映画ちいかわ“特典シール転売”に賛否。鈴木おさむ「特典商法が悪ではない」納得の理由
放送作家の鈴木おさむ氏は、特典商法そのものはファンの応援や再観賞のきっかけになり得るとして肯定的に捉える一方で、「問題は特典ではない。特典の力が、映画の力を超えることだ」とする(以下、鈴木氏による寄稿)。
『映画ちいかわ』の特典を巡り、争奪戦が起きている。特典を求めて劇場は満席が続出し、フリマアプリでは高値で転売されているという。
僕はそれまで『ちいかわ』をほとんど見たことがなかったのに、なぜかとてつもなく気になり、公開2日目に子どもと映画館へ行った。特典目当てではない。最初は、かわいいキャラクターとちょっと毒強めのギャグがある、楽しい映画だと思っていた。
ところが物語は、徐々に不穏になり、やがてサイコホラーのような領域へ入っていく。そしてあの終わり方だ。上映後、劇場の温度が5℃くらい下がった気がした。とんでもないものを見た。映画でこんなに興奮したのは久しぶりだ。
SNSでは、大人たちの考察と「子どもが泣いた」「怖がっていた」という親たちの声が飛び交った。その賛否の声も映画の熱を高め、爆発的なヒットにつながったのだろう。
僕も第1弾のチャームミニフィギュアをもらった。何げなくメルカリを見て、値段が想像以上に上がっていることに驚いた。そして第2弾は、今のキダルト市場を席巻するボンボンドロップシール。ちいかわと組み合わされば、争奪戦になるのも当然だ。
◆特典の力が映画の力を超えた
最近は、特典を次々と替え、何度も足を運ばせる作品が増えた。ファンの「推したい」という気持ちを利用した商売だという批判もあるが、僕は特典商法そのものは悪くないと思う。自分の一回が興行収入を押し上げ、作品の記録や次回作につながる。それを喜ぶのも推し方の一つだ。
ただし、そこには条件がある。「映画が面白いこと」だ。面白くない映画が、グッズだけを替えて客を引っ張り続けるのは胸が痛い。だが、面白い映画なら2度目、3度目には新しい発見がある。
結末を知って見る『ちいかわ』は、きっと1度目と違う顔を見せる。『THE FIRST SLAM DUNK』『鬼滅の刃』『ONE PIECE FILM RED』も、作品自体に繰り返し見させる力があった。特典が再観賞の入り口になるなら、大賛成だ。
問題は特典ではない。特典の力が、映画の力を超えることだ。作品が主役で、特典はもう一度会いに行く理由。その順番さえ間違えなければいいと僕は思う。入り口がグッズでも、出口で作品をもっと好きになっていれば、それは十分健全なヒットだ。そして『ちいかわ』には、劇場の空気を変える力があった。
この映画の大ヒットにより、「ちいかわ」のステージがポケモンなみになっていく気がする。あのチャームやシールを、映画を見た記憶と一緒に持ち帰ること、それこそが転売では得られない価値なのだ。
<文/鈴木おさむ>
【鈴木おさむ】
すずきおさむ●スタートアップファクトリー代表 1972年、千葉県生まれ。19歳で放送作家となり、その後32年間、さまざまなコンテンツを生み出す。現在はスタートアップ企業の若者たちの応援を始める。コンサル、講演なども行っている
