生活保護受給者はエアコンの買い替え代金を自分で用意するのが原則(omakase/PIXTA)※写真はイメージ

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今年の夏も連日、息が詰まるような暑さが続いています。もはや、エアコンは事実上、すべての国民にとって、生命を維持するための最低限のインフラとなっています。生活保護受給者など、エアコンを購入する資力に乏しい人々についても例外ではありません。

しかし現状において、生活保護制度の運用のあり方は、上記のような実態に即したものとはいえません。厚生労働省の生活保護制度の運用マニュアルにおいては、今なお、エアコンを長年使って自然に故障した場合の経年劣化による買い替え費用は、公費から支給されないことになっています。

全国の自治体に問い合わせても、ほとんどの窓口からは、「国から発出された通達に明記されている通り」という杓子定規な回答が返ってきます。それでも、現場の担当職員が、通達の原則は維持しつつも、裁量の範囲内で臨機応変かつ柔軟に対応し、エアコンの買い替え費用が支給されるようにしているケースも多くみられます。

ただし、仮にエアコンの購入費用の受給が認められたとしても、金額に上限があるため、事実上、省エネ性能の劣る機種(つまり、電気代が余計にかかる機種)しか購入できないという問題があります。(行政書士・三木ひとみ)

担当職員も頭を悩ませる「上限額」の問題

生活保護法3条は、「最低限度の生活」とは「健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない」と定めています。この基準は、すべての国民の生存権を保障する憲法25条の理念を具体化したものです。

しかし、困窮家庭のエアコンが経年劣化で壊れた場合について、冒頭に挙げた現在の全国一律の運用は、夏の暑さが生命をも奪いかねないという現実を無視し、「購入代金や修理費用は自分たちでなんとかしろ、お金がないなら借金を背負え」と迫るに等しいものです。これでは「裁量権の限界の逸脱・濫用」といわざるを得ません。

購入費用の支給が認められた場合に対象となる「エアコン機種の条件」について各自治体に問い合わせたところ、制度の抱えるもう一つの矛盾に突き当たりました。

現行制度において、幸運にもエアコン購入費用の支給が認められた場合、次に立ちふさがるのは上限額「7万8000円」という制約です。

地方の町村などを中心に、担当職員の口からは「この金額内ではそもそも選べる機種が非常に限定されてしまうのが実情」「この予算では省エネ機能が高い機種を購入することが難しい」といった諦めにも似た本音が異口同音に聞かれました。

生活保護手帳の規定上は、購入に際して設置費用が別途必要な場合であって、真にやむを得ないと実施機関が認めたときには、上限額とは別に設置に必要な最小限度の額を設定して差し支えないとされています。 

しかし、実際に「真にやむを得ない」として設置費用を別途支給するかどうかの判断は、各福祉事務所の裁量に完全に委ねられています。筆者の調査において、ある府の担当部局に尋ねても、「各福祉事務所が設置費用をいくら出しているかは一切把握していない」「すべて福祉事務所の判断」という回答が返ってくるのみでした。

 結果として、自治体によって運用が分かれ、被保護世帯が購入を許されるのは、事実上、省エネ性能が著しく低い型落ちの廉価モデルや、売れ残りの低機能機種に限定されるケースが後を絶ちません。 

「昨今の急激な物価高騰、エアコンの設置工事費用の高騰に鑑みれば、この上限額内で本体と標準工事費を賄うことは極めて困難です」と、声を潜めて本音を伝えてくれる職員もいました。

「電気代を食うエアコン」しか買えない

最新の省エネ機種に比べて、古い低価格モデルや低機能機種は月の電気代が余分にかかることが指摘されています。

つまり行政は、初期費用の支給額を7万8000円以内に抑えることによって、一時的な「福祉予算の抑制」を取り繕っています。その一方で、受給者の毎月の生活扶助費(光熱費)を高い電気代で長期間にわたって圧迫し続けているのです。

これでは、受給者に対し、経済的自立を遠ざける悪循環を強制していることになります。

環境負荷の低減を謳ってレジ袋を有料化し、国民にエコを強いる国が、その裏では生活困窮者に対して、最も電気代を食う非効率なエアコンしか市場で選択できない制度設計を放置していることになります。

生活保護法60条が規定する「被保護者の生活の維持・向上への努力義務」を、行政自らが「電気代の重荷」によって構造的に妨害している構造になってしまっていると評価せざるを得ません。

初期費用を出し渋るあまり、長期的にはより大きな社会的・経済的コストを受給者と家計に支払わせる。それにより経済的自立が妨げられ、結果的により多くの保護費が国のお金から支払われることになる。これではまさに「安物買いの銭失い」そのものです。

岐阜県、東京都が実施した独自の「エアコン助成7万3000円」の“財源”は?

筆者が調査する中で、全く異なる地平から人道的な選択を行った地方自治体が存在しました。岐阜県と東京都、そして一部の先進的な市区町村です。

たとえば、岐阜県では、「岐阜県生活保護受給世帯エアコン設置費補助金」を実施しました。この制度は、国の家具什器費の要件に該当せず、冷房器具の助成を受けられない世帯、つまり故障や経年劣化で買い替えが必要な世帯を対象に、県独自に上限7万3000円を無償で補助し、業者へ直払いするというものです。

これは、2025年度の補正予算で国から配分された「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」(重点支援地方交付金)を財源として活用したものだといいます。

岐阜県では近年、たびたび報道で取り上げられるほどの夏の暑さで、生活保護受給者の生命が脅かされかねないことへの問題意識が共有されており、重点支援地方交付金という形で財源が確保できた瞬間に、約3100万円の予算を計上して実施へ踏み切ったのです。さらに家庭訪問の際にケースワーカーから積極的にアプローチするよう指示を出しており、命を守る行政がここに実現しています。

東京都もまた、今年度からエアコン設置区市緊急支援事業を立ち上げ、国の制度から漏れてしまう故障世帯などをターゲットに、実質約10万円規模の手厚い支援を自治体向けにバックアップしています。

なお、上述した「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」については、それが交付された先の自治体において、本来の趣旨に沿って活用されているか、検証が必要だと考えています。

臨時交付金の本来の趣旨は、物価高騰への対応です。そして、物価高騰に最も苦しめられているのは、生活保護受給者などの経済的弱者です。したがって、少なくとも、経済的困窮者が置き去りにされてしまっていては、本末転倒だということになります。

その観点から全国の自治体での使途をみると、中には、果たして本来の趣旨に適ったものといえるか、大いに疑問を感じるケースも散見されます。

岐阜県と東京都での取り組みは、まさに、臨時交付金の趣旨に適ったものといえます。また、地方自治体に命を守るという強い意志と良心さえあれば、国の硬直したマニュアルの壁を乗り越えて住民の生存権を救うことが確実にできるということを示しています。

■三木ひとみ
行政書士(行政書士法人ひとみ綜合法務事務所)、社会保険労務士(ひとみ社労士事務所)。官公庁に提出した書類に係る許認可等に関する不服申立ての手続について代理権を持つ「特定行政書士」として、これまでに全国で1万件を超える生活保護申請サポートを行う。著書に『わたし生活保護を受けられますか(2024年改訂版)』(ペンコム)がある。