レースタイヤ用ゴム、温めるとどうなる? タイヤの達人がブリヂストンで訊いた「深い話」(後編:走る実験室としてのモータースポーツ)
市販用とレース用、よく弾むのはどっち?
ブリヂストンがメディア向けに開催した、『ゴムの技術と走る実験室としてのモータースポーツ』という勉強会。前編では、ゴムの技術の話を細かくお伝えしました。
【画像】ブリヂストン『ゴムの技術と走る実験室としてのモータースポーツ』 全19枚
さて、後編ではもうひとつのテーマである、『走る実験室としてのモータースポーツ』についてレポートします。

同じ高さから落とした時の写真。左が市販タイヤ用ゴム、右がレースタイヤ用ゴムです。 ブリヂストン
こちらもまずは、ゴムの特性の話から。
例えば、スーパーハイパフォーマンスカー(純正タイヤ)で富士スピードウェイを1分50秒で走ったとします。
そのクルマのレース仕様車両にスリックタイヤを履かせると、ラップタイムが8秒程度短縮します。
さらにスーパーGT仕様の車両にレースタイヤを装着すると、ラップタイムはそこからさらに5秒短縮するのです。
タイヤにフォーカスした時、グリップの違いはどこにあるのでしょうか。
実験材料として用意していただいたのは、ふたつのゴムボールです。
触ってみると、片方はゴムらしい弾力感があり、もうひとつは硬質な触感です。これを同じ高さから落としてみると、弾力感のあるほうは良く弾み、もう一方はほとんど弾みません。
じつはこれ、良く弾むほうが市販タイヤ用ゴムで、弾まないほうがレースタイヤ用ゴムとなります。
なぜこのような違いがあるのかというと、これはヒステリシス摩擦(ロス)の違いによるものなのです。
ポイントはヒステリシス摩擦
タイヤのゴムのグリップ力には、大別すると『凝着(粘着)摩擦力』と『ヒステリシス摩擦』があります。
タイヤのヒステリシス摩擦というのは、タイヤが地面に接地して、ゴムが変形して戻るときに、ゴムが内部で熱に変わってエネルギーが失われる現象のことです。

使い捨てカイロを使用して、疑似的に走行してタイヤが温まった状態を再現。 ブリヂストン
市販タイヤ用ゴムは、エネルギーがあまり熱に変換されず弾むのです。つまりヒステリシス摩擦が少ないということです。
一方、レースタイヤ用ゴムは、ヒステリシス摩擦が大きいので、ほとんど弾まないのです。
じつは、もう1セット同じゴムボールが用意されていました。こちらには使い捨てカイロが入っていて、ゴムボールが温められていました。
温められたふたつのボールは、同じ高さから落としても結果は前と同じで、市販タイヤ用がよく弾み、レースタイヤ用はほとんど弾みませんでした。
変化したのは手触りです。
市販タイヤ用の手触りは変わりませんでしたが、レースタイヤ用はべたつく感触が増していました。
試しにテーブルに軽く擦り付けてみると、温まる前のレースタイヤ用のゴムボールはまったく抵抗感がなく滑る感覚でしたが、温まるとグッと抵抗感が強くなり、滑りにくくなりました。
これは、タイヤが温められたことによって、凝着摩擦が強く発揮された結果なのです。
ドライとウエットで大きく変わる
レースタイヤ用はヒステリシス摩擦が大きく、凝着摩擦が大きいゴムが使われています。
ただし凝着摩擦は、ウエット路面では一気にその性能が低下します。また、温度依存性が高いので、適温にならないとグリップを発揮しない(しにくい)特性があります。

二輪、四輪、ソーラーカーなど、多くのモータースポーツに携わるブリヂストン。 ブリヂストン
レースタイヤ用が、温めたとき突然粘着性が高くなったのはそのためです。
一方、ヒステリシス摩擦は、タイヤが変形し元に戻ろうとする時に発生するエネルギーロスで、変形よりも戻る時のエネルギーのほうが小さくなる特性を持っており、消えたエネルギーが摩擦に変換されるのです。
ドライ路面ではそれほど大きな効果は発揮しませんが、ウエット路面では凝着グリップ力よりも大きな割合でグリップ性能を発揮します。
一般的には、凝着摩擦はドライ路面でより大きくグリップ性能を発揮し、ヒステリシス摩擦はウエット路面でよりグリップ性能を発揮します。
ただ、ヒステリシス摩擦もドライ路面でグリップ効果は発揮します。レース用タイヤでは、少しでもグリップ性能を高めたいので、いずれのグリップ性能も最大限引き出せるコンパウンドが作られるわけです。
レースで集めたデータを市販化に結び付ける
近年では、レースの世界でも再生資源や再生可能資源の活用が求められています。
ワールドソーラーカーチャレンジ用タイヤでは、再生カーボンや再生スチールなど再生資源、再生可能資源使用率65%を実現しています。

黒くて丸いタイヤに込められたテクノロジーを強く感じることになった勉強会でした。 ブリヂストン
また、スーパー耐久では、タイヤ熱分解オイルから作られるカーボンブラックが使われています。
FIM世界耐久ロードレース(バイク)では、バイオ由来樹脂/オイル、タイヤ熱分解オイル由来のカーボンブラック、再生スチールが採用されています。
こんな具合に、レースのシビアな状況の中で実験を行い、市販化に向けた開発が行われているわけです。
一見すると、黒くて丸いタイヤですから、どれもあまり代わり映えしないように見えるかもしれませんが、じつはこのタイヤの中に、ものすごいテクノロジーが込められているわけです。
今回のセミナーは、そんなタイヤに込められた技術の深さを知ることのできる内容でした。
