豪雪の山中にぽっかり空いた穴が…!? 夏はヒグマの楽園で辿り着けない、ヤバすぎる“天然湯船”を訪れてみた
大自然の中で自噴し、人の手が一切加わっていないありのままの温泉「野湯(のゆ)」。到達には深い藪漕ぎや沢歩きを強いられ、入念な情報収集と体力、精選された装備が試される。しかし、すべての困難を克服して湯に浸かった瞬間の達成感と、子供の頃に憧れた秘密基地を手に入れたような喜びは、他では決して味わえない。ここでは、源泉のごとく尽きない野湯の魅力にとり憑かれた男の、過酷でロマンあふれる入浴ルポを紹介する。今回は北海道に位置する「小湯沼」を訪れた。
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筆者がこれまでに訪れた野湯
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クマの棲む山中にある“野湯”を目指して
「小湯沼」は北海道ニセコ連山のほぼ真ん中に鎮座する、チセヌプリの中腹に位置している。ニセコ湯本温泉の傍らにあって、沼が沸騰している事で有名な「大湯沼」の上流1kmほどにひっそりと佇んでいるが、アクセスできる道はない。
非積雪期には深い藪漕ぎをしながらでないとたどりつけず、クマに出くわすリスクもある。さらにブヨが多く、湯船に浸かるために裸になれば、全身刺されまくる。何より、夏の沼は高温で入湯自体が困難だ。
雪山を進んでいくと…
冬季にはクマは冬眠中でブヨもいない。沼の湯温も適温に下がる。
ただし、天候は吹雪や降雪の日がほとんどだ。山の天候は変わりやすいので、数日前から晴れ予報が確証されたタイミングで、直前に天気を細かく確認して行動を起こさなければならない。
積雪期のアクセスは、ニセコ連山を南北に縦断するニセコパノラマラインの、湯本温泉の1kmほど先の冬季通行止めゲートが起点となる。世界有数の豪雪地域であるニセコの積雪は数m以上になることもある。そのため、除雪された道路の先は高さ数mの雪壁だ。
やっとの思いで除雪していない道路の雪上までたどりつくと、その先はスノーシューでの歩行を満喫できる快適な雪上ハイキングとなる。山スキーヤーが通ったトレースもあってしばらくは歩きやすい。
前方にそびえる真っ白なチセヌプリを見ながら、パノラマラインと称される景色の中をスノーシューで歩くのはとても気持ちがいいものだ。
1km余り進むと、パノラマラインは右へ大きくカーブしている。そのカーブに入って数十mの付近から道路を外れ、左の林の中へ入っていく。疎らな林は樹皮が美しいシラカバが多く、地上数mの雪面では林の中を空中散歩をしているような気分すら味わえる。
20〜30mほどの標高差を登ると尾根に出て、その先を少し下る。すると、雪原にぽっかりと空いた大きな穴が見えた。さらに進むと真っ白な雪原と、湯けむりをあげる紺碧の水面のコントラストが絵画のように美しい小湯沼が眼下に現れた。
硫黄の香りが周囲に漂い始めると同時に、野湯マニアのアドレナリンが噴出し始める。ただし、崖に囲まれているため、降下場所を探さねばならない。
非積雪期には沼の北側に小川が流れ込んでいるのだが、数m以上の積雪に完全に埋もれていて、その付近から岸上部にアクセスできた。しかし、沼周辺の雪は湯温のせいか崩れやすく、何度か足元が崩れて落ちそうになった。
いよいよ広々とした紺碧の湯船に
沼の岸には先人が工事した湯船があったが、湯温が低く氷点下での入湯は厳しい。見渡すとあちこちでブクブクと温泉が湧出している。
岩場の岸からゆっくり足を入れる。沼の表面は熱めではあるが適温。数十cmの深さでは少し熱くなった。さらに足を沈めると、部分的に熱湯を感じる。底から湧いている熱い温泉が、時折襲ってくるのだ。
やっと底に足が着いたが、ズブズブと泥に足が埋まっていく。その泥が火傷しそうなほど激熱だ。熱さとそのまま沈んで底に引きずり込まれそうな恐怖を感じ、必死の思いで岩を這い上がる。何とか火傷は免れたが、胸や足にたくさん擦り傷を作ってしまった。
どうするか悩んだが、こんな貴重なチャンスは滅多にない。そう自分に言い聞かせ、再度沼への入湯を決める。もう一度ゆっくりと足を沈めていき、熱湯に直面しないように足でかき混ぜながら、底に足が着く前に沼の中へ泳ぎだした。
沼の中は場所により温度にムラがあるが、泳いでいればかき混ぜられて火傷の心配はなさそうだ。濃い温泉成分のおかげか身体は浮きやすく、ゆったりと遊泳しながらの湯浴みを楽しんでいた。
沼の中で足に当たった“何か”
すると、沼の中で足が何かに当たった。水中1m強の深さに大きめの岩礁があったのだ。その上に立つと、泳ぎ続けることから解放され、大自然の壮大な湯船の中で周りの素晴らしい雪山の景色を堪能しながら、ゆっくりと入湯ができた。
帰路は同じルートを自分たちのトレースを確認しながら戻る。しかし天候が崩れ始め、パノラマラインに戻ったころには視界が悪くなってきた。足元のトレースを見失わないように慎重に進み、最後はゲートの断崖(?)を降りて無事車に帰着した。
※野湯の訪問には、時に重大な事故や命を落とす危険が伴います。万全の備えと事前の情報収集とともに訪問の際は、安全第一の行動と迷ったら撤退する勇気を持ってください
INFORMATION
【データ】
住所 北海道磯谷郡蘭越町
アクセス難易度 ★★★☆☆
湧出量 多量
湯温 適温
(瀬戸 圭祐)
