ダッシュボードでは店の繁盛と従業員の心と顧客の感動の関係性が見える

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なぜ従業員、顧客の心に着目した心的経営なのか
 

「わたしたちは外食企業ではなく感動創造業である。うどんを売っているのではなく感動体験を売っている」─。こう話すのはトリドールホールディングス執行役員の宇治川智大氏。 

 同社はうどん専門店『丸亀製麺』を始めとした多様なブランドを国内外に約2100店舗展開するグローバル外食企業である。26年3月期は売上高2787億円、事業利益215億円と過去最高を記録。外食業界では6位の座だ。 

 物価高、原料高、人手不足が長らく続く中で、外食業界全体では省人化、省力化が進む。しかし、同社はあえてその逆方向の「人の力」に最大限注力する経営方針を掲げる。外食の楽しみはそこにあるという強い考えがあるからだ。だからこそ、創業以来、全店舗で粉からうどんを作り、人の手による打ち立て、茹でたてのうどんを提供してきた。 

 そのトリドールがこれまで行ってきた人的資本経営をさらに深化させたものが 〝心的資本経営〟だ。 

 人的資本経営とは、人の知識、スキル、経験が資本とされ、中長期的な企業価値向上を目指すものである。一方で心的資本経営は、人の意欲、積極性、充実など人の心を重視し、本質的で永続的な企業成長をはかるものと同社は説明している。 

「従業員の〝心〟の幸せ(ハピネス)」と「お客様の〝心〟の感動(カンドウ)」を重要な経営資本と捉え、この2つを最優先に経営する思想が「ハピカン経営」である。
 

〝幸せ〟をどう数値化する?
 

 お客様に感動を提供するためには、従業員が自ら活き活きと働く内発的動機に火をつける必要がある。そのためには従業員の幸せな状態をつくり出すことが前提となる。問題はその人の〝幸せ〟は、多種多様でそれぞれ違うこと。この抽象概念をどう現実的に平準的に評価するのかという点である。 

 同社はその幸せを数値で測る〝ハピネススコア〟をつくるため、さまざまな見識者からの知見を得て、内発的動機を高める要素として、①繋がり感、②安心感、③貢献実感、④誇りの4要素があると定義。個人の持つこの4要素を上げることが、ハピネススコアの向上につながるとした。 

「さまざまな学識者や専門家に相談し、幸せについて聞いたが、スコア化は非常に難航した。社内でこのハピカン経営について検討するのに1年半ほどかかった。例えばお店の状態によってどうそのスコアが変わるか、社内の施策によってどう変わるか、たくさんのテストを行った」(同) 

 テストと検証を重ね完成した「ハピカンダッシュボード」には、全従業員がアクセスでき、従業員の心の状態「ハピネススコア」と、顧客の「感動スコア」、お店の「繁盛スコア」として数値化される。従業員はアプリ内で実施されるインタビュー形式の全13問の質問に応えデータを蓄積する。回答後は自分のスコアが見え、AIがその結果を分析しアドバイスも行う。 

「質問を、はい、いいえで答えるものではなく、自分自身で考えさせるようなインタビュー形式にしたのもポイント。考えながら質問に答えることで、本人の内省にもつながる」(同) 

 このスコアは本人の給与など評価に影響はしないが、表彰や昇格の参考資料には入る。評価に入れないと明記していても従業員はやる気になっており、6月時点で回答数は13000件を超えている。自分の職場で自分の心の状態と、お客様からのフィードバックと、自分の店の業績を数値で可視化できる「ハピカンダッシュボード」は、従業員の働くモチベーションにも繋がっている。