【関山 健】気温が「2℃」上がると世界の戦争が激増する…科学者たちが警告する「気候紛争」の恐ろしい現実

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2050年、「たった2℃」の気温上昇で戦争が激増する――。この地球平均気温のわずかな上昇により酷暑干ばつ洪水などが発生し、民族対立、貧困といった紛争の火種が煽られ、結果的に内戦や戦争につながってゆく。もはや気候変動は止まりそうになく、帰還不能点はすぐ目の前にある。今年もまた、昔よりずっとずっと暑くなった夏がやってくる。この酷暑が世界にどのような争いを生むのだろうか?

(本記事は、関山健『気候紛争 たった「2℃」が起こす戦争』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。)

紛争と気象災害との関係

1・5℃や2℃のわずかな地球平均気温の上昇が、猛暑熱波、日照り・干ばつ、豪雨・洪水、台風、高潮といった気象災害を激甚化あるいは頻発化させ、それが水不足、食料不足、健康被害なども引き起こすと予測されている。そして、こうした気候変動に伴う社会経済上の混乱が、民族対立や反政府暴動、さらには国家間対立をも誘発しうると危惧されている。

ただし、我々が直面しつつある気候変動の紛争リスクを考えるといっても、人や社会が争いを起こすプロセスは複雑で、将来予測のシミュレーションは難しい。また、過去の気象災害についても、気候変動の影響を受けたものかどうかは断定できないものが多い。

そのため、従来の気候紛争研究では、過去数十年の間に世界で実際に起きた紛争と気象災害との関係について、それが気候変動の影響によるものかどうかを問わず調査分析することで、そうした気象災害が今後の気候変動により激甚化あるいは頻発化する場合の紛争リスクを知ろうとしてきた。

本章では、そうした気象災害と紛争とのつながり、特に猛暑・高温、日照り・干ばつ、多雨・洪水といった気象災害と紛争との関係を分析した既存研究の成果を紹介すしよう。

紛争につながる猛暑・高温

気温と紛争の間には、昔から一定の相関があったと指摘されている。例えば、産業革命以前(1400〜1900年)の中国では、寒冷期に紛争の頻度が高かったという分析結果がある。冷涼な時期は農業の生産性が下がり、一定の広さの土地で養える人口の数が減少するので、土地と食料を巡る紛争が増えるのではないかというのが、考えられる背景である。

もし土地の収容力が気温と紛争を結びつける鍵であるならば、気温の上昇も紛争の発生につながりかねない。ヨーロッパや東アジアなどの温帯地域では寒い年に農業の生産性が下がる一方、もともと平均気温が高い地域では暑すぎる年に農業の生産性が下がるからだ。実際、熱帯地域、アジア、アフリカおよび中東などでは、気温上昇が紛争リスクに影響を及ぼすことが指摘されている。

また、いわゆるエルニーニョ・南方振動(ENSO)現象がもたらす気温変化と紛争発生との関係を分析して、多くの注目を集めた研究もある。

ENSOは、南太平洋地域で起きる海洋・大気システムの周期的な変化であり、世界中の天候に影響を与える。太平洋東部の気圧が高い時には強い貿易風が東から西へ吹き、インドネシア付近の温かい海水を西へ吹き寄せる結果、太平洋中東部の海面水温が平年より下がる(ラニーニャ現象)。

一方、太平洋東部の気圧が低い時には逆に貿易風が弱まり、太平洋中東部まで温かい海水が広がる(エルニーニョ現象)。こうした気圧と海水温の変化がドミノ式に低・中・高緯度へと波及して各地の大気の流れを変化させ、通常とは異なる異常気象を引き起こす。

カリフォルニア大学バークレー校のシャンらは、1950年から2004年までのデータをもとに紛争リスクとENSOとの関係を調べた。その結果、熱帯地域では、気温が涼しく雨の多いラニーニャ相から暑く乾燥したエルニーニョ相に移行する時に紛争リスクが倍増するという関係を見出した。

シャンらは、特に低所得国の方が高所得国よりもENSO変動に対して敏感であるとし、ENSOの影響を直接受ける国々では1950年以降の内戦の21%にENSOが関与している可能性があると述べている。

紛争につながる日照り・干ばつ

気温と紛争の関係と同様、日照りや干ばつの深刻化に伴う紛争の可能性についても、多くの分析がなされてきた。

干ばつは、国家間の大規模な紛争の引き金になるというよりは、むしろ民族や集落などコミュニティ間の暴力や暴動に大きな影響を与えるようである。

もともと降雨と紛争との関係が盛んに研究されるようになったのは、雨が紛争に及ぼす直接的な影響への関心のためではない。降雨に強く影響される農業所得の変化と紛争との関係に焦点を当てた研究が発端であった。

天水農業(灌漑を行わず雨水だけで行う農業)が主流のアフリカでは、降雨の不規則な変化によって農業所得が大きく左右される。降雨量の変化に着目した研究によれば、降雨量が増えると所得が増えて紛争が起きにくくなり、逆に降雨量が減ると紛争が発生しやすくなるという関係が見出されている。

ほかに、アフリカにおける干ばつ、農業、武力紛争との関連について、単年度の干ばつと継続的な干ばつを区別して分析した研究もある。その研究によれば、単年度の干ばつ発生とその継続年数の両方に紛争との相関が見出され、干ばつが紛争の発生リスクを高めることが指摘されている。

また、降雨量の減少や気温の上昇によって水不足が発生すると、限られた水資源を巡って農民と遊牧民が対立したり、都市住民が暴動を起こしたりといった可能性が指摘されている。同様に、河川や湖などの水を共同利用する国家間、特に上流国と下流国の間で、その水資源を巡って対立と紛争が生じると指摘する研究者もいる。

例えば、スーダンのダルフール紛争は、水不足が紛争を誘発した典型的な事例の一つとして、しばしば挙げられる。スーダン西部のダルフール地方は、火山性のマラ山脈と広大な平野に覆われ、昔から牧畜を営む遊牧民と農業を営む定住農民とが暮らしてきた。しかし、1970年代からの干ばつ傾向により、放牧可能な土地も耕作可能な農地も大きく減少してきている。

その結果、ダルフール地方では、限られた水と土地を巡って遊牧民と定住農民との間で激しい争いが生じるようになった。こうした水不足を背景とする遊牧民と定住農民との対立が、ダルフール紛争の重要な背景の一つといわれる。

スーダンの位置する北アフリカでは、伝統的に遊牧民と定住農民とは協力関係にあり、同じ土地が雨期には農作物の栽培に、乾期には家畜の放牧に利用されてきた。しかし、降雨量の減少による水と放牧地の不足により、遊牧民集団が農作物の収穫前に土地に流入することで両者の共存関係が崩れ、紛争を招いている。

ナイジェリア、チャド、ニジェール、カメルーンの4か国にまたがり、サハラ砂漠と接するチャド湖周辺域も、水不足が紛争の遠因となった代表的な場所として知られる。

周辺人口の増加に伴う大規模灌漑、過放牧、砂漠化の影響を受け、チャド湖の面積は1963年から2001年までの間に90%以上が失われた。この湖の消失が、周辺地域で土地と水を巡る紛争の増大を招いている。

同様に、2011年に始まったシリア内戦も、この地域を2007年から2009年にかけて3年連続で襲った観測史上最も深刻な干ばつが引き金になったという指摘がある。もとより統治が機能不全であり、脆弱な農業基盤しかなかったシリアにとって、干ばつが政情不安の重大な一因となったのである。

これらの紛争に比べれば規模は小さいが、ケニアのトゥルカナ地区では、干ばつによって水や牧畜可能な土地が乏しくなると、それらを巡って牧畜民の間で抗争や家畜の奪い合いが起きやすくなるという。

このトゥルカナ地区で行われたインタビュー調査において牧畜民たちは、水や耕作地が豊富な時には協力のメリットが略奪のメリットを上回るが、共有すべき土地や水が少なくなると協力のメリットが低下する、と答えている。

ほかにも、ニジェールのタホアやエチオピアのガンベラでも、土地や水を巡る民族間の競争が時として暴力的な衝突に発展することが報告されている。

水不足が招く国家間紛争

水を巡る争いが、国家間の対立に発展する場合もある。例えば、中国によってメコン川上流に建設あるいは計画されたダムが、下流のミャンマー、ラオス、カンボジア、ベトナムとの間で既に軋轢を生んでいる。

メコン川は、タイでは耕地の約50%がその流域に存在する。カンボジアでは人口の約半分が恵みを受けるトンレサップ湖の水源であり、また、ベトナムでは同国の米生産の半分以上を生み出す恵の川である。

そのメコン川上流で中国は10以上のダムを建設し、さらに隣国ラオスでもダム建設を支援している。特にベトナムと中国は、南シナ海の領有権問題も抱えており、気候変動などによるメコン川流量の減少と中国によるダム建設が、両国の関係を今後さらに複雑にする可能性がある。

同様に、チベット高原に発してガンジス川と合流しベンガル湾へ注ぐブラマプトラ川も、中国、インド、バングラデシュの間の緊張を高めるものとなっている。(中国は、このブラマプトラ川上流の中国領内にあるヤルンツァンポ川で世界最大級の巨大ダムを建設し、水力発電に利用しようとしている。これに対して下流のインドとバングラデシュは、ダムが水流、漁業、洪水に与える影響を懸念し、流域に住む数千万人の住民の生活にとって重大な脅威になると反発している。

また、米国も近年メキシコと水を巡る対立を深めている。メキシコは国境沿いを流れるリオグランデ川の水を米国に送る条約を1944年に締結しており、米国はその水をテキサス州の農畜産業などに利用している。ところが、近年は毎年のように発生する大規模な渇水のためにメキシコ側でも農業用水等の確保がままならず、米国への送水が約束どおりに行えていない。

これに対して米国トランプ大統領は、2025年の2期目就任以来、メキシコが水を盗んでいるとたびたび非難し、追加関税の発動までちらつかせて脅しをかけた。この地域の渇水が気候変動のために今より一層深刻化すれば、水問題を巡る両国間の対立はさらに激しさを増しかねないと危惧される。

【中編】→猛暑で食料が消え、人が暴れる…気候変動が生む「暴動」と「戦争」の恐ろしい連鎖

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