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極端な節約思考からお金に固執し続けた結果、家族との関係を壊してしまう――十分な資産がありながら、なぜ人は金銭への執着を手放せず孤独へ向かうのでしょうか。ある父娘の葛藤から、老後資金に対する不安の本質と、良好な家族関係を両立させるためのヒントを考えます。

執着が生んだ冷え切った食卓

東京都内の賃貸マンションで一人暮らしをする佐藤由美さん(48歳・仮名)は、派遣社員として働きながら月収約25万円で暮らしています。彼女には、都内の持ち家(一戸建て・ローン完済済)で暮らす父の佐藤正雄さん(75歳・仮名)がいます。

正雄さんは元中堅企業の会社員で、現在の年金受給額は月18万円ほどです。

厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、男性の厚生年金受給者の老齢年金平均月額は16万9,967円。さらに75歳の受給権者全体における平均額は月額15万1,410円です。正雄さんが受け取っている「月18万円」という年金額は、男性平均や同世代の平均を上回る水準といえます。

しかし、正雄さんは昔から極端なドケチでした。母の和子さん(享年71)が生きていたころから、家庭内の金銭管理は異常なまでに厳格だったといいます。

「毎月、母には食費として3万円しか渡していませんでした。母が近所のスーパーでお金が足りないと困っていることもよくあったようです」

家計の光熱費や雑費に至るまで、正雄さんは領収書を1円単位でチェックし、少しでも予算を超えると和子さんを詰問しました。和子さんはパートに出ようとしましたが、「家にいて節約に専念しろ」と反対され、自由に使えるお金を一切持てないまま暮らしていたのです。

そんな和子さんは、2年前にすい臓がんで亡くなりました。闘病中も正雄さんは個室の差額ベッド代を惜しみ、大部屋での入院を強く主張したといいます。

和子さんの葬儀が終わった夜、由美さんは実家の金庫で正雄さんの口座通帳を目にしました。そこには3,000万円を超える預貯金が残されていました。

「母に苦労ばかりさせて、これだけのお金を溜め込んでいたんです。少しでも母に美味しいものを食べさせたり、旅行に連れて行ったりできなかったのかと……激しい怒りを覚えました」

しかし、和子さんが亡くなった後も正雄さんの生活様式は変わりませんでした。真夏でもエアコンをつけず、風呂の水は3日間替えず、夜は電気を消して暗闇の中で過ごす日々。食事は1個100円のカップ麺や割引の食パンばかりでした。

月18万円の年金収入があり、住居費の負担もないため、生活費は月8万円程度しかかかりません。毎月10万円近くが貯蓄に回る計算ですが、正雄さんは「老後が不安だ」「物価が上がっている」と口癖のように繰り返していました。

絶望の果てに選んだ断絶

由美さんは見かねて、週に一度は実家に通い、作り置きの料理を届けたり掃除をしたりして父を支えようとしました。しかし、正雄さんから返ってくるのは感謝の言葉ではなく、金銭に対する不満ばかりでした。

ある夜、実家を訪れた由美さんは、正雄さんが体調を崩して床に伏しているのを見つけました。室温は35度を超えています。熱中症の危険を感じた由美さんは、すぐにエアコンをつけるよう勧めました。

そのとき、正雄さんが放った言葉が由美さんの限界を超えました。

「電気代がかかるだろ。お前が金を出してくれるのか? 出さないなら余計な口を挟むな。私は死ぬまで1円も損をしたくないんだ」

由美さんは静かに立ち上がりました。母が死ぬまで耐え続けた理由、そして自分が注いできた愛情がすべて無駄だったことを悟った瞬間でした。

「お父さん、そんなにお金が大事なら、墓場までお金を持っていけばいいよ」

由美さんはそう言い残し、実家の鍵を玄関のテーブルに置いて飛び出しました。それ以来、由美さんから正雄さんに連絡することはなくなりました。

国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査』によると、「年老いた親の介護は家族が担うべきだ」への賛成割合は、2008年の63.3%から2022年には38.9%へと大幅に低下しました。また、「高齢者への経済的援助は公的機関より家族が行うべきだ」への賛成も20.6%に留まります。

先行き不透明な時代背景から「老後資金が底を突く恐怖」にとらわれ、極端にお金を使うこと自体に嫌悪感を抱いてしまう高齢者が多いのも無理はありません。しかし、資産を守るあまり周囲の愛情や自身の健康、果ては家族との絆まで削ぎ落としてしまっては本末転倒です。お金は人生を豊かにするための手段であり、それ自体を目的にしてしまえば、残るのは通帳の数字と孤独な最期だけなのかもしれません。