メス1匹で繁殖「外来ザリガニ」駆除のため、那覇市が公園の池をコンクリ埋め立て…“大規模工事”に踏み切らざるを得なかった切実な理由
沖縄県那覇市の天久(あめく)ちゅらまち公園。夏になると沖縄では珍しいハスの花が咲き、市民の憩いの場となっていた池が現在、封鎖されている。
特定外来生物のザリガニで“メス1匹のみ”で繁殖可能な「ミステリークレイフィッシュ」の国内初となる「定着」が確認されたためだ。市は今年秋にも、池をコンクリートで埋めるという大規模な防除計画に乗り出すことを決めた。
“たかがザリガニ”のために、なぜ市民の憩いの場を埋め立てるという手段を取らなければならないのか。その背景には、安易な放流が招いた「取り返しのつかない」事態があった。
もともとザリガニがよく釣れるスポットとして子ども達の間で知られていたというちゅらまち公園の池。2024年8月、このスポットでミステリークレイフィッシュが釣り上げられた。
連絡を受けた環境省沖縄奄美自然環境事務所が池を調査すると、成体だけでなく幼体を含む数十匹が捕獲され、繁殖・定着していることが確認された。さらに、公園近くの小学校のビオトープ(生物生息空間)や、隣接する浦添市でも生息が確認されている。
ミステリークレイフィッシュは、原産地不明のザリガニで、もとはアメリカに生息するスロウザリガニから突然変異で生まれたとみられる。これまでにオスは発見されておらず、メスが単独で卵を産む「単為生殖」で増殖するのが最大の特徴だ。1個体からでもクローンを増やせるため、1匹でも野外に放たれると爆発的に繁殖するリスクを抱えている。
こうした危険性などから、2020年には外来生物法に基づく特定外来生物に指定され、生きたままの運搬や飼育、譲渡、放流などが厳しく禁止されている。違反すれば、個人でも3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が科される可能性がある。
那覇市への侵入経路は不明だが、外来生物の生態に詳しい生き物系YouTuberの茸本朗(たけもとあきら)さんは、「ペットとして飼われていた個体が人為的に放たれた可能性が高いのではないか」と話す。
ザリガニが侵入「環境が終わってしまう」しかし、なぜ1種類のザリガニのために、池を埋めるという大がかりな対策が必要なのか。茸本さんは続けて、外来ザリガニがもたらす被害の深刻さを指摘する。
「一度外来ザリガニが侵入すると環境が終わってしまう。湿地帯の生態系保全にとって、外来ザリガニは天敵です」
アメリカザリガニに代表される外来ザリガニは非常に貪欲で、雑食性が強いのだという。
「ハサミで水草を切り刻んでしまうため、水草の水質浄化の役割が損なわれるほか、水草に依存して暮らす在来生物の住処を奪います。さらに、ザリガニには肉食性もあるため、ホタルやカエル、希少な水生昆虫なども捕食し、最終的にはザリガニしかいない水域にしてしまうのです」(茸本さん)
ミステリークレイフィッシュも、増殖すればアメリカザリガニと同様の影響が想定される。加えて、他のザリガニ類と同様に「ザリガニペスト」などの病気を媒介する可能性も指摘されており、在来の生態系に壊滅的なダメージを与える恐れがある。
なぜ「池の水をぜんぶ抜く」ではダメなのか那覇市は今年秋にも、問題の池の防除作業に着手する。その方法は、単に水を抜くだけではない。約320平方メートルの池の水を1ミリ程度の網目のネットを通して抜いた後、底の泥を乾燥させてセメントで固化。その上でコンクリートの蓋をして完全に封鎖するという徹底したものだ。
前出の茸本さんは那覇市の判断について、「緊急措置として理解できます」と語る。
「捕獲で全部駆除しようとすると、数年単位の時間がかかります。また、池の水を抜くだけでは、ザリガニの個体や卵が排水と共に外部へ流出し、被害を拡大させてしまう可能性もあります。沖縄には貴重で固有な生態系がありますから、ミステリークレイフィッシュが広がらないうちに徹底的に対処したいという考えが自治体の皆さんの意識にあるのだと思います」(茸本さん)
市ではこの大がかりな工事の後、池に水を戻し、ミステリークレイフィッシュの根絶が確認でき次第、ハスの復旧を行う予定だという。計画では、根絶確認が2026年度中、ハスの植栽が2027年度とされている。
市公園管理課の担当者は、「具体的な施工方法については調整中で、現時点では総工費用について回答できない」と話すが、元の景観を取り戻すまでには長い時間と、多額の費用を要するだろう。
「入れない・捨てない・拡げない」安易な放流が招く甚大なコスト今回の問題は、天久ちゅらまち公園にとどまらない。那覇市立銘苅(めかる)小学校のせせらぎでもミステリークレイフィッシュが確認されており、市は環境省の補助を受け、防除計画を策定し駆除を進める方針だ。
今回の事態を受け、那覇市環境保全課では、外来種問題に対する市民の理解を強く求めている。
「外来生物の侵入や人為的な放流等については、貴重な琉球諸島の自然を形成する固有種の減少につながる恐れがあるため、『入れない』『捨てない』『拡げない』の外来種被害予防三原則を守っていただきたいです」
飼っている外来種を野外に放さないのはもちろん、野外で捕まえた外来種を別の場所に移動させない。市民一人ひとりの意識が、地域の生態系と、それを守るために費やされる莫大な社会的コストを左右する。公園の池をコンクリートで埋めるという那覇市の苦渋の決断は、安易な放流がもたらす代償の大きさを物語っていると言えるだろう。

