ツキノワグマ(時事通信より)

写真拡大

 岩手県雫石町の住宅街に仕掛けられた"ドラム缶罠"に熊が捕獲され、「溺死」という方法で殺処分されていたという情報が一気に拡散され、同町農林課などにクレームが殺到した問題。

【写真を見る】「頭皮が裂けてにホッチキス30針」2023年・ヒグマに襲われた男性の生々しい傷跡

 なぜ町は「溺死」を選ばざるを得なかったのか。その事情や、ドラム缶を使った具体的な駆除方法を取材した。(前後編の後編。前編から読む)

 町が駆除に踏み切った背景には、住民の生活を脅かす切実な事情があった。7月初めから民家へのクマの侵入が相次ぎ、なかには1週間に4回も侵入されて食料を食い荒らされる被害も発生。住民の命と暮らしを守るため、町は住宅地や酪農家の周辺などに罠を設置せざるを得ない状況に追い込まれていた。

 しかし、現場には厳しい法的・物理的制約が存在した。住宅地や牛舎の近くでは安全上の理由や家畜へのストレスから猟銃の発砲が認められず、移動の際の危険性から檻罠の使用も困難だった。そこで導入されたのが特注の「ドラム缶罠」だったが、鉄格子の隙間がわずか1.5センチほどしかなく、麻酔銃や猟銃による処分が不可能な構造となっていたのだ。

水深1メートルほどにドラム缶ごと沈める

 銃が使えない以上、どのように処分するのか。匿名を条件に取材に応じた地元猟友会の関係者が、その実態を証言した。

「熊の個体数が多すぎて、山から下りてくる個体もあまりにも多い。捕獲して山へ放しても結局数が減らないため、4、5年前から溺死による処分を行っていました。

 場所は秋田新幹線の春木場駅近くにある、雫石川の支流です。水深1メートルほどの深い場所にドラム缶ごと沈めます。小さな隙間や穴から浸水し、熊が完全に溺死するまで30分くらいはかかりますね」

 死亡の確認は、猟友会と町の職員が複数人で目視で行う。体重や体長を計測した後、墓地へ埋葬しているという。町の担当者も「私が赴任した令和4年の時点ですでにこの駆除方法は行われており、先人たちの経験から沈める時間を決めていた」と語る。

 しかし、SNSでの拡散以降、町には「動物愛護団体を名乗る方も含め、数え切れないほど」のクレームが寄せられた。テレビで報道されるとさらに電話の件数が増加し、「ドラム缶による溺死駆除だけがフォーカスされてしまい困惑している」と町の担当者は嘆く。

 事態を重く見た岩手県自然保護課は、町に対して「できる限り苦痛を与えない方法をとるよう」指導。これを受け、町は今後「溺死による処分は行わない」と判断した。ドラム缶の罠自体は廃止せず、覗き穴の鉄格子を外して銃で撃てるようにするなど、職員らが残業しながら改良を進めているという。

「今までのドラム缶罠は、誤って子熊が入ってしまっても、爪や顔を傷つけずに無傷で放獣できる作りになっていました。銃で撃つために下手に手を加えると、捕獲した子熊を傷つけることになりかねません。結局うまく改良できなければ、捕獲した熊をすべて放獣することにもなりかねず、そこが一番の懸念事項です」(前出・猟友会関係者)

 住民の命と生活を守るためのやむを得ない駆除と、残酷さを指摘する動物福祉の側面。双方が激しく衝突する中、現場の自治体と猟友会は、今日も手探りのまま苦渋の対応を迫られ続けている。

(了。前編から読む)