いま日本で起きている「医者ガチャ」の恐怖【現役医師4名による実名座談会】前編
″利便性″の良し悪し
夜9時でも、土日祝日でも受診可能。LINEで予約し、順番になり次第、呼び出されるから待ち時間も少ない--。
利便性を前面に打ち出した、いわゆる″コンビニクリニック″が存在感を増している。駅ナカやモール内に開業し、オンライン診療も組み合わせながら、忙しい現代人のニーズを巧みに汲み取って、着々と数を増やしているのだ。
ただ、「いつでも診てもらえる」というメリットがある一方で、「医師がコロコロ替わる」「病気が見逃される」といったデメリットも指摘されている。現役のドクターとして医療の最前線に立つ小児科の窪田徹矢医師、内科の五藤良将医師、精神科の高木希奈医師、整形外科の亀田和利医師の4氏がコンビニクリニックの現状と課題について、想いをぶつけあった。
窪田 各地のモールにチェーンの小児科が進出していて、土日や祝日ともなると、たくさんの患者さんが利用していますね。
五藤 困ったときにすぐ受診できる医療機関が増えること自体は、悪いことではありません。特に小さなお子さんがいるご家庭にとって、夜や休日でも診てもらえるという安心感は大きい。
(一同、頷く)
窪田 小児科の場合、親御さんは不安から病名を求めます。「ヘルパンギーナですよね?」「手足口病ですか?」といった具合に。コンビニクリニックが手っ取り早く病名をつけて、親御さんを安心させている面はありますね。
高木 ただ、その場では満足できるかもしれませんけど、診断が間違っているケースもありますよね。
亀田 診断の速さと正確さは別問題です。コンビニクリニックの場合、診察する医師が毎回同じとは限らない。これも問題ですよね。土日祝日も開けるためには、複数の医師が交代で勤務する必要がありますから。
五藤 夜9時まで診療しているような長時間営業のクリニックだと、午前と午後で担当医が替わることもある。
窪田 診断は同じでも担当医が替わるから、午前と午後で処方される薬が違ったりしますよね。混乱した患者さんから相談を受けたことがあります。コンビニクリニックでは、診療方針にばらつきが出ることは避けられない。
専門医かどうかもわからない
高木 精神科で担当医がコロコロ替わるのはリスクがあります。患者さんの変化を継続して診ることが難しくなるから。家族関係、仕事、生活リズム……単発の診療で判断するのは危険だと思います。
亀田 整形外科もそう。前回の痛みと今回の痛みがどう違うのか、仕事や生活背景はどうか、そういう積み重ねが正しい治療をする上で欠かせない。
五藤 「以前、この薬で副作用が出た」「お父さんが糖尿病だった」「この子は熱性けいれんを起こしたことがある」「去年の健診ではこういう所見があった」など、かかりつけの医師は患者さんの背景を積み重ねながら診療しますからね。
高木 コンビニクリニックは、その日、その瞬間の困りごとに対応する医療には向いていますが、長期的に患者を診ていく医療とは役割が違います。
窪田 便利さだけで済ませようとすると、「見逃されるもの」が出てくるのは避けられない。
高木 精神科のオンラインクリニックってご存知ですか? ホームページを見ても、院長が誰なのかわからない、どの医師が診察するのか、精神科専門医なのかどうかもわからない。そんなクリニックがあるんですよ?
窪田 患者さんからすれば、利便性の高いクリニックも地域に昔からあるクリニックも、どちらも同じ医療機関。便利だからコンビニクリニックを利用するわけです。ただ、便利さの裏側に、どういう診療体制があるのかまではわからない。
高木 精神科は会話だけで診断するわけではありません。診察室に入ってくるときの歩き方、服装、身だしなみ、表情、視線、受け答えのタイミング、椅子の座り方。診察が始まる前から、多くの情報を観察しています。オンラインではその多くが失われます。通信環境によっては表情もわかりにくくなる。しかも、画面には上半身しか映らない。初診で診断を確定するには限界があります。
亀田 整形外科だと、患者さんの歩き方や椅子から立ち上がる姿を見てわかることがある。オンラインだけでは拾えない情報は確実にありますよね。
高木 それだけ診断って大事で難しいのですが、コンビニクリニックだと、どんな医師に当たるかわからない。まさに「医者ガチャ」状態です。精神科に紹介されてきた患者さんが白血病だったことがあります。甲状腺機能低下症やギラン・バレー症候群、脳梗塞、脳出血、てんかんだったことも。実は一刻の猶予もなく、初診の誤りが命取りになることがある。私は初診では必ず血液検査を行い、他の疾患の可能性を確かめます。コンビニクリニックでは、血液検査は基本的に行われないことが多いですよね。
窪田 他の疾患との識別のために血液検査などは欠かせないと思いますが……。
高木 看護師を配置していない。採血を行う時間がない。感染性廃棄物の処理費用がかかる。採血器具の在庫管理も必要……理由は様々ですが、血液検査をしないクリニックがあるのが現実です。
五藤 事情は理解できますが、必要な検査を省略していい理由にはなりません。
『FRIDAY』2026年8月21・28日合併号より
