田中将大

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 日刊スポーツの電子版は8月4日、「巨人田中将大が高校野球7回制に反対し暑熱対策の代替案を提示 06年に2日で249球死闘経験」の記事を配信した。タイトルなどは異なるが、全く同じ内容の記事を紙面でも1面に掲載した。日本高校野球連盟の「7イニング制等高校野球の諸課題検討会議」は昨年12月、「猛暑対策は急務であり、2028年春のセンバツから7イニング制を採用することが望ましい」との最終報告書をまとめた。これに対し田中が紙面で提示した反論は主に2つだった。

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 第1点は「7イニング制に変更すると出場機会が得られない選手が増える。プレーできる人数が減れば、普及面でマイナスになるのでは?」という野球人気の低下に対する懸念だ。

田中将大

 第2点は「ドーム球場で冷房が稼働できる京セラドーム大阪などでの開催などを検討すれば、9イニング制の存続は可能ではないのか?」という酷暑対策の見直しだ。「甲子園ありき」という運営に対する疑問だとも言える。

 さらに田中は楽天時代の恩師である野村克也氏についても触れ、「野球は面白いことに、3の倍数で成り立っている」と教わったことも語っている。

 野球解説者の広澤克己氏は栃木県立小山高校の野球部に所属し、1980年に夏の県大会決勝戦に進んだ。しかし県立黒磯高校に敗れて甲子園出場を逃した。

 またヤクルト時代には野村氏に師事し、阪神時代は甲子園をホームグラウンドとしてペナントレースを戦った。こうした経歴を持つ広澤氏は「まずは改めて猛暑対策から考え直す必要があると思います」と言う。

 広澤氏は「高校野球が7イニングにする必要があるのなら、中学生は5イニング、小学生は3イニングにするべきなのでしょうか?」と疑問を投げかける。確かに「9イニングは危険だが、7イニングなら絶対に安全」──とは言い切れないだろう。

7イニング制と戦力差

「高校野球は国民的な関心の高いスポーツなので、『高校野球の猛暑対策』しか議論されない傾向があるのではないでしょうか。つまりスポーツ界全体についての視野や考察が足らない人が7イニング制の議論をリードしているのではないか、と心配しています。それこそ猛暑対策はアスリートに限った話ではありません。日本人全員にとって重要なテーマのはずです。高校野球だけを“特別扱い”する理由が全く分かりません」

 一方で、広澤氏は「7イニング制になると強豪校と中堅校以下のチームとの戦力差が、さらに開いてしまうことも大きな懸念材料です」と言う。

 デンマークの大学が2024年に発表した論文によると、団体戦の球技9種目を対象に調査を行い、「対戦相手の実力差が実際の試合結果に反映されやすいスポーツ」──つまり番狂わせの非常に少ない競技──は【1】ハンドボール、【2】バレーボール、【3】ラグビーの順になったという(註)。

 一方の野球は「最も番狂わせの多いスポーツの1つ」という結果だった。野球ファンにはプロ野球のクライマックスシリーズ(CS)で3位のチームが2位と1位のチームを下し、日本シリーズの出場権を獲得することからも簡単に理解できるだろう。

強豪校に有利な7イニング制

 では高校野球の場合、番狂わせの問題はどう考えるべきだろうか。絶対的なエースを擁して強力打線を持つ強豪校と、公立高などの弱小校が対戦すれば、基本的にはイニングが少なくなればなるほど、番狂わせは起きづらくなると予想される。

「田中投手が言及した野村監督の話ですが、かつて四球は4ボールではなく9ボールでした。野球の出場選手は9人。野球は9という数字と密接な関係があり、9イニング制も同じです。野球は18世紀からの長い歴史を持っています。イニング数が10を超えていた時代もあり、何度も試合を繰り返すことで『観客にとって9イニングが最も面白い』と分かったのです。もし高校野球が7イニング制になると、強豪校は2人の優れたピッチャーを擁するだけで相手チームを完封する確率が高くなります。9イニング制なら強豪校のエースでも疲れる時が必ず来ます。中堅以下の野球部でも打者にチャンスが生まれ、それが野球のドラマを生むのです。ところが7イニング制だと、こうしたドラマ性が消滅しかねません。野球の大きな魅力の一つである『終盤の攻防』が見られなくなってしまうのです」(同・広澤氏)

 日刊スポーツで田中は「甲子園以外の球場で開催することも検討すべきでは」と提言した。だが広澤氏はこの見解に否定的だ。

ベンチに冷房が必要

 全国の高校野球部の部員が甲子園を目指して練習を積み重ね、試合に臨んでいるのは否定できない事実だからだ。

「文字通り、高校球児にとって甲子園は“聖地”であり、甲子園での開催は非常に長い歴史を持っています。京セラドーム大阪で開催してしまうと、球児の夢や高校野球の歴史を完全に無視することになってしまいます。1回戦から決勝まで甲子園で戦ってきたのですから、その伝統を維持すべきです。むしろ私が疑問を持っているのは、果たして夏の甲子園で猛暑対策は充分に実施されているのか、という問題です」(同・広澤氏)

 広澤氏は「野球はサッカーやゴルフと異なり、攻撃の際は選手がベンチに下がるというルールになっています。この特性を活用しない手はありません」と言う。

「私は阪神の選手として甲子園でプレーしましたが、少なくともプロ野球の試合で甲子園のベンチ裏は非常に冷房が効いていました。夏の暑い試合では、私たちはベンチ裏で涼んでいたものです。ベンチにクーラーを置くことも検討すべきではないでしょうか。試合を早朝とナイターに集中し、高温の日中は開催しないことも研究すべきだと考えます。甲子園での猛暑対策が充分に行われていないにもかかわらず、7イニング制の実施が提言されたり、ドーム球場での開催が言及されたりするのは、順番が違うのではないかと思います」

註:Which sport is becoming more predictable? A cross-discipline analysis of predictability in team sports(EPJ Data Science:2024年12月8日)

デイリー新潮編集部