(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

初孫の誕生をきっかけに、「少しでも力になりたい」と我が子のサポートを買って出る祖父母は多いものです。しかし、よかれと思って始めた手伝いが、気づけばお互いの生活や心身を脅かすほどの負担に変貌してしまうケースは少なくありません。最初は円満だった家族関係が、なぜ徐々に歪み始めてしまうのか。本記事では、Aさんの事例から、孫育ての落とし穴について、合同会社ミコサポ代表の三藤桂子FPが解説します。※事例はプライバシー保護のため、一部脚色しています。

贅沢しなければ手堅い「ひとり身の年金生活」のはずが…

Aさんは夫に先立たれた75歳の女性です。現在は自身の老齢年金(約80万円)と遺族年金(約170万円)を合わせた年額255万円(月額約21万円)の年金と、年金生活者支援給付金(年額約6万円)で生活しています。生前、夫が長く会社勤めをしてくれていたおかげで、贅沢さえしなければ日常生活は年金のみで十分に賄っていけそうでした。

夫への感謝を胸に抱きつつも、老後の一人暮らしに時間を持て余していました。年金生活が始まる前は、夫と「老後は穏やかに過ごそう」と話していたため、具体的な計画がなかったのです。ボランティア活動でもしようか、それとも新たな趣味でも始めようか--。ひとりで考えていたところ、息子夫婦に子どもが誕生します。Aさんにとっては初孫でした。

夫の分まで注いだ愛情…歩いて20分の「孫通い」

夫が生前、孫を抱っこする日を楽しみにしていたことを思い出すと心が痛みます。Aさんは、夫の分まで孫と接しようと決意しました。

天気のいい日は、自宅から歩いて20分の距離にある息子の家へ通うことに。「頻繁に訪れるとお嫁さんに嫌がられるのでは」という心配もありましたが、嫁は「育児の負担が軽減できて助かります」と受け入れてくれ、Aさんは胸を撫でおろします。

やがて、共働きである息子夫婦の育児休業が明ける時期を迎えます。嫁は子どもが1歳になったら保育園に通わせ、職場復帰したいそうです。「保育園の送迎を手伝ってほしい」と相談を受けたAさんは、孫のためならと、二つ返事で引き受けます。

その際、朝は息子夫婦が交代で送り、帰りはAさんが迎えにいくというルールが決められました。息子はAさんを心配して、「毎日おばあちゃんがお迎えするのは大変だから、時短復帰したらどうだ」と嫁に提案してくれました。しかし嫁は、「お義母さんが率先して引き受けてくれたのだから」とフルタイム復帰することに。こうして新たな生活がスタートしました。

保育園は、Aさんの家と息子の家との中間地点あたりにあるため、当初はそんなに苦痛にならないだろうとAさんは思っていました。歩いてAさんの自宅から保育園へ向かい、孫を連れて息子の家まで帰るという経路です。

ところが、息子の家に到着してからが大変でした。息子夫婦の帰りは夜のため、孫の夕飯の支度やお風呂等はすべてAさんが担い、孫が寝る時間になってようやく息子夫婦が帰宅するという毎日が常態化していきました。

「せめて土日の仕事が休みの日は、親子水入らずで過ごしたほうがいいだろう」そう考えてAさんが週末の訪問を控えるようになると、嫁から連絡が入ります。「子どもが今日も来てほしいと泣いています」と懇願されてしまいました。

Aさんが息子の家を訪れると、孫が「ばぁばが一番好き!」と無邪気に駆け寄ってきます。その可愛さに絆され、結局、毎日息子の家に通う頻繁な交流が続きました。

しかし、知らず知らずのうちに体力的な負担が積み重なり、腰痛や肩凝り等、痛みがひどくなります。さらに、夕飯の用意に伴う買い物代はすべてAさんの財布から支払う形になっており、自身の年金生活を圧迫する金銭的な負担も重くのしかかっていました。こうして、Aさんと息子夫婦の関係性には、微妙な変化が生じるようになっていったのです。

息子からの切ない提案

こども家庭庁の「保育所等関連状況取りまとめ(令和7年4月1日)を公表します」によると、全国の待機児童数は2,254人です。その内訳は、3歳未満児が全体の90.6%、特に1・2歳児が多く、全体の83.3%を占めています。

このように、そもそも保育園に入れず親を頼らざるを得ないケースも世間には多く存在します。しかし、たとえ保育園に入れたとしても、親の働き方や帰宅時間によっては、結局は祖父母が送迎や家事を全面的にカバーせざるを得ないのが現代の育児のリアルといえるでしょう。

これからの息子家族との距離感

Aさんの限界を察したのか、ある日、息子が切ない表情で提案をしてくれました。

「妻と子どもの関係もあるので、一線を引いたほうがいいのかもしれない。今後はお迎えの回数を減らしてお母さん(Aさん)もゆっくりしてほしいし、食材等にかかったお金は自分に請求してほしい」

息子の言葉に嫁との関係悪化を心配したAさんでしたが、これは息子の家庭の問題だと割り切り、今後の対応を息子に任せることにしました。

孫への愛情から始まった協力体制でしたが、一線を越えてしまうことで夫婦間や親子関係が崩れてしまっては本末転倒です。互いのキャパシティを尊重しながら明確なルールを決め、無理のない範囲で支え合う体制づくりこそが、シニア世代の穏やかな老後と子育て世代の双方を守るために大切なことなのかもしれません。

〈参考〉

こども家庭庁:「保育所等関連状況取りまとめ(令和7年4月1日)」を公表します

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/b0a8057b-34bf-4c20-84fb-ae592708ca9b/c853cacb/20250828_policies_hoiku_torimatome_r7_01.pdf

三藤 桂子

合同会社ミコサポ

代表