(※写真はイメージです/PIXTA)

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「不倫」「浮気」「離婚」「セクハラ」……銀座さいとう法律事務所には、今日も有象無象のトラブルが舞い込みます。本連載では、齋藤健博弁護士が実際に寄せられた事例をもとに、男女の法律問題を解説していきます。

「セクハラ相談」から始まった、女性部下との禁断の関係

Aさん(55歳)は、官僚畑一筋で勤続30年を迎えようとしている、いわば「エリート中のエリート」である高級官僚でした。官舎を出て、23区内に一戸建てのマイホームを構え、子どもたちも自立し、平穏な日々を送っていた矢先のことです。

事務方の部下Bさん(40代前半・女性)から、仕事に関する相談を受けるようになります。その相談は、彼女の直属の上司Cさん(50代前半・男性)からが、飲み会の席などでセクハラをしてくるといった深刻なものでした。

セクハラの内容は、飲み会のときに髪に触れる行為に始まり、明確に拒絶をできず笑ってやり過ごしていたところ、同僚男性たちが写真に収めたり、冷やかしたりしたこともあいまって、嫌だとなかなか言い出せなかったとのこと。

Bさんに見せられた写真には、髪に触れる行為だけではなく、耳にキスをする、本人は嫌がっているのに路上でキスをするなど、強引に迫られている場面が生々しく写っていました。

容姿端麗のBさんは職場でも人気者。しかもBさんは、「うちは世界で一番愛し合ってる」などと豪語するほど自身の夫婦仲がいいことをアピールしていた人物だけに、Aさんは彼女の傷心ぶりに胸を痛めます。もともとCさんに対していい感情を抱いていなかったこともあり、Aさん生粋の正義感に突き動かされました。

熱心に相談に乗っていたAさん。あるとき残業中、Bさんから「このあと二人で食事に行きたい」と誘われ、相変わらず苦しそうにCさんの被害を訴えるBさんを前にして、仕事場で一線を越えてしまいました。二人の関係は2年間におよび、仕事場での情事に加え、旅行に出かけるなど、Aさんは自身の家族を大切にしつつも、火遊びを繰り返していました。

正直に妻へ告白して自宅を追放され…

ある日、Bさんが職場内で「離婚が成立した」と突然告白しました。Aさんは場合によっては自分がBさんと婚姻したいと考え、自分もそろそろ離婚を切り出すべきか、毎日毎日真剣に悩みます。

そんな折、居酒屋でBさんから「私と結婚してほしい、真剣に将来を考えてほしい」と決断を迫られます。

Aさんは悩みに悩み、妻に離婚を切り出しました。この際、生粋の正義感も相成り、事実をすべて話してしまいます。数年前から不貞行為をしていたこと、不貞行為が悪い行為であることはわかっているが、気持ちがどうしても抑えきれず過ちをしてしまったこと、Bさんと一緒になりたいこと、などです。

妻からは、「離婚はできない。あなたは有責配偶者だから、都合よく離婚できると思うな」といわれたものの、自宅は追い出されました。

途方に暮れたAさんは、Bさんに助けを求めます。離婚を成立させ、一人暮らしをしているはずのBさん宅に泊めてほしいとお願いをしたのです。

450万円を不倫相手へ…高額すぎる「求償権」に合意したワケ

Bさん宅で、Aさんは修羅場を見ました。なんと、Bさんは、「セクハラ加害者」であるはずのCさんと同居生活をしていたのです。

その日はホテルに泊まったAさんが意気消沈しているのもつかの間、Aさんの妻は、探偵を使って証拠を集め、Bさん宅とそこに出入りするAさんの証拠を掴んでいました。Aさんの妻は、Bさんに弁護士を通じて直ちに内容証明郵便を出しました。そこには「離婚寸前」とまで書かれています。

Aさんは、大好きだったBさんの裏切り、Cさんによるセクハラ被害が「フリ」だったことを受け入れきれず、すべてを失ってしまったと、悶々としていました。

窮地に立たされたBさんですが、Cさんから資金を捻出してもらい、慰謝料だけでなく、探偵費用を含む500万円をAさんの妻へ一括で支払ったのです。500万円は、離婚を実現していないケースとしては破格です。CさんがBさんのために、早期解決のために支払ったものでした。

そしてその直後、BさんはAさんに対して驚くべき裁判を起こしました。「Aさんとの不倫関係において、私は身体を提供させられていた被害者。責任の割合は『Aさんが9、私が1』である」と主張し、自分が(Cさんが代わりに)支払った500万円のうち、9割に相当する450万円をBさんに支払うよう求めてきたのです。

法的には、これは共同不法行為者間における「求償権の行使」にあたります。不倫は男女双方が共同で行う不法行為であるため、一方が慰謝料の全額を支払った場合、もう一方に対して「あなたの負担分を支払ってください」と請求する権利が発生します。

通常、この負担割合は「5対5」、すなわち本件であれば250万円ずつとするのが相場です。450万円という請求は不当といわざるを得ず、裁判で争えば250万円程度に減額される可能性が高い状況でした。

しかし、Aさんには争うことができない致命的な弱みがありました。撮影禁止であるはずの職場内で、Bさんの裸体写真を多数撮影しており、その画像データがBさん側に握られていたのです。万が一裁判を長引かせ、この事実が世間に露呈すれば、官僚としての地位も人生も一瞬で崩壊します。さらに、Bさんの上司という立場から「セクハラ的な行為だった」と告発されるリスクも恐れたAさんは、これ以上家族を失いたくない一心と、Bさんの気持ちを考えて、450万円の全額を支払うことに。

その後、BさんとCさんは再婚しました。Aさんは職務上の処分こそ免れたものの、手元には多額の負債が残り、自身は離婚をすることもなく、いまも家族に生活費だけを支払っています。法的にこれは婚姻費用といって、別居している夫婦関係で生じる生活費の支払い請求を意味します。まさに踏んだり蹴ったりの結末といえるでしょう。

今回の事例は、見落としがちな難しい問題を孕んでいます。

探偵費用全額や高額な慰謝料は、本来は認められにくい

Aさんの妻が請求した「500万円」という金額は、離婚を伴わない不倫の慰謝料としては相場を逸脱しています。また、裁判実務において探偵費用の全額が損害として認められることは稀です。しかし、Bさんが早期解決のためにその金額で自主的に合意して支払ってしまった以上、その既成事実をもとに求償権の計算が行われることになります。この観点からもAさんは、Bさんによる決断により、大きな負担を強いられています。

「当事者間の合意」は法的な相場を凌駕する

求償割合の基本は「5対5」ですが、双方が納得して合意したのであれば、たとえ「9対1」という極めて不条理な割合であっても、その合意内容が法的な支払い義務として確定します。

Bさんが、Aさん、Cさんともに欺いていたという、珍しい事例でした。

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容から変更している部分があります。