まさか点滴に(写真はイメージです)

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 点滴の延長チューブ内に大便を混入させて入院患者を殺害――。千葉県警は7月15日、柏たなか病院の元看護師・古川美由紀容疑者(51)を殺人容疑で逮捕した。古川容疑者は容疑を否認しているという。そもそも大便で人を殺すことなどできるのだろうか。

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 古川容疑者は今年1月29日の17時から翌30日の9時まで、被害男性(当時75)が入院する病棟を准看護師と共に担当していた。准看護師が30日の4時頃に巡回した際、男性から「苦しい」という訴えがあり、駆けつけた看護師長が茶色く変色した点滴チューブを見つけた。社会部デスクは言う。

「変色したチューブは看護師長が外して新しいものと交換しましたが、その時には変色したチューブがなくなっていたそうです。翌31日に男性は死亡。捜査関係者によると、古川容疑者はスマホで『便注入、死ぬか』と検索し、事件前、使用済みのおむつなどを廃棄する汚物室に入る姿が防犯カメラに映っていたそうです。となると、便は人間のものなのでしょう」

まさか点滴に(写真はイメージです)

 排泄物とはいえ元々は人間の体内にあったものだ。それを点滴で体内に戻すことで人を殺すことができるのだろうか。日本内科学会認定の総合内科専門医で秋津医院院長の秋津壽男氏に聞いた。

「人の排泄物には無数の雑菌が含まれています。それを点滴で血管内に入れると、血液中で細菌が増殖して菌血症になります。これが悪化すると、全身に強い炎症反応が起こる敗血症に移行し、多臓器不全により死に至る可能性があります」

 助ける術はなかったのだろうか。

血管内は極めてクリーン

「異物混入に素早く気づき、適切な抗生剤を投与するなどの治療ができれば生存の可能性はあると思いますが、発見が遅れると急速に敗血症が進行し、手遅れになることが多いです」(秋津医師)

 認知症の患者が自分の排泄物を食べてしまうという話も聞くが、消化器官ではなく血管に入れることが危険なのだろうか。

「血管内は本来、細菌などが存在しない無菌状態と言っていいほど極めてクリーンな状態に保たれています。少量の異物であれば白血球が処理してくれますが、大量の異物や毒性の高い物質が侵入すると体の防御機能では対応できず致命的な結果に繋がります」(秋津医師)

 では、空気ではどうだろう。水戸地裁は7月7日、介護老人施設に入居する男性2人の点滴に空気を注入して殺害した容疑で逮捕・起訴された元職員・赤間恵美被告(40)に懲役20年の判決を言い渡した。亡くなったのは2人だが、1人に対する殺人罪で懲役20年、もう1人に対しては物証が少ないため無罪となったことでも注目された判決だった。

「血管に少しくらい空気が入ったところで死ぬことはありません。実際、注射器や点滴で気泡くらい入ることはありますから」(秋津医師)

 どのくらい入れると死に至るのだろう。

血管に入れば体中を回る

「致死量は100cc(立方センチメートル)といわれることもありますが、科学的な根拠は明確ではありません。そのため裁判での死因特定は、非常に難しい場合があります」(秋津医師)

 では、何をもって殺人罪が適用されたのだろう。“何ccの空気を入れたら致死量”という明確な基準がなければ、罪に問うこともできないのではないのだろうか。旧日本軍が行ったといわれる人体実験でも根拠にしているのだろうか。

「ナチスも同様の人体実験を行なったといわれていますが、具体的な資料は残っていないそうです。ただ、血管内に大量の空気が入ると、空気が肺の中の酸素の交換部分を止めてしまうため、突然、肺塞栓、つまりエコノミークラス症候群のような症状が起こります。そこをCT(コンピュータ断層撮影)や司法解剖により解明していったのでしょう」(秋津医師)

 雑菌や空気もまずいとなれば、消毒薬はどうなのだろう。消毒薬で患者の体を拭くことはよくあるが――。2016年9月、横浜市の病院に勤務していた元看護師・久保木愛弓受刑者は、入院患者3人の点滴に消毒薬を入れて殺害。24年6月に東京高裁で無期懲役が確定している。

「例えばトイレの洗剤であるとか、漂白剤、肌の洗剤などによって症状は異なるものの、本来、人の体にないものが血管内に入れば悪影響を及ぼします。まず血管の内膜がダメージを受け、非常に強い血管炎を起こしますし、それが大量であれば肺や脳など体中を回るわけですから、様々な臓器に障害が起こります」(秋津医師)

 当たり前だが、血管に入れてもいいものは血液のほかは極々限られている。

デイリー新潮編集部