中田は、そのテレビ特有の呼吸から少し外れて見えた。本人としては久しぶりの地上波出演でサービス精神を発揮し、できるだけ場を盛り上げようとしていたのだろう。しかし、大きな声や派手なリアクション、自分の経験を論理的にまとめて伝える話し方は、1人で視聴者に向き合うYouTubeでは強力な武器になるが、多人数のトーク番組では過剰に映ることがある。それに対して視聴者が「空気を読めていない」と感じたのも不思議ではない。

 今回の出演は、中田とテレビの距離が以前より大きくなったことを示した出来事だった。中田自身のスキルは上がっていて、知識も経験も増えている。しかし、その能力は「自分が中心となるメディア」に最適化されている。テレビバラエティが求めるのは、それとは少し違う能力である。テレビから離れていた時間が長かったため、今回の出演ではそのズレが目立って見えたのだろう。

 もっとも、そのズレ自体が中田敦彦という人物の面白さでもある。完全にテレビの空気に適応し、無難に立ち回る中田よりも、自分のやり方を押し出して少し浮いてしまうぐらいの方が、むしろ本人らしいとも言える。

 久しぶりの出演に対して違和感や批判が集まったのは、中田が変わったからであると同時に、テレビというメディアがいまだに独自の作法を持っていることの証明でもある。1人で世界を作るYouTubeと、複数人で空気を共有するテレビ。その境界線をまたいだときに生まれた摩擦こそが、今回の騒動の正体だったのではないか。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部