動物も″推し活″の時代! 「かわいい」で経済を動かす、全国動物園・水族館の“ベビー経済効果”
「かわいい!」
その一言で、人は財布を開き、遠方まで足を運ぶ。
この夏も全国の動物園・水族館でコアラやアジアゾウ、ゴマフアザラシなどの赤ちゃんたちが続々と誕生。愛らしい姿はテレビやニュースサイトだけでなく、SNSでも瞬く間に拡散され、多くの人の心をつかんでいる。
しかし、そのブームは「癒やし」だけにとどまらない。赤ちゃんの誕生は来園者数の増加やグッズ販売、SNSでの話題化、さらには将来のファンづくりまで、施設経営を支える大きな力になっているという。
赤ちゃんは「最強の無料広告」
「かわいい」は、本当に経済を動かすのか――。経済アナリストの横川楓氏は、動物の赤ちゃん誕生を「最強の集客コンテンツであり、無料広告」と分析する。
「赤ちゃん誕生はSNSとの相性が非常によく、投稿を見た人がその後の成長まで追い続けるケースが少なくありません。開園前から行列ができたり、多くのメディアで報じられたり、継続的なPR効果が絶大です」
企業なら広告費をかけて認知を広げるところを、赤ちゃんの存在そのものが話題を呼び、人々が自発的に情報を拡散してくれる。まさに”広告塔”の役割を果たしているのだ。その効果を現場も実感しているという。
「マヌルネコの赤ちゃんの公開初日は、開園が午前10時だったのですが、午前7時30分頃から赤ちゃんを目当てに来られたお客様が入口前にズラリと並ばれていました。夏休みに入ってからも開園前から列ができる日が続いています」
そう話すのは、『神戸どうぶつ王国』(兵庫県)の広報担当者だ。マヌルネコの赤ちゃん誕生は同園では2年ぶり。
「SNSでも大きな反響があり、Instagramでは約1.5万件、Xでは約2.1万件の『いいね』をいただきました。『遠方からマヌルネコの赤ちゃんを見るために来ました』という嬉しい声も多く寄せられています」(同前)
一方、『伊勢シーパラダイス』(三重県)でも、ゴマフアザラシの赤ちゃんが人気を集めている。
「生後2〜3週間ほどしか見ることのできない、真っ白な産毛に包まれた姿を目当てに全国各地から多くのお客様にお越しいただきました。開館前から入場待ちの列ができる日もあり、大きな反響を実感しています。
メディアやSNSで取り上げられたことで、赤ちゃんの成長を見守るために何度も来館するリピーターが増加。白い毛に包まれた赤ちゃんをモデルにしたオリジナルグッズも販売中で、大変好評をいただいています。赤ちゃんの誕生は来館のきっかけだけではなく、グッズ販売などにも大きな影響があります」(広報担当者)
赤ちゃんの存在が人を呼び、話題を生み、施設とのつながりを深めていく。動物園・水族館の現場からも、“ベビー経済効果”の大きさが見えてくる。
前出の横川氏は「“かわいい”は極めて強力な消費動機になる」と指摘する。
「『神戸どうぶつ王国』や『伊勢シーパラダイス』のケースのように、赤ちゃんを一目見ようと遠方から訪れる人も多く、交通費や宿泊費まで含めた消費を生み出します。今回、各関連施設で行ったアンケートの回答でも興味深い結果が出ています。
『横浜市立金沢動物園』(神奈川県)では、コアラの赤ちゃん人気を受け、6〜7月のコアラ関連グッズの売り上げが前年同期比121%に増加。赤ちゃんの愛称投票には1週間ほどで約7,100件もの応募が集まり、Instagramのフォロワー数も約1,700人増加。通常の月間増加数の3倍以上、前年比176%増という伸びを見せました。
『伊勢シーパラダイス』のゴマフアザラシの赤ちゃんに関する投稿は『X』で最高約420万PV(’26年8月現在)を記録するなど、大きな反響を呼んでいます。赤ちゃん動物の存在が単なる話題づくりにとどまらず、人を呼び、消費を生み出し、施設の価値を高める力になっていることがわかります」
来園者数だけでは測れない価値
今回取材したなかには「赤ちゃんが生まれても、必ずしも来園者数が大幅に増えるわけではない」という施設もあったが、それでも横川氏は各施設が積極的に発信を続けることで「エンゲージメントの強化」につながると話す。
「今は来園できない人も、SNSで日々の成長を見守ることができます。名前の投票企画などを通じて施設との絆が生まれ、一度きりではない長期的なファンづくりにつながります。近年では、動物にもアイドルのようなスター性やブランド価値が生まれる時代になりました。
例えば、’24年にタイの動物園で生まれたコビトカバの赤ちゃん『ムーデン』がTikTokやInstagramで世界的にバズったことを記憶されている人も多いのではないでしょうか。かくいう私も『鳥羽水族館』(三重県)のラッコやオーストラリアのコアラを目当てに遠征するほどの動物好き。
動物への“推し活”は、今や国境を越えて人を動かしていると言っても過言ではありません。“かわいい”という感情は、一過性のブームではなく、ブランド価値を高め、長期的なリピーターを獲得する重要な基盤になると分析しています」
来園者数だけでは測れない「応援したい」という気持ちこそが、これからの動物園・水族館経営を支える重要な資産になっているというわけだ。しかも、かわいい赤ちゃんは、施設の”今”を盛り上げるだけではない。
何度も会いに足を運び、グッズを買い、SNSで応援する――そんなファンを育てる存在として、動物園・水族館の未来を支えているのである。
では実際に、この夏はどんな赤ちゃんたちが人気を集めているのか。全国の動物園・水族館から寄せられた”ベビー図鑑”をご紹介しよう。
【東京都】上野動物園《コビトカバ》
名前:イロハ(メス)
誕生日:’25年12月25日
■チャームポイントと見どころ
子供の時期に見られるピンク色でたるみのある顎。大人になるとピンク色の部分やたるみも少なくなるので、子どもらしい顔を見られるのは今がチャンスかもしれません。気温が高い夏は、屋上展示場のプールに親子で入り、仲良く並んで寝ている姿を見ることができます。
■飼育エピソード
イロハの母親であるモミジは、子に対しての保護行動が強く、ほとんど離れず寄り添っていました。モミジが子育てをしっかりしてくれているので、おおらかで物おじしない性格に成長中。展示場内で追いかけっこをして遊ぶ親子の姿に癒されています。
【神奈川県】横浜市立金沢動物園《コアラ》
名前:キクタロー(オス)
誕生日:’25年12月1日
■チャームポイントと見どころ
クリクリとした大きな瞳がチャームポイント。母親のお腹にしがみつく姿は、子どもの背中が木にこすれない今の時期しか見られません。夏を過ぎたらおんぶだけになり、さらに大きくなるとおんぶも卒業します。
■飼育エピソード
6月15日、初めて袋から顔をのぞかせたとき(出袋)は、思わず息をのむほどの可愛さでした。母親のタンポポは慎重な性格なので、安心して子育てができる環境づくりを心掛けています。
【神奈川県】新江ノ島水族館《バンドウイルカ》
名前:未定(オス)
誕生日: ’26年6月19日
■チャームポイントと見どころ
産まれた直後から泳ぐのが上手で、ベテランの飼育スタッフを驚かせました。今はちょうど一人遊びを覚え始めた時期で、最近は自分で出した泡をパクパクさせながら追いかけています。遊びには流行りがあるので、来館したときにどんな遊びをしているか観察してみてください。
■飼育エピソード
分娩は深夜2時から始まり、2時56分に出産となりました。深夜にもかかわらず大勢のスタッフが駆けつけて見守り、産まれた後も全員で観察して朝を迎えたことを覚えています。最初は警戒していた姉イルカのマリン(24)と寄り添って泳ぐ姿は、とても微笑ましく感じます。
【三重県】伊勢シーパラダイス《ゴマフアザラシ》
名前:未定(メス)
誕生日: 2026年4月8日
■チャームポイントと見どころ
白い毛の時期には、お母さんの背中を枕代わりして眠るなど、赤ちゃんならではの姿を見せてくれました。今も幼い表情や淡いゴマ模様が残り、成長途中ならではの姿を楽しめます。館内ではゴマフアザラシたちが自由にゴロゴロするイベントを実施しており、お客様の足元を歩く様子を間近でご覧いただけます。
■飼育エピソード
印象的だったのは、白い産毛からゴマ模様への生えかわりです。歴代の赤ちゃんよりゆっくりだったため毎日見守っていましたが、一度始まるとあっという間に変化し、飼育員一同、驚きました。離乳後は魚をなかなか食べませんでしたが、今では「ブーブー」と鳴いておねだりするまでに成長。散歩では行動範囲を広げ、毎日元気に“冒険”を楽しんでいます。
【兵庫県】神戸どうぶつ王国《マネルネコ》
名前:サン(オス)、ナギ(メス)、コモレビ(オス)、ボノ(オス)、ハク(オス)
誕生日: ’26年5月12日
■チャームポイントと見どころ
サンは元気いっぱいですが、意外と慎重派。唯一のメス・ナギは毛色が一番茶色く、好奇心旺盛です。“コモちゃん”の愛称で親しまれるコモレビは体が大きくパワータイプ。ボノは背中の縞模様が濃く、見分けやすいのが特徴。ハクは母親によく似ていて、誰よりも甘えん坊です。
■飼育エピソード
出産時はモニター越しに見守っていましたが、お母さんが目を開けたまま眠ってしまったときは、心臓が止まる思いでした。生まれた頃はスタッフを怖がっていた子どもたちも、今ではアスレチックのように私の体によじ登って遊ぶほどに成長。展示練習中は広い展示室ではしゃぎすぎ、帰宅後に5頭そろって眠ってしまった姿がとても印象的でした。
【北海道】おたる水族館《トド》
名前:大豆(オス)
誕生日: ’26年7月4日
■チャームポイントと見どころ
好奇心旺盛で元気いっぱい。身体は小さいですが、活発にプールを泳いだり陸場の高い場所に上ったりしています。最近では単独で泳いだり、泳ぐ母獣「豆」の背中に仔獣の「大豆」が乗ったりする姿も見られます。
■飼育エピソード
7年ぶりのトドの誕生で、母親の「豆」にとっても初産。しかも視力がほとんどないため子育てを心配していましたが、鳴き声を頼りにしっかり世話をしてくれました。生まれた当日から、水に落ちた大豆を口にくわえて陸へ戻す姿も見られ、ハンディを感じさせない母親の愛情に感銘を受けました。
【大分県】アフリカンサファリ《アジアゾウ》
名前:タワ(メス)
誕生日: ’25年12月19日
■チャームポイントと見どころ
お母さんのお腹の下に入って一緒に歩く姿がチャーミング。大人のゾウを真似して、短い鼻でリンゴやバナナを口へ運ぶ仕草も見せます。サファリ中、運が良ければ親子ゾウに出会えるかもしれません。
■飼育エピソード
生まれた当初は体重128キロでしたが、母乳をたくさん飲んで順調に成長し、半年後には280キロになりました。とても甘えん坊で、生まれたばかりの頃はお母さんも少し疲れ気味でしたが、今では親子仲良く過ごしています。
