《グループ犯罪取材のリアル》詐欺に手を染める人たちに“刺さるノリ”、現場で感じた「命の危険」…第一線で取材する週刊誌ライターたちの“問題意識”とは【河合桃子×栗田シメイ】
複数人が犯罪を計画し、それぞれ異なる役割を持って遂行する「グループ犯罪」。犯罪者たちの思惑が複雑に絡み合うため、真相解明は困難を極めるが、そんなグループ犯罪の取材をもとに今年6月、2冊のノンフィクション作品が刊行された。
1冊は、Netflixドラマ『地面師たち』のモデルにもなった「積水ハウス55億円詐欺事件」を題材に地面師グループの実像を追った『地面師連絡役カトウ 積水ハウス55億円詐欺事件、ある実行犯の告白』(河合桃子著、小学館)。もう一冊は、現在も社会を震撼させる「トクリュウ」事件の原型となり、「闇バイト」を世間に認知させた「ルフィグループ」の実行犯たちに迫った『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』(栗田シメイ著、講談社)である。
7月20日には「新宿ロフトプラスワン」で、河合氏と栗田氏の対談イベントが行われた。複数の実行犯に取材し労作を仕上げた2人が語った、グループ犯罪取材のリアルとは。そして、第一線のライターとして活躍する2人の社会の捉え方とは。
きっかけは「1人の構成員への興味」
--河合氏、栗田氏はともに、週刊誌を主戦場にするフリーランスのライターです。2人がそれぞれ犯罪グループを取材したきっかけは、1人の構成員との出会いだったんですよね?
河合氏「ドラマにもなった有名な事件なんですが、発生当時は犯人の人数も多く、『なかなか難しいテーマだな』と思って触れていなかったんです。ただその後、ハプニングバー経営者殺人事件の取材で、偶然出所していた実行犯のカトウ(偽名)と出会い、話を聞くにつれてどんどん興味を持っていった、という流れでした」
栗田氏「私もこれまで書いてきた本のテーマとは全然違うのですが、偶然、(ルフィグループ内で)『伝説のかけ子』と呼ばれていた山田李沙(受刑者)という女性に取材する機会があって。その取材が、これまでの取材経験のなかでもかなり印象的だったんです。そこから、熱心に取材するようになりました」
河合氏「『檻の中のルフィ』を読ませていただいて、共通点が多いなと感じました。同じグループ詐欺で、情報を共有している一部の人たちの計画が、結局末端の強盗などのプリミティブな犯罪行為に繋がっていく流れとか。何より周辺関係者への取材の量がすごかった」
栗田氏「僕は、積水ハウス事件についてはちょっと取材したこともあって、ある程度は把握していました。既刊本も読んでいたんですが、河合さんの本がほかとまったく違うのは、カトウといういわば下っ端の構成員を通して、その視点で一貫して書き上げられている。もっと大物にも取材しているのに、この目線で書くというのが特徴的で、事件の見方が変わってくる本でした」
河合氏「積水事件には複数既刊本がありましたから、その上で私はどうしよう、という考えでテーマが決まったというところもありました。やっぱり、一番に出すというのは本当に大変だと思います。その点で、『檻の中のルフィ』は全容がわからない中で取材し書いているわけですから、すごいなと」
栗田氏「わかっていないことも多かったのですが、可能な限り精度を高める手法を模索する中で、何度も面会したり、 消極的にはなりますが公判にはすべて顔を出して、流れを追いました。幹部の裁判になると、2週間くらい朝の9時から17時まで、びっちりやるんですよ。その資料をまとめる作業は、意外と大変でした。
あとは、フィリピンでの現地取材は正直かなり怖かったですね。フィリピンの警察は、現地の入管記録を賄賂で漏洩させてしまうんですよ。それで、自分の渡航情報が漏れる可能性もあるため、かなり慎重に取材をする必要もありました」
犯罪意識の希薄さ
--両者の取材に共通するのは、「詐欺師への取材」です。人を欺き罪を犯した人間を相手に、話を聞くことの苦労はどこにありましたか?
河合氏「やっぱり前提として、相手に取材を受けるメリットはあまりないわけですから。カトウの場合は、最初から協力的に話してくれたわけではないので、何度も会ってかなりねっとりと話を聞きましたね(笑)。ほかの地面師取材ではペラペラしゃべる人も多かったんですが、カトウはそういうタイプではなかった」
栗田氏「やっぱり詐欺師なだけあって、すごい饒舌に、自分たちの犯した罪っていうのを話すんですよ。ほかの犯罪と比べても犯罪意識が希薄だなと思うことがすごく多いんですが、それがやっぱり今『闇バイト』が多い理由だと思います。
河合さんの本で面白かったのは、河合さんがカトウの言うことを全然信じてなくて。相当入念に裏どりしようとしているところでした(笑)」
河合氏「意識の希薄さで言うと、『ルフィ』グループ内で、自分を『ルフィ』やら『三橋』やらと名乗ったり、漫画的な言葉遣いでやり取りをしているところを読んで、それをすごく感じましたね。地面師事件は、40代のカトウが"ルーキー"扱いされるような世界ですから、またノリが違うわけですが」
栗田氏「幹部たちのテレグラムのグループの名前が『キヨピース お前も仲間になれ』だったりするんですよ。そういうのも、本人たちはふざけつつも嬉々としてやっていた節もあった。詐欺師はよく『刺さる、刺さる』って言いますけど、彼らにはこういう漫画的なノリが刺さったのかもしれません」
河合氏「私も、実際に特殊詐欺の受け子・かけ子にされかけた40代の男性に取材したことがあるんです。いまそういう誘いは『Threads』に多いらしいんですが、女の子に『カジノに遊びに行きませんか、費用は出すし儲けたら分配します』と誘われて、行っちゃったら闇バイトの勧誘だったと。なんでそんなものに乗ってしまうんだと思うわけです。その男性は意外にも普通のサラリーマンでしたし。
やっぱり日々のストレスでできた心の隙間に、現実味がなくても魅力的な誘いが入ると、それこそ刺さって、スルスル〜っと乗っかってしまうんだなと、その男性の話を聞いて思いました」
気になる「今後の取材テーマ」
--ライターとして活動を続けるお2人ですが、今後書きたいテーマなどはどのように考えているのでしょうか。
河合氏「私の元々の得意分野は生活安全課が扱う性犯罪系で、地面師事件の取材をずっと続けていこうとはあまり考えてないんです。ただ、やっぱり地面師詐欺は昔からあった犯罪で、それが今後どのように変容していくかというのは気になっています。
権利証の偽造というかなりアナログな詐欺で、これからさらにデータ化されることで形は変わっていくと思います。ただ土地の売買には大きな金額が動きますから、そこを狙う詐欺師は居続ける。今は土地に関するまた違う形の詐欺についても取材しています」
栗田氏「僕はこの間取材した、(5月に発生した)京都府南丹市での男児行方不明事件の顛末には考えさせられた。事件自体というよりも、あの件に対するメディアやSNSの取り上げ方がかなり印象的でした。メディアやSNSが爆発的な数字に乗っかって、共通のパブリックエネミーを作り上げたような事件だったと思うんですよね。そこに違和感もあった。
あとは、情報の受け取られ方も印象的でした。たとえデマであっても、自信満々に書き切っている投稿や記事の方がバズったり、まさに世間に『刺さっている』ように感じた。そういう時代になってしまっているからこそ、そこを一歩引いて考える役割を担うような書籍が書けたらいいなと思っています」
社会と時代を切り取り映し出すノンフィクションは、個別の取材から生まれる。2人の今後ますますの活躍に期待したい。
【プロフィール】
河合桃子(かわい・ももこ)/1977年、東京都生まれ。ライター。週刊誌を中心に執筆。幅広く取材活動を行なっており、特に性風俗にまつわる事件などアングラな業界を長年取材している。積水ハウス55億円詐欺事件の実行犯を取材した『地面師連絡役カトウ』(小学館)で、第32回小学館ノンフィクション大賞を受賞。
栗田シメイ(くりた・しめい)/1987年、兵庫県生まれ。 広告代理店勤務、ノンフィクション作家への師事、週刊誌記者勤務などを経て現職。 スポーツや政治、経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。 著書に『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』(扶桑社)、『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』(毎日新聞出版)、『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』(講談社)など。
