「琵琶湖花火大会」ドタキャン騒動、運営者ら「詐欺罪」成立? 「チケット代返金でも罪は消えず」弁護士指摘のワケ
22日に滋賀県の彦根市、長浜市、高島市の3市で同時開催が告知されていた「琵琶湖三市同時花火大会」について、実行委員会は開催まで2週間を切った8月9日になって、公式サイト上で「大会の実施に必要な準備・運営体制を整えることが困難」との理由から突然の中止を発表した。その後、開催に不可欠な消防への申請が行われていなかったことや、会場すら確保されていなかったという事実が次々と明らかになっている。
実行委員会はすでに7000円~1万9000円(システム利用料込)の有料観覧席のチケットを販売し、屋台の出店予定者から出店料を徴収していた。チケット購入者や出店予定者への返金対応については「法的専門家への相談を行う」と述べるにとどまり、具体的な方針やスケジュールは一切示されていない。
実行委員会のメンバーが刑事責任、とりわけ詐欺罪に問われる可能性はあるのだろうか。刑法に詳しい荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)に聞いた。
詐欺罪成否の分かれ目は?詐欺罪の成否については、同罪の「故意」があったかどうかが最大の争点となる。つまり、最初から開催するつもりがなかったのか、それとも本気で開催を目指したが結果的に頓挫してしまったのか、その内心の意思が問われることになる。
荒川弁護士:「詐欺罪は、『人を欺いて財物(または財産上の利益)を交付させる』犯罪です。この『欺く行為』によって相手方が錯誤に陥り、その錯誤に基づいて財物を処分し、財産上の損害が発生することによって成立します(刑法246条)。
本件では、金銭の交付と引き換えにサービス(花火大会の観覧や出店)を提供すると偽ることが『欺く行為』にあたり得ることになりますが、ここで重要なのが、実行委員会に故意、すなわち『だます意図』があったかどうかです。
これには、『開催できないかもしれない』と認識しながらも、『それでも構わない』と考えてチケット販売などを続けた、いわゆる『未必の故意』も含まれます」
運営側は故意を否定しても「関係ない」実行委員会側は読売テレビの取材に対し、「『当初から開催する意思がなかった』ではなく『結果として開催できなかった』が事実」と強調している。
その根拠として、4月に滋賀県庁を訪問して必要な許可や申請について相談したことや、「行政機関への相談、関係事業者との協議、会場・出店に関する準備、花火業者との調整、配置図その他の資料など、実際に進めていた事項・資料は存在している」ことを挙げている。
これには、詐欺の故意を否定する意図があると考えられる。
しかし、荒川弁護士は、本人が故意を否定しているかと関係なく、外部的事情を基礎に、社会通念を基準として「通常、その事実を認識していれば、故意があったと推認される」というように、合理的に判断されるとする。
荒川弁護士:「本件の場合、チケット代や出店料の払い込みを受ける段階で、社会通念上、開催が不可能だと客観的に判断できる状況にあったかどうかが鍵となります。
たとえば、会場の確保が客観的にきわめて困難であることが明らかになったにもかかわらず、チケット販売や出店料の徴収を続ければ、その時点から詐欺の故意があったと推認され得ることになります」
会場予定地とされていた3市はそれぞれのホームページで『自治体や観光協会の関与はない』と声明を出している。
荒川弁護士:「これが事実であれば、実行に向けた具体的な動きが乏しく、計画の根幹が欠落していたと評価される余地があります。
また、花火師や警備会社との正式な契約書など、開催に向けた動きを裏付ける具体的な物証が乏しい場合も、『最初から開催する意思がなかった』、つまり詐欺の故意があったことを強く推認させる事情となります。
なお、実行委員会が公式サイトで『事務局所在地につきましては、2026年6月をもって使用を終了しております』と公表したことも、計画性を推認させる事情となり得るかもしれません。これは将来の活動を見越していない、あるいは追及を逃れる意図があったと解釈される可能性があり、捜査機関も注目する点だと考えられます」
返金すれば「罪」は消えるのか?チケットを購入した人や屋台の出店を予定していた事業者が最も懸念しているのは、支払ったお金が戻ってくるかどうかだろう。返金があれば、損害がカバーされ、「被害者」は存在しないようにも思える。
しかし、荒川弁護士は、仮に今後返金が行われたとしても、詐欺罪の成否には関係ないと指摘する。その理由として、詐欺罪に問われる場合、花火大会の開催が不能になった時点で「財産上の損害」が発生しており、詐欺罪が既遂になっていることを挙げる。
荒川弁護士:「財産上の損害は、『相手方が財物の交付と引き換えに得ようとしたもの』と『実際に得られなかったもの』を比較して判断します。
本件で言えば、チケット購入者にとっては『8月22日に花火を席で観覧するというサービス』を受けられなかったことが損害であり、出店者にとっては『予定通り出店できなかったこと』が損害にあたります。
したがって、チケット購入者や出店者には明確な財産上の損害が生じており、事後的に返金したとしても詐欺罪の成立自体には影響しません。これは、窃盗犯人が盗んだ品物を後から返却しても窃盗罪が成立するのと同じ理屈です。
返金は、あくまで犯行後の情状として、裁判官が刑の重さや執行猶予の有無を決める際に『反省している』『被害者の側の被害感情が薄らいでいる』などと評価する材料にはなり得ますが、すでに成立している犯罪そのものを消すことはできません」
なお、民事上の損害賠償という観点では、出店者が出店のため仕入れた商品や食材の代金や、遠方から参加するために予約した交通機関・宿泊施設のキャンセル料なども、実行委員会に対して請求できる可能性があるという。
実行委員会は今後の対応について、「法的専門家への相談を行いながら、対応内容の確認・整理詳細が確定次第、改めてご案内いたします」として、返金の有無やスケジュールについて確定的な発信を避けている。
「払ってしまった人」が取るべき具体的な行動では、チケット代金や出店料を支払ってしまった人は、どうすればよいのだろうか。荒川弁護士は次のようにアドバイスする。
荒川弁護士:「実行委員会のメンバーを特定し、法的責任を追及するためには、まず警察などの捜査機関に被害届を提出し、詐欺事件としての捜査を促すことが最も有効な手段です。
その際、チケットの購入を証明するメールや決済画面のスクリーンショット、公式サイトの告知内容の魚拓、実行委員会とのやり取りの記録など、客観的な証拠をできるだけ多く揃えることが重要です。
捜査機関は令状に基づいてIPアドレスや口座情報などを強制的に調査し、被疑者の身元を特定することができるため、すでに捜査が開始されている可能性も考えられます。被害者が被害届を提出することも、警察が事件の重大性を認識し、迅速に動き出す一助となるでしょう」
今回の事案は、SNSやウェブサイトを通じて誰もが大規模なイベントを告知し、オンラインで容易に資金を集められるようになった現代社会の危うさを浮き彫りにした。運営母体の実態が見えにくい中で、その信頼性をいかに見極めるかということに加え、本件のような事態に巻き込まれた場合に、どのような対処法があるのかを知っておくことも重要だといえる。

