新NISAで異例の「宇宙ファンド」解禁…プロが暴く“看板倒れ”な中身と「テーマ型ファンド」の罠

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異例! NISA枠に宇宙ファンド

アメリカの起業家イーロン・マスク氏率いる、スターリンクの展開で知られる「スペースⅩ」が6月12日、米ナスダック市場へ新規上場を果たした。時価総額は日本の国家予算(約122兆円)の3倍に迫る約320兆円に。株式市場は前代未聞の熱狂に包まれた。

宇宙開発はこれまで、国家的事業として進められてきたが、今や民間企業が牽引する巨大ビジネスへと変貌しつつある。連日のように宇宙に関するニュースが報じられ、株式市場でも宇宙開発関連の銘柄は、次世代の成長株として投資家たちの注目を集めている。

そんな気運の中、新NISAの「つみたて投資枠」に、初の宇宙関連株インデックスファンドが追加された。三井住友トラスト・アセットマネジメントが運用する『SMT MIRAIndex 宇宙』だ。

NISAの「つみたて投資枠」といえば、その対象となる商品は、金融庁の厳しい基準をクリアした投資信託とETFのみに限定されている。長期の積立投資にふさわしい商品として金融庁が「国のお墨付き」を与える意味は大きく、だからこそ特定の産業やトレンドに特化した、値動きの激しいテーマ型ファンドは原則として排除されてきたはず。そこに突如、リスクの高いテーマ(宇宙)型ファンドが登場したわけだ。

『SMT MIRAIndex 宇宙』がNISAつみたて投資枠の対象ファンドになったのは6月18日。「スペースⅩ」が米ナスダック市場へ新規上場を果たした6日後のことだ。

なぜこのタイミングで、NISAで「宇宙」なのか。

やはり、スペースⅩの上場が大きいと思います。三井住友トラスト・アセットが、このタイミングをチャンスと判断して、金融庁にプッシュしたんじゃないでしょうか

こう分析するのは証券会社出身のファイナンシャルプランナー、松岡賢治さんだ。

この宇宙ファンドの交付目論見書を見ると、’19年12月に運用が始まっています。三井住友トラストは当初、500億円という威勢のいい集金目標を掲げていました。

それが蓋を開けてみれば、設定から6年が経過しても純資産は50億円も集まらず、直近でようやく70億円台に乗った程度。今回のつみたて投資枠への追加には、世間の話題に便乗した運用側のあざとい商魂が透けて見えますよね

世界中の投資家を熱狂させたスペースⅩのナスダック市場への上場。日本でも個人投資家を中心に異常な盛り上がりを見せ、約3000億~4000億円の日本国内向け配分枠をはるかに上回る1兆円超の買い注文が殺到した。

資産運用会社が好機とばかりにその熱気に便乗するのは、わからなくもない。疑問なのは金融庁の判断だ。「こんな鳴かず飛ばずの投資信託」(松岡氏)を、なぜ、今さらNISAのつみたて投資枠の対象として認めたのか。

スペースⅩの株式市場デビューの熱狂から、金融庁も世間的に宇宙関連株が盛り上がってきていると見て、急いで承認手続きを進めたのかもしれません。そうだとしたら、金融庁は大きな勘違いをしています

看板倒れ? スペースⅩ不在の罠

いったい、何を勘違いしたというのか。

スペースⅩは宇宙関連企業のイメージが強いでしょうけど、AI企業です。イーロン・マスク自身、『通信衛星を打ち上げて宇宙空間に巨大なAIデータセンターを建設する』と豪語しています。

日系金融機関で唯一の幹事証券会社『みずほ証券』の公式サイトで確認できるスペースⅩの目論見書を見ても一目瞭然。直近の設備投資の実に約76%をAI分野が占めていて、宇宙関連や通信事業は残りの2割程度に過ぎません。ほぼ全振りしていると言っていいくらいのAI企業なんです

スペースⅩの中核事業が宇宙開発ではなくAIインフラであることを、まさか金融庁が知らなかったなんてことはないだろうが……。

首を傾げたくなる事実は他にもある。「SMT MIRAIndex 宇宙」の組み入れ銘柄リストに、肝心の「スペースⅩ」の名前は見当たらないのだ。

それもそのはず。この宇宙ファンドは過去の売上実績や売買高といったデータを基に機械的に銘柄を選ぶルールになっている。そのため、上場したばかりで実績データが足りないスペースⅩは、自動的に弾かれる。

このファンドの販売用資料を見ると、5月末時点の組み入れ上位10銘柄には航空機の部品を作る『カーチス・ライト』や、老舗の防衛企業である『ロッキード・マーチン』など、アメリカの堅実な防衛・資本財企業が多く並んでいます。

つまり、テーマ名とファンドの中身には大きな乖離がある。投資家は『最先端の宇宙ビジネス』に投資するつもりでも、実際には昔ながらの軍需株や航空部品株を買わされることになるわけです

「看板倒れ」だけでも信頼性の低下は免れないが、松岡氏は「信託報酬」と「運用成績」についてもダメ出しをする。

「このファンドは、市場平均を上回る『スマートベータ』という、世界の宇宙関連企業から資産効率が高い上位50銘柄を集めた“賢い独自の指数”を基にして運用していると謳っています。しかし実際のパフォーマンスは、市場平均の指標であるS&P500やオルカンに負けている。

しかも信託報酬が0.77%と、高いんです。そうであれば、パフォーマンスが良くて手数料も安いS&P500やオルカンを買うほうが無難という話になりますよね

プロ警告! テーマ型がNGなワケ

先に触れた通り、『SMT MIRAIndex 宇宙』はテーマ型ファンドだ。世間で話題になっているテーマに沿った銘柄を組み入れる投資信託のことだが、投資対象がわかりやすい反面、リスクの高さが指摘されている。

テーマ型ファンドは『基本的にお勧めしない』というのが、金融のプロの間では共通認識になっています。最大の理由は、『高値づかみ』になりやすいからです。

そもそも運用会社がなぜテーマ型ファンドを仕掛けるかといえば、世間で話題になっていて売りやすいから。しかし、話題になっている時点で組み入れ銘柄の株価にはさまざまな好材料が織り込まれ済みで、すでに高値を迎えているケースが多いんですよ。

だから、三井住友トラストの宇宙ファンドも、典型的な高値づかみパターンになる可能性がありそうな気がします

さらに松岡氏は、宇宙ビジネスが有力な成長産業と見られていることに対しても、「必ずしも楽観視はできない」と警鐘を鳴らす。

たとえば『巨大企業の資金流入によって、宇宙関連銘柄全体の株価が急上昇する』といったストーリーを描く人がいますが、それは大きな間違いです。実際のところ、宇宙産業はまだ通信衛星止まり。関連企業が若干は潤うかもしれませんが、ファンドのパフォーマンスを劇的に押し上げるほどのインパクトはありません

松岡賢治(まつおか・けんじ)マネーライター、ファイナンシャルプランナー/証券会社のマーケットアナリストを経て、1996年に独立。ビジネス誌や経済誌を中心に金融、資産運用の記事を執筆。著書に『ロボアドバイザー投資1年目の教科書』『豊富な図解でよくわかる! キャッシュレス決済で絶対得する本』。

取材・文:斉藤さゆり