法律上「誤って振り込まれたお金」は受取人のものにはならない(trickster* / PIXTA)

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近年、インターネットバンキングの利用普及に伴い、個人の口座に誤って金銭が振り込まれるトラブルが、たびたび話題となっている。

2022年に、山口県阿武町が新型コロナウイルス臨時特別給付金4630万円を、誤って1世帯に振り込んだ事件は、大きな社会的関心を集めた。2024年11月には、東京都千代田区が定額減税補足給付金を支給済み世帯に重複支給していたことも発覚している。

こうしたトラブルは行政と個人間だけでなく、給与や報酬の二重振込など民間レベルでも発生している。今年5月には、クラウドファンディングプラットフォーム「forgood」が、中止となったプロジェクトの支援金を誤って主催者の女性に送金するという事態が発生。返金手続きの交渉過程で、女性が企業とのやり取りをSNS上に公開したため、大きな騒動へと発展した。

ある日突然、自分の口座に身に覚えのない入金があった場合、どのように対処するのが適切なのか。また、誤って使ってしまった場合、どのような法的責任を問われるのだろうか。(ライター・倉本菜生)

プロジェクト中止後に“支援金”が入金され…

今年1月頃、X(旧Twitter)上でコスプレイヤーとして知られるAさん(女性)が、自身に対する誹謗中傷への法的措置費用などを目的としたクラウドファンディングを立ち上げた。

しかしプロジェクト公開直後からアクセスが殺到し、サーバーが一時ダウンするなどのトラブルが発生。プラットフォーム側は、規約で禁止している「企業や他の利用者のサーバーやコンピューター等に過度な負荷をかける行為」にあたるとしてプロジェクトの掲載を中止し、支援者らへの全額返金を行うこととした。実際、支援者らへの返金は速やかに行われ、事態は収束したかのように見えた。

ところが5月になり、集まった支援金と同額の約48万円が、プラットフォーム側からプロジェクト主催者であるAさんの個人口座にも送金された。Aさんが入金に気づき、企業へ問い合わせたことで誤送金が発覚した。

企業側は指定口座への返金振込を求めたが、Aさんはメールの返信が遅いことなどを理由に、法務担当者とのメールのやり取りをX上で公開。さらに企業代表のアカウントにも繰り返しリプライを送り、説明を求めた。

これを受けSNS上では、双方の対応をめぐって議論が過熱。企業側の資金管理体制を問題視する声が上がったほか、Aさん側に対しても「速やかに返金すべきではないか」「メールを公開する必要はあったのか」といった批判が寄せられた。

一方で、「企業からの連絡であっても、なりすましや詐欺の可能性を考えると慎重に対応したくなる」と、Aさん側の警戒心に一定の理解を示す声も見られた。

では、誤送金に対し、返金を求められた場合、受け取った側はどのような対応を取るべきなのだろうか。

弁護士「誤って振り込まれたお金は受取人のものにはならない」

刑事事件・民事事件に幅広く対応する荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)は、「まず前提として、誤って振り込まれたお金は受取人のものにはならない」と説明する。

「給与や報酬などと違い、受け取る法的な根拠がないお金なので、『不当利得(ふとうりとく)』として相手に返す義務があります(民法703条)。法律上は『〇日以内に返さなければならない』といった決まりはありませんが、事実確認ができ次第できるだけ早く返金するのが望ましいです」

荒川弁護士は「事実確認をする際は、会社の公式サイトなどに掲載されている代表番号に電話するのが基本です」と話す。

「返金を求めるメールに電話番号が記載されていたとしても、自分で必ず公式の情報を確認しましょう。なりすましや詐欺の被害を防げます。そのうえで、もっとも安全な返金方法は振込人に対し『組戻し』を利用するよう求めることです」

組戻しとは、振込人が銀行に依頼し、誤って振り込んだお金の返金を求める手続きだ。誤送金が発覚した際に利用される、代表的な解決方法のひとつである。ただし、組戻しを依頼したからといって、銀行が受取人の口座から自動的に引き落とすわけではない。

仮にA銀行からB銀行の口座へ振り込み、組戻しを希望する場合、手順としてはこうだ。まず振込人が、A銀行へ組戻しを申し込む。依頼を受けたA銀行は、B銀行を介して受取人に返金の意思確認を行う。相手方が同意した場合は返金されるが、同意が得られなければ手続きは完了しない。また、組戻しには所定の手数料(※数百円~1000円前後)がかかり、振込人の負担となる。

「組戻しなら銀行間で処理されるため、偽の口座に振り込んでしまうリスクを避けられます。言われるがまま相手方の指定した口座に振り込むよりも、まずは組戻しを利用するように交渉したほうが安全です」

誤送金と知りながら使用すれば「詐欺」に当たる可能性も

しかし、もし受取人が返金を拒んだり、誤送金と知りながら使ってしまった場合は、どのような法的責任が生じるのか。

「誤送金と知りながら返金が遅れた場合、民事では遅延損害金が発生します(民法704条)。さらに銀行から引き出したり使ったりする行為は、刑事では詐欺罪などに問われる可能性があります。誤って振り込まれたことを知りながら、それを告げずに銀行で払い戻しを受ける行為は、最高裁判例でも詐欺にあたるとされています」

ただし荒川弁護士によれば、「給与や売上金などの正当な入金だと勘違いして使っていた場合は、犯罪の故意がないとみなされ、刑事責任は問われにくい」という。

「同じ『使ってしまった』でも、勘違いか故意かで法的評価は大きく変わります。もしお金を使ってしまい返金できない場合には、分割払いの交渉はできます。ただし、誤送金した側には分割払いに応じる義務はありません。誤って渡したお金を取り戻す権利(不当利得返還請求権)があるからです。よって分割での返済を希望する場合は、話し合いでの合意が必要となります」

一方で、返金を求める側にも注意すべき点があるという。

「度を超えた取り立てや脅すような言動をとったり、相手の個人情報を一方的に公開したりすれば、脅迫や名誉毀損、プライバシー侵害などの責任を問われる可能性があります。誤送金した側であっても、その後の対応を誤れば、新たなトラブルの加害者になり得るのです」

私的な返金交渉のやり取りを暴露→刑事告訴のリスクも

今回の騒動では、返金交渉のメールがSNS上に公開されたことも問題視された。このような行為について荒川弁護士は、「メールに書かれた内容が事実であっても、公開した側が民事・刑事の名誉毀損など、法的責任を問われる可能性はある」と指摘する。

「名誉毀損は、民事・刑事いずれも、内容が真実であっても成立することがあります。『事実だから公開しても問題ない』というわけではありません。公共の利害に関わり、公益目的があるなど一定の要件を満たす場合のみ、違法性が阻却され、名誉毀損を免れることはあります。

ただし今回のような私的な返金交渉のやり取りを暴露するケースでは、公益目的があるとは認められにくいです。悪質な場合には、企業側が名誉毀損を理由に損害賠償請求することや、名誉毀損罪で刑事告訴することも考えられます」

では、信用毀損罪や業務妨害罪についてはどうか。

「信用毀損罪や業務妨害罪は、虚偽の情報を流した場合が問題となるため、メールの内容をそのまま公開しただけでは成立しにくいでしょう。

もっとも、メール本文の公開は著作権の問題となり得ますし、メール内に記載された担当者の氏名やメールアドレスなどの個人情報をマスキングせず公開すれば、プライバシー侵害にあたる可能性があります。投稿の削除請求や、損害賠償請求などの民事上の措置を取られるリスクも負います」

さらに今回の事例では、メールの公開をきっかけに企業側の担当者個人が特定され、顔写真が第三者によってSNS上で拡散された。この点についても荒川弁護士は、「拡散した人に法的責任が生じる可能性が高い」と指摘する。

「一担当者個人の氏名や顔写真をさらして拡散する行為は、その個人に対するプライバシー侵害、肖像権侵害、名誉毀損にあたる可能性があります。そのため、会社とは別に、担当者個人から損害賠償請求されるリスクもあります」

現時点で女性は返金の有無について公表しておらず、一連のトラブルがどのように決着したのかは明らかになっていない。身に覚えのない入金があった場合は、安易に使わず、事実関係を確認したうえで冷静に対応することが重要だ。

■倉本菜生
1991年福岡生まれ、京都在住。龍谷大学大学院にて修士号(文学)を取得。専門は日本法制史。フリーライターとして社会問題を追いながら、近代日本の精神医学や監獄に関する法制度について研究を続ける。主な執筆媒体は『日刊SPA!』『現代ビジネス』など。精神疾患や虐待、不登校、孤独死などの問題に関心が高い。X:@0ElectricSheep0/Instagram:@0electricsheep0